『夏の夜の夢』の連作(1870年 )より「ハーミアとライサンダー (Hermia and Lysander )」
ジョン・シモンズ (John Simmons、1823年 – 1876年 )は、おもに妖精 の世界を美しく捉えた場面や、シェイクスピア などの文学作品を題材に描いた水彩画で知られる、イギリス のミニアチュール (細密画)画家、イラストレーター で[ 1] 、特に『夏の夜の夢 』の連作などがよく知られている[ 2] 。妖精の絵を描き「森の牧歌というジャンル (a genre of forest idyll)」を作り上げたヴィクトリア朝 を代表する一群の人気画家のひとりであった[ 3] 。彼らはしばしばラファエル前派 とひとくくりにされる[ 4] 。シモンズはブリストル に住み、肖像画も手がけていた[ 5] 。1849年 には、ブリストル美術アカデミーの会員に選ばれている[ 6] 。1876年 11月に死去し、アーノス・ベイル墓地 (英語版 ) に埋葬された[ 7] 。
「夏の夜の夢」(1873年 )
妖精画
典型的な妖精画 (英語版 ) は、ヴィクトリア朝の文化とともに、ロマン主義 文学の影響力にも強く根を張っている。こうした影響の中でも最も顕著なものは、シェイクスピアの『夏の夜の夢 』や『テンペスト 』といった主題である。このほかにも、エドマンド・スペンサー の『妖精の女王 』や、アレキサンダー・ポープ の『髪盗人 』などが、影響を与えたものとして言及される[ 8] 。
シモンズは、女性の妖精を、しばしば裸体で描く、専門家として知られていた[ 5] 。ボナムス (英語版 ) のオークションにおける解説によれば、彼の1873年 のある作品は「夏の夜の夢」の場面を描いたものであり、この主題の作品としては「最も優れた、最も大胆な作例」であるという[ 2] 。妖精画への関心は、19世紀にリバイバルし、鑑賞者は絵画に描かれた想像の世界をみて、しばし現実を忘れ、ヴィクトリア朝の日常生活の厳格さから逃れることができた[ 2] 。シモンズの作品の大部分は、簡素で、通常はひとりかふたりを中心人物として描き、回りの枠組は木の葉によって象られている。ティターニア (『夏の夜の夢』に登場する妖精の女王)は、主題としてしばしば取り上げられており、デリケートな形で衣をまとった様々なポーズで描かれている[ 2] 。ボナムスによれば、シモンズは「妖精の女王をヴィクトリア朝的な女性美の標準として」描いているといい[ 2] 、さらに「うねるように配された花々やコンボルブルス (英語版 ) (セイヨウヒルガオ)が装飾的なモチーフとされ、シモンズはロマンティックに中央の人物たちに枠付けをして、物語が演じられる舞台を作り出しているのである。現実と夢幻の境界を嘲笑いながら、彼はシェイクスピア劇の詩的な解釈を生み出しているのだ」としている[ 2] 。
シモンズによるティターニア の描写の一部は、妖精の女王に、より大きな性的魅力を帯びさせることになった[ 9] [ 10] 。 ヴィクトリア朝 美術の専門家であるクリストファー・ウッド (Christopher Wood) によると[ 11] 、シモンズの技法は、極めて細部に至る描写を活用したジョゼフ・ノエル・ペイトン の影響を示しているという[ 12] 。ウッドはまた、シモンズのスタイルに影響を与えたものとして、さらにウィリアム・エドワード・フロスト (英語版 ) とウィリアム・エッティ の名を挙げている[ 13] 。シモンズの妖精画は、巧みな光の使い方と動植物の写実的な細部描写によって、超現実的な効果を生んでいる[ 14] 。ウッドは、シモンズの「コンボルブルスの中の妖精 (A Fairy among Convulvulus )」を、「シモンズの典型的なピンナップ (a typical Simmons pin-up)」 だと述べ[ 15] 、こうした絵画が「明確な(性的)くすぐり (distinctly titillating)」であるという仮説を提示している[ 16] 。このほかの、シモンズによる妖精画には、同じくシェイクスピアの『夏の夜の夢』による「ハーミアと妖精たち (Hermia and the Fairies )」(1861年 完成)[ 17] 、「マルハナバチから盗むミツバチ (The Honey Bee Steals from the Bumble Bees )」[ 18] 、「宵の明星 (The Evening Star )」[ 19] などがある。
脚注
^ Menges, Jeff A., ed (2009). 120 Great Victorian Fantasy Paintings . Mineola, New York: Dover. p. 111. ISBN 9780486990040 . https://books.google.com/books?id=kd5gOw5OLMYC&pg=PA111
^ a b c d e f “Lot 52 John Simmons ”. Bonhams (2013年7月10日). 2014年11月15日 閲覧。
^ Clute, John; Grant, John, eds. (1997). "Illustration 1. Fairyland and its denizens". The Encyclopedia of Fantasy . New York: St. Martin's. ISBN 9780312145941 。
^ Burke, Jessica (2007). “"How now, spirit! Wither wander you?" Diminution: The Shakespearean Misconception and the Tolkienian Ideal of Faërie” . In Croft, Janet Brennan. Tolkien and Shakespeare: Essays on Shared Themes and Language . Critical explorations in science fiction and fantasy. 2 . Jefferson, North Carolina: McFarland. p. 31. ISBN 9780786428274 . https://books.google.com/books?id=-WGaDtnHUOYC&pg=PA31
^ a b Wood, p. 124.
^ “Bristol Academy of the Fine Arts” . Bristol Mercury (3084): p. 8. (28 April 1849). http://www.britishnewspaperarchive.co.uk/viewer/bl/0000034/18490428/029/0008
^ “The late Mr John Simmons” . Western Daily Press (5767): p. 3. (1876年11月18日). http://www.britishnewspaperarchive.co.uk/viewer/bl/0000264/18761118/018/0003
^ “Victorian Fairy Painting from the Frick Collection ”. Antiques and the Arts Online. November 2014 閲覧。
^ Wood, Christopher (2000). Fairies in Victorian Art . Woodbridge: Antique Collectors' Club. p. 126. ISBN 9781851493364 . https://books.google.com/books?ei=eLt4VLPnEsnVoATbkoGwDQ&id=M0RIAQAAIAAJ&dq=John+Simmons+fairies&focus=searchwithinvolume&q=John+Simmons
^ Harvey, Ralph (2008). Simply Fairies . New York: Sterling/Zambezi. p. 29. ISBN 9781402744884 . https://books.google.com/books?id=wa98g_1gdmAC&pg=PA29
^ “Obituary of Christopher Wood”, The Daily Telegraph : p. 29, (27 January 2009)
^ Wood, p. 144.
^ Wood, p. 13.
^ Nahum, Peter. “John Simmons ”. The Leicester Galleries. 2014年12月21日時点のオリジナル よりアーカイブ。2014年12月21日 閲覧。
^ Wood, p. 128.
^ Wood, p.124.
^ Wood, p. 8.
^ Wood, pp. 126–127.
^ Wood, p.129.