FBXW11(F-box and WD repeat domain containing 11)またはβTrCP2(beta-transducin repeat containing protein 2)は、ヒトではFBXW11遺伝子によってコードされているタンパク質である[5]。
FBXW11はFボックスタンパク質ファミリーに属し、このファミリーはFボックスと呼ばれる約40残基の構造モチーフによって特徴づけられる。Fボックスタンパク質はSCF複合体と呼ばれるユビキチンリガーゼ複合体の4つのサブユニットのうちの1つを構成し、必ずではないものの多くの場合、基質をリン酸化依存的に認識する。Fボックスタンパク質は、WD40リピートを有するFbxw、ロイシンリッチリピートを有するFbxl、他の相互作用モジュールを有するか識別可能なモチーフを持たないFbxoの3つのクラスに分類される。FBXW11はFbxwクラスに属し、Fボックスに加えて複数のWD40リピートを有する。このタンパク質はツメガエルのβTrCP、酵母のMet30、アカパンカビのScon2、ショウジョウバエのSlimbと相同である。哺乳類にはβTrCP1(FBXW1)と呼ばれるパラログが存在するが、両者の機能は冗長的であり区別されていないようである。
発見
ヒトのβTrCP(βTrCP1とβTrCP2を合わせてこう呼ぶ)は、もともとHIV-1のVpuタンパク質が細胞のCD4タンパク質をタンパク質分解装置と連結して除去するために結合するユビキチンリガーゼとして同定された[6]。その後、βTrCPはさまざまな標的の分解を媒介し、複数の細胞過程を調節していることが示された[7]。細胞周期の調節因子は、βTrCPの基質を構成する主要なグループの1つとなっている。S期の間、βTrCPはホスファターゼCDC25A(英語版)の分解を促進することでCDK1の抑制状態を維持しているが[8]、G2期にはβTrCPはキナーゼWEE1(英語版)を分解標的とすることでCDK1の活性化に寄与する[9]。有糸分裂の序盤には、βTrCPはAPC/Cユビキチンリガーゼ複合体の阻害因子であるEMI1(英語版)の分解を媒介している[10][11]。APC/Cは、セキュリンの分解の誘導によって中期から後期への移行を担い、またCDK1を活性化するM期サイクリンサブユニットの分解を駆動することで有糸分裂の終結を担っている因子である。さらに、βTrCPはRESTを標的化することでMAD2の転写抑制を解除する。MAD2は紡錘体チェックポイントの必須の構成要素であり、全ての染色分体が紡錘体の微小管に接着するまでAPC/Cを不活性に維持している[12]。
機能
βTrCPは細胞周期チェックポイントの調節に重要な役割を果たしている。遺伝毒性ストレスに応答して、βTrCPはCHK1との協働のもとでCDC25Aの分解を媒介することでCDK1の活性をオフにし[8][13]、それによってDNA修復の完了前の細胞周期の進行を防いでいる。DNA複製とDNA修復からの回復時には、βTrCPはPLK1依存的にクラスピン(英語版)を標的とする[14][15][16]。
βTrCPはタンパク質の翻訳、細胞成長や細胞生存における重要な役割も浮上している。分裂促進因子に応答して、翻訳開始因子eIF4Aの阻害因子であるPDCD4(英語版)はβTrCP、S6K1(英語版)依存的に迅速に分解され、効率的な翻訳と細胞成長が可能となる[17]。βTrCPはmTORやCK1α(英語版)とも協働してDEPTOR(mTORの阻害因子)の分解を誘導し、mTORの十分な活性化を促進する自己増幅ループを形成する[18][19][20]。また、βTrCPはアポトーシス促進タンパク質BimELの分解を媒介し、細胞生存を促進する[21]。
βTrCPはリン酸化されたIκBα(英語版)やβ-カテニンの分解モチーフ(destruction motif)とも結合し、おそらくNF-κB経路やWnt経路を調節することで複数の転写プログラムにおいて機能している[22][23]。
相互作用
FBXW11またはβTrCPは次に挙げる因子と相互作用することが示されている。
臨床的意義
βTrCPは一部の組織ではがんタンパク質として振る舞う。βTrCPの発現上昇は、大腸がん[35]、膵がん[36]、肝芽腫[37]、乳がん[38]で観察されている。
出典
関連文献