禁酒番屋(きんしゅばんや)は古典落語の演目の一つ。別名『禁酒関所』[1]。上方落語の演目だったものを三代目柳家小さんが江戸落語に持ち込んだ[1]。
主な演者
物故者
現役
あらすじ
とある藩で、無礼講で飲酒し酒に酔った二人の侍が喧嘩をし、一方が相手を斬り殺した。酔っていた為、同僚の侍を切り殺した侍は血の付いた刀を小屋に持ち帰った。翌朝起きて血の付いた刀を見て「えらい事をしてしまった」と酒の上での出来事とは言え、同僚を殺めた事を悔いて自ら切腹し死ぬという事件が起きる。酒の上で家来が二人命を絶ったことを重く見た主君は以後藩士が酒を飲むことを禁止するというお触れを出す。お触れが出て暫くは気が張っていて飲酒して小屋に戻る藩士はいなかったが、暫くすると気が緩んだのか飲酒し、酔って赤い顔のまま小屋に戻る藩士が出始めた為、重役会議が開かれて会議の結果屋敷の門には番屋が設けられ、出入りの商人の持ち込むものまで厳しく取り締まることになる。
ある日、家中の侍の中でも大酒飲みの筆頭である近藤が酒屋にやって来ると、お触れにもかまわず三升もの酒を一気に飲み、寝酒に用いたいと見つからないよう屋敷の部屋に一升届けてくれと無理なことを頼んで帰ってしまう。
亭主が頭を抱えていると小僧のひとりが、南蛮菓子のカステラに見せかけたらどうかと提案する。カステラの菓子折りに酒徳利を詰め、向こう横丁の菓子屋から半天一式を借りて菓子屋に成り済まして小僧が屋敷に持っていくが、番屋で進物とした為、中身を取り調べられずに済んだのに菓子折を持ち上げる際にカステラだから重くないはずなのにどっこいしょと言ってしまい、「お主、今異な事を申したな。何と言った?」と問われ、小僧が正直に「どっこいしょ」と答えると、「どっこいしょ?カステラが重い訳があるまい」と言われ「口癖なんですよ」と誤魔化そうとするも如何にも嘘だと即座に見透かされて折を開けられてしまう。番屋の役人たちは徳利の中身を改めるという名目で代わる代わるその酒を飲み、結局すべて飲み干していい気分に酔っ払ったあげく「この偽り者め」と小僧を追い返してしまう。
カステラで失敗したので今度は油屋になり油だとごまかそうとしたが、これも失敗して酒はすべて役人に飲まれてしまう。
都合二升もの酒をただで飲まれて酒屋の一同は腹を立て、仕返しとして徳利に小便を詰めて持っていく。既にへべれけになっている番屋の役人たちが中身は何かと聞くと、小僧は計画通り正直に「小便でございます」と答える。どうせまた酒を持ってきたのだろうと思っている役人たちは小僧の言葉など信じず、中身を飲むとこれが小便。小僧を叱りつけようとするが「初めに小便と申し上げました」と言われて言葉に詰まってしまい、「うーん、あの、ここな正直者めが!」
攻防戦の演出
酒を売りたいと思う「酒屋」と、表向きは阻止したいが内心は役目と称して酒が飲みたいと思う「禁酒番屋」の攻防を面白おかしく演じる。上方の型では、オチが上記のあらすじの後にあり、裏門へまわされて糞(ばば)食わされるというオチである[1]。興津要は、あまり汚らしく演じると不快感があり、痛快さが減少すると評した[1]。
例えば手代が思わず「ドッコイショ」と言ってしまい、怪しまれてしまうという演出は5代目柳家小さんが採用したものである。また、以前は「小石川新坂の安藤という旗本屋敷」と限定されていた「禁酒する藩」を、ぼやかして演じたのも五代目の演出である。
関連項目
酒の出てくる噺
- 『居酒屋』:居酒屋で酔っ払いが、店の小僧相手に大騒ぎ。
- 『富久』:お酒が原因で失業した幇間が、火事見舞いに行ってまた泥酔してしまう。
- 『棒鱈』:料理屋で泥酔した江戸っ子が、うるさい隣室に怒鳴り込んで大暴れする。
- 『らくだ』:お通夜の酒で酔っ払った紙屑屋が、騒動の原因を作ったヤクザ相手に立場を逆転させて暴走する。
- 『試し酒』:大店・近江屋と馴染みの旦那が、下男の久蔵が五升飲めるかどうか賭けをする。
食のイタズラ噺
- 『ちりとてちん』:何を食べてもおいしいとは言わない六さんを懲らしめようと、腐ってカビが生えた豆腐を「台湾名物ちりとてちん」と偽って食べさせようとする。
- 『家見舞』:知り合いの引越祝いの品として、水瓶をあげようと思うが、金がないため、使用済みの肥瓶を水瓶としてプレゼントする。
脚注
- ^ a b c d 興津要『古典落語続』講談社、2004年3月、306頁。