アラン・クーパー(Alan Cooper、1952年6月3日 - )は、アメリカ合衆国のソフトウェア設計者、プログラマであり、「Visual Basicの父」として広く認知されている[1]。また、著書About Face: The Essentials of Interaction DesignやThe Inmates Are Running the Asylum: Why High-Tech Products Drive Us Crazy and How to Restore the Sanityでも知られている。インタラクションデザインコンサルティングのリーディングカンパニーであるクーパー社を創業して目的主導型設計手法を生み出し、ハイテク製品を生み出すための実用的なインタラクションデザインツールとして「ペルソナ」の活用を先駆的に提唱した。2017年4月28日、クーパーは、「Visual BASICにおいてビジュアル開発環境を発明し、インタラクションデザインとその基本ツールの分野を確立した先駆者」として、コンピュータ歴史博物館の「コンピュータの殿堂」の殿堂入りした[2][3][4]。
1975年に大学を卒業してすぐ、最初のマイクロコンピュータが市場に出回るようになると、クーパーはカリフォルニア州オークランドに最初の会社であるStructured Systems Group (SSG)を設立した。この会社は、最初のマイクロコンピュータ用のソフトウェア会社の1つであった[6]。SSG社の会計ソフト"General Ledger"は、『バイト』や『インターフェイス・エイジ』などの人気のマイクロコンピュータ雑誌に広告を出して販売されていた。このソフトウェアは、『Fire in the Valley』[注釈 1]の歴史的な記述によると、「おそらくマイクロコンピュータ向けの初の本格的なビジネスソフトウェア」[7]だった。これは、クーパーのソフトウェア作者としてのキャリアの始まりであると同時に、マイクロコンピュータ・ソフトウェア・ビジネスの始まりでもある。クーパーは、1980年に同社の株式の持分を売却するまでに、SSGで12本のオリジナル製品を開発した[8]。
クーパーの1冊目の著書About Face: The Essentials of User Interface Designは1995年に英語版が出版された。翌1996年には日本語版「ユーザーインターフェイスデザイン―Windows95時代のソフトウェアデザインを考える」として発刊された[20]。その中でクーパーは、実用的なデザイン原則を網羅して紹介した。本質的にはユーザーインターフェースにおけるソフトウェアデザインの体系化であり、本書冒頭の紹介の辞でAndrew Singerが「現在、ソフトウェアデザインに関する書籍は、事実上本書だけである」と結んでいる。業界や専門家の進化に伴い、第2版では、「インターフェイスデザイン」はより正確な「インタラクションデザイン」とされた。第2版の基本哲学は、プログラマに向けての"Do the right thing. Think about your users."(正しいこととはユーザのことを考えること)であった[21]。2014年に、About Face: The Essentials of Interaction Design[注釈 3]というタイトルで第4版が刊行され、これもいまだ「プロのインタラクションデザイナーのための基礎テキスト」と捉えられている。ここでクーパーは、アプリケーションの姿勢(英語版)(application posture)の考え方を紹介している。第1版ではデスクトップアプリケーションを君主的、臨時的、精霊的、寄生的の4種類の姿勢(posture)に分類した。画面にインターフェースが一つしかなくユーザーが長い時間それだけに集中しなければならないようなプログラムを「君主的姿勢」(sovereign posture)と呼び、一方でグラフィックスをスキャンするだけの単一機能のアプリケーションを「臨時的姿勢」(transient posture)と分類した。また、のちの版では、ウェブサイトにおける「情報提供的姿勢」(informational posture)と「トランザクション的姿勢」(transactional posture)について論じている。
クーパーは、1998年の著書The Inmates Are Running the Asylum: Why High-Tech Products Drive Us Crazy and How to Restore the Sanity[注釈 4]の中で、「目標指向設計」(Goal-Directed design)という彼の方法論を概説した。これは、ソフトウェアは、コンピュータの些細なことにユーザを誘惑するのではなく、ユーザの最終的な目標に向かってスピードを上げさせるべきだというコンセプトに基づいている[22]。これは1995年の著書の「イディオムとアフォーダンス」の項で、すでに「ユーザーが興味があるのは知識より結果である」として紹介されている概念[23]をより発展させたものである。この本の中でクーパーは、実用的なインタラクションデザインのツールとして「ペルソナ」という新しい概念を紹介している。この本の中での簡潔な説明により、ペルソナはその異常な力と有効性のために、ソフトウェア業界で急速に人気を博した[24]。今日では、インタラクションデザイン戦略の概念とペルソナの利用は、業界全体に広く浸透している。クーパーは、彼の2冊目の本のメッセージを、ビジネスマンに対する"know your users' goals and how to satisfy them. You need interaction design to do the thing right."(あなたのユーザの目標と、どうすれば彼らを満足させられるかを知りなさい。それを正しく行うためにはインタラクションデザインが必要である。)としている。クーパーは、顧客のニーズを満たすために、また、最初に正しく行うことでより良い製品をより早く構築するために、デザインをビジネスの実践に統合することを提唱している。
^Lohr, Steve (2001) Go To: The Story of the Math Majors, Bridge Players, Engineers, Chess Wizards, Maverick Scientists and Iconoclasts--The Programmers Who Created the Software Revolution. Basic Books. ISBN0-465-04226-0, 978-0-465-04226-5, pp.94
^Cooper, Alan (1998 and 2004). The Inmates Are Running the Asylum: Why High-Tech Products Drive Us Crazy and How to Restore the Sanity. Sams - Pearson Education. ISBN0-672-32614-0, 978-0-672-32614-1, pp. inside dust jacket