戦中の1941年に旅行作家のヘンリー・ヴォラム・モートンが著した『I, James Blunt』は、「敗戦しナチスの支配下に入った1944年9月のイギリス」を舞台としたプロパガンダ小説である。ストーリーは占領の成り行きを記録する日記の形式で進んでいく。例えばイギリス人労働者がドイツへ移動させられたり、スコットランドの造船所でアメリカを攻撃するための軍艦が建造されたりといった描写がされる。最後にこの中編小説は、読者に向けて「この物語がフィクションに留まるか否か確かめよ」というメッセージを伝えて締めくくられる[7]。
1945年のアドルフ・ヒトラーの自殺から数か月たった後、ハンガリーの小説家ラスロ・ガスパルが、世界で初めてナチス・ドイツの勝利を「仮想史」として取り扱った小説を世に出した[1]。『We, Adolf I』 (アドルフ1世)と題されたこの小説は、「ドイツがスターリングラード攻防戦を制し、最終的に勝利したヒトラーが新たな近代の皇帝として戴冠する」という内容になっている。フランスのエッフェル塔やアメリカの自由の女神像などの要素を取り込んだ巨大な皇帝の宮殿がベルリンに建設され、独裁者はナルシシズムから、世界を支配する後継者を残すために日本の皇女との結婚を計画する、といった仮想史が語られている。
1946年、修正派シオニストの医師で政治活動家であるJacob Weinshallが、『Ha-Yehudi Ha'Aharon (היהודי האחרון)』と題したヘブライ語小説をテルアビブで出版した。英訳の『The Last Jew』というタイトルでも知られている。この小説は、「数百年後の未来、完全にナチスと『独裁者たちの連盟』が支配するようになった世界で、マダガスカルに潜んでいた最後のユダヤ人が発見される」という内容である。ナチスの支配者たちは、次のオリンピックでこのユダヤ人たちを公開処刑する計画を立てる。しかしこれが現実となる前に、ナチスの誤った植民計画の影響で月が地球に接近してくる。その結果として、人類文明と共にナチスの支配も破滅する、という筋書きである。2000年の時点で、原著のヘブライ語テキストは他のどの言語にも完訳されていない[8]。Yoram Kaniukの小説で英訳されたThe Last Jewとは全く別の作品である[9]。
演劇では、1947年に初演された『Peace in Our Time』がある。「ファシストに支配されたロンドン」を舞台とし、占領支配が一般の人々及ぼす有害な影響を描いている。イングランド人の劇作家である作者ノエル・カワードは、「イギリスへの地上侵攻」の際のゲシュタポのブラック・ブック(逮捕リスト)に自らの名を連ねている。当初この作品に対する反響は小さかったが、カワードのその後の作品や同様のテーマを持つ後の劇に、『Peace in Our Time』は21世紀にいたるまで影響を及ぼし続けている[6]。
What If?: The World's Foremost Military Historians Imagine What Might Have Been:ジョン・キーガン。「いかにヒトラーは戦争に勝つことができたのか」を論じている。
Virtual History: Alternatives and Counterfactualsニーアル・ファーガソン編。アンドリュー・ロバーツ、ニーアル・ファーガソンの"Hitler's England: What if Germany had invaded Britain in May 1940?"(ヒトラーのイングランド:1940年5月にドイツがイギリスに侵攻していたとしたら?)と、Michael Burleighの"Nazi Europe: What if Nazi Germany had defeated the Soviet Union?"(ヒトラーのヨーロッパ:もしナチス・ドイツがソビエト連邦を破っていたとしたら?)を載せている。
All About History シリーズの中には、2019年出版のWhat if...Book of Alternate Historyがある。この中にはWhat if...Germany had won the Battle of Britain? (もし……ドイツがバトル・オブ・ブリテンに勝っていたら?)とWhat if...The Allies had lost the Battle of the Atlantic?(もし……連合国が大西洋の戦いで負けていたら?)という2つの思考実験が収録されている。
Rosenfeld, Gavriel David. The World Hitler Never Made. Alternate History and the Memory of Nazism (2005).
Tighe, C., "Pax Germanica in the future-historical" in Amsterdamer Beiträge zur neueren Germanistik, pp. 451–467.
Tirghe, Carl. "Pax Germanicus in the future-historical". In Travellers in Time and Space: The German Historical Novel (2001).
Winthrop-Young, Geoffrey. "The Third Reich in Alternate History: Aspects of a Genre-Specific Depiction of Nazism". In Journal of Popular Culture, vol. 39 no. 5 (October 2006).