パウル・コハンスキ
神話 ヴァイオリンとピアノのための3つの詩曲 作品30 (しんわ ヴァイオリンとピアノのための3つのしきょく さくひん30、ポーランド語 : Mity. Trzy poematy na skrzypce i fortepian op. 30 、仏 : Mythes pour violon et piano op. 30 )は、カロル・シマノフスキ とパウル・コハンスキ が1915年 に作曲したヴァイオリン とピアノ のための作品。ギリシア神話 を題材とした標題音楽 で、シマノフスキの代表作の一つである。
概要
シマノフスキの中期(印象主義 時代)の作品。第一次世界大戦 中の1915年 3月から6月にかけて、ウクライナ のザルジェで《夜想曲とタランテラ 作品28 》と同時進行で作曲され、ヴァイオリニスト であるパウル・コハンスキ の妻ゾフィア・コハニスカ[ 注 1] に献呈された[ 注 2] 。《メトープ 作品29 》(波 : Metopy op. 29 )、《仮面劇 作品34 (英語版 ) 》(波 : Maski op. 34 )と合わせて「3M 」と呼ばれる。これら3作品は、標題 が暗示する雰囲気の表現を重視した小品3曲から成り立っている点や、古代文明 や東方 への強い関心の表れなど、共通した特徴を持っている。この曲では、フラジオレット やトレモロ 、スル・ポンティチェロ 、弓 とピッツィカート の同時演奏、重音奏法 、そして四分音 などが用いられており、中には20世紀後半頃から一般的になる奏法も取り入れられている。
1915年 4月5日 、キエフ でコハンスキとシマノフスキにより第1曲《アレトゥーサの泉》が初演された。1916年 5月10日 には、ウーマニ で同じ2人により全曲が演奏された。1921年 、ウニヴェルザール出版社 から初版が出版された。
影響
シマノフスキのヴァイオリン作品はバルトーク・ベーラ に影響を与えており、特にバルトークの2曲の《ヴァイオリンソナタ》は、この曲にヒントを得た部分がある。実際にバルトークはセーケイ・ゾルターン とともに《神話》を演奏し、ウニヴェルザール社に対して楽譜にある誤植の指摘も行った。また、セルゲイ・プロコフィエフ はこの作品を聴いた後すぐにコハンスキのもとへ自身の《ヴァイオリン協奏曲第1番 》の相談を持ちかけた。
シマノフスキ自身は、作曲後15年経った1930年 3月5日 付のゾフィア・コハニスカへの手紙の中で次のように書いている。
パウルと私は、ヴァイオリン演奏の新しい表現スタイルを《神話》と《協奏曲 》において実現させました。これは本当に画期的なことです。他の作曲家がこの様式に近い作品を創り上げるとしたら、それがどんなに素晴らしいものであっても、この2作品から影響を受けて後に書かれたものか、あるいはパウルが直接貢献したものなのです。
— シマノフスキ、Iwanicka-Nijakowska, Anna (2007年9月). “Karol Szymanowski, "Mity op. 30" ” (ポーランド語). Culture.pl. 2022年5月14日 閲覧。
曲の構成
第1曲
副題は《アレトゥーサの泉 (英語版 ) 》(波 : Zródło Aretuzy 、仏 : La Fontaine d'Aréthuse )。作曲当初は《魅惑の泉》(波 : Zaczarowane źródło 、仏 : La source enchantée )と題されていた。三部形式 で、主音 は変ホ 、イ で三全音 の関係にある。
アレトゥーサ はアルテミス に仕えるニンフ の一人で、彼女に惚れたアルペイオス に追われてオルテュギア島 に逃れ、泉に姿を変えた。アルペイオスは地下水となって海底を流れ後を追い、彼女の泉に己の水を混ぜたという。シマノフスキはこの泉を実際に訪れ、そのとき受けた印象をこの作品にまとめたという。これらの水の動きは変ホを主音とする五音音階 とイ短調 の複調 で表される。
シマノフスキのヴァイオリン作品においてピアノの役割は異例なほどに大きく、時にはヴィルトゥオーソ を動員しなければならない。特にこの曲について、伴奏者のジェラルド・ムーア は次のように書いている。
シマノフスキのヴァイオリン曲におけるピアノは、ヴァイオリンと同じ重要性をもっている。《アレトゥーサの泉》では私どもの仕事はヴァイオリニストの仕事よりもさらにむずかしい。こういうと議論の的になるかもしれないし、またさだめしヴァイオリニストたちは私の考え方に不賛成だろう……(中略)この作品にはタッチの非常にうるわしい軽さ、完全なペダルの使用、すぐれた強弱のできるピアニストが必要である。公平にいえば、たぶんすぐれたヴァイオリニストも必要だとつけ加えねばなるまい。
— ジェラルド・ムーア、日本シマノフスキ協会 編『シマノフスキ 人と作品』春秋社 、1991年5月20日、102頁。ISBN 9784393931097 。
第2曲
副題は《ナルキッソス 》(波 : Narcyz 、仏 : Narcisse )。主音はロ 。
冒頭部分は増四度 と完全四度 とを重ねた上層部と、その下にドミナント性の和音、装飾音とバスが奏でられる。
ミクソリディア旋法 の中間部では二度と七度の平行和音が特徴的である。三全音が支配的であった《アレトゥーサの泉》とは対照的に、旋法性が優位に立っている。
第3曲
副題は《ドリュアデス とパン 》(波 : Driady i Pan 、仏 : Dryades et Pan )。主音はニ 。
ドリュアス は木の精霊 でドリュアデスはその複数形であり、パンは半人半獣の神。この曲は《神話》の中でも特に描写性が高く、冒頭部分では森の囁きを四分音 で表現している。
中盤に現れる無伴奏のハーモニクスの旋律は、ドリュアスの派手な踊りがパンの笛 で遮られる場面である。パンの笛をフラジオレット で表現している。シマノフスキのユーモラスでいたずら好きな一面が目につく作品である。
主な録音
脚注
注釈
出典
参考文献
書籍
オンラインの情報源
外部リンク