主星は、伴星から急速に質量を奪い、その周囲に降着円盤を形成している。降着円盤は、周囲を回転しながら主星に落ち込み、その過程で非常に高温へと熱せられて強いX線を放射し、高温の水素でできたジェットを回転の軸に沿って円盤の上下方向に噴出している。ジェットを構成する物質は、光速の約26%の速度で移動している[7], pp. 23-24; [14], p. 508.。伴星の初期質量は恐らく主星の初期質量より小さかったため、伴星の方が寿命が長くなっていると考えられる。主星の質量は太陽質量の1.9倍から4.9倍、伴星は太陽質量の8.5倍から12.7倍と見積もられている[5]。主星と伴星は、その共通重心の周りを太陽半径のおよそ58倍の距離をとって[15]、約13.1日の周期で公転している[14], p. 510.。
観測データ
主星からのジェットは、降着円盤と垂直に放出されている。主星は歳差運動しており、歳差の軸は視線方向から約79°傾斜している[16]。ジェットと歳差運動の軸との間の角度は約20°であり、歳差周期は約162.5日である[7]。歳差運動するということは、ジェットが地球の方向に近づく向きに噴き出す時と、地球から遠ざかる向きに噴き出す時とがあり、観測されるスペクトルはそれぞれ青色側、赤色側にドップラー偏移を引き起こす[14], p. 508.。また、歳差運動によって、ジェットのらせん状構造は、主星から離れるにつれ円錐状に広がっている[4]。ジェットが超新星残骸と衝突することで、W50(マナティー星雲)はジェットの噴き出す方向へ引き延ばされた形に歪んでいる[17]。
SS 433のスペクトルは、視線方向の運動によるドップラー偏移だけではなく、特殊相対性理論的ないわゆる「横ドップラー効果」の影響も受けている。即ち、ドップラー偏移の効果を除いても、秒速約1万2000kmに相当する赤方偏移を受けており、これは地球から遠ざかる星系の実際の視線速度ではなく、時間の遅れによるものだと考えられている。相対論的に運動するジェットが観測者からは遅れて見えるので、励起した原子の振動も遅れて見え、放射される電磁波が赤方偏移する[14], p. 508.。
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参考文献
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