中野貴志

中野 貴志(なかの たかし、1961年12月19日[1] - )は日本物理学者大阪大学教授大阪大学核物理研究センター長。理学博士京都大学、1991年)。大阪市出身。2003年7月大型放射光施設SPring-8で合計五つのクォークと反クォークから構成されている重粒子ペンタクォークの存在を確認した、と主張。

略歴

学歴

職歴

受賞歴

  • 2003年 - 「レーザー電子ガンマ線による新粒子の発見」の業績により仁科記念賞を受賞
  • 2020年 - 第2回日本オープンイノベーション大賞 日本学術会議会長賞「先導的な量子ビーム応用によるスマートな健康長寿社会の創出」を受賞

ペンタクォークの発見は誤りだった

2002年、中野貴志らは、ペンタクォークを発見したと発表した。しかし、その他の多くの実験グループはペンタクォーク状態が存在する証拠を発見できず、2005年にはペンタクォークの発見は誤りだったと結論された。特に、トーマス・ジェファーソン国立加速器施設(米国バージニア州ニューポートニューズ)を使った研究チームは、SPring-8と同様の測定を行い、さらに多くのデータを得た上でペンタクォークの存在を否定した。 このエピソードは、科学者がデータにだまされ、そこにある以上のものを見いだしてしまうことがある好例と見なされた。[2]

K値

2020年に流行した新型コロナウイルスを巡っては、感染収束のスピードを、直近1週間の感染者数を累計の感染者数で割った数字で予測する独自理論の『K値』を公表し、コロナウイルス感染症の拡大・収束動向を見極める実用的な指標だと主張した[3]。同年5月14日には吉村洋文大阪府知事大阪府が用いている「大阪モデル」の数値基準の一つと考え方が近いとして取り上げたことでマスコミの脚光を浴びた[4]。6月12日の大阪府の専門家会議に出席した中野はコロナ第1波の終息について「自然減の可能性がある」と指摘し国や大阪府が3月以降行った自粛要請には「効果が無かった」と断言した。吉村はこれに対し「その時の判断として必要だったと思うが、一つの有力な意見だ」と強い関心を示した[5]。この後、「大阪モデル」には一部K値の考え方が導入され、経済活動を重視して赤信号を灯しにくくする変更にかじを切った。しかし、「K値」の予測では第2波は7月上旬には感染者数がピークアウトする見通しであったのに対し、その後も感染者は増え、K値による感染状況の予測には狂いも生じた[6]。2020年11月には、Journal of Medical Internet Research英語版査読済、オープンアクセス誌)に掲載された[7]。また、中野はコロナ第3波について「2020年11月にはピークを越える」と予測した[8]。しかし、2021年に入っても状況は悪化の一途をたどったため、政府が緊急事態宣言を出すに至った。 東京大学大学院数理科学研究科教授の稲葉寿は武見基金 COVID-19有識者会議に寄稿した「感染症数理モデルとCOVID-19」において、K値を「流行の要素ともいうべき各ゴンペルツ曲線を生成するメカニズムが解明されない以上、事後的にデータを再現することができても、現象の因果的理解には寄与しないし、流行予測としては機能しないであろう。」と評価した。[9]

脚注

  1. ^ 『読売年鑑 2016年版』(読売新聞東京本社、2016年)p.420
  2. ^ ペンタクォークをLHCで発見”. Nature (2015年7月16日). doi:10.1038/ndigest.2015.151010. 2022年10月5日閲覧。
  3. ^ 中野貴志教授(核物理研究センター)による論文等(K値について)”. 大阪大学. 2020年12月3日閲覧。
  4. ^ “新指標『K値』を吉村知事が重要視「大阪モデルの数値基準の一つ(感染源不明者の7日間移動平均)も考え方は近い」”. 中スポ(中日新聞). (2020年5月14日). https://www.chunichi.co.jp/article/23933 2020年12月3日閲覧。 
  5. ^ “大阪モデルの「過剰な要請は不要」だった? 指摘を受けた吉村知事は…”. 毎日新聞. (2020年6月13日). https://mainichi.jp/articles/20200612/k00/00m/040/241000c 2020年12月14日閲覧。 
  6. ^ “天を仰いだ吉村知事の“演出” うがい薬、大阪モデル…科学を都合よく利用?”. 毎日新聞. (2020年8月22日). https://mainichi.jp/articles/20200821/k00/00m/040/122000c 2020年12月14日閲覧。 
  7. ^ Takashi Nakano and Yoichi Ikeda (2020). “Novel Indicator to Ascertain the Status and Trend of COVID-19 Spread: Modeling Study”. J Med Internet Res (JMIR Publications) 22 (11): e20144. doi:10.2196/20144. PMID 33180742. 
  8. ^ “コロナ第3波「11月末にピーク越え」 第2波のピークを的中させた研究者が予測”. デイリー新潮. (2020年12月3日). https://www.dailyshincho.jp/article/2020/12030557/ 2023年12月26日閲覧。 
  9. ^ 稲葉寿 (2020年12月18日). “感染症数理モデルとCOVID-19”. https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/3925. 2022年10月5日閲覧。