ボッタルガ は、地中海料理 で使われる食材・珍味。ボラ やマグロ の卵巣を塩漬け・乾燥にしたもので、カラスミ の一種[ 1] 。
各国語名
呼称
イタリア語でボッタルガ(bottarga, bottarica )。フランス標準語ではブタルグ(boutargue, poutargue )であるが、産地プロヴァンス 地方の方言であるオック語 では botarga となり、スペイン語 やカタロニア語 でも botarga と綴る。ポルトガル語 butarga 、サルデーニャ語 butàriga、ギリシア語アヴゴタラホ(αυγοτάραχο )。英語でボターゴ(botargo )である。
語源
イタリア語形「ボッタルガ」は、アラビア語 بطارخة buṭarḫah (複数形 「バターレフ」buṭariḫ بطارخ )に由来すると考察される。さらに遡及すると原語は中世ギリシア語 「オイオタリホン」(ᾠοτάριχον [oiotárikhon ] < ᾠóν 「卵」 + τάριχον )で、直訳すると「魚の塩漬け(ピクルス)」である[ 2] [ 3] [ 4] 。
イタリア語形「ボッタルガ」は、少なくとも1500年頃までには用語として成立している。バルトロメオ・プラティナ (英語版 ) 著『正しい食卓がもたらす喜びと健康』( De Honesta Voluptate et Valetudine 、1474年 頃。印刷本として世界最古の料理本)では、ギリシャ語名の音写である ova tarycha と記するのみであったが、同書のイタリア語への翻訳写本では、botarghe と記している[ 5] 。
ギリシア語の最初の用例は、11世紀のシュメオン・セト (英語版 ) の著述で「オイオタリホン」を「完全に避けるべき」食材としている記述とされているが[ 6] 、一方では、同然の成句は、太古ヘレニズム時代にも用例があるとの指摘がある。この太古の「魚の卵の塩漬け」が「ボッタルガ」と同一かは考証が難しいが、その可能性は示唆されている[ 7] 。
オックスフォード英語辞典 等では、ギリシア語形からコプト語 形 outarakhon を経てアラビア語に借用されたとしているが[ 2] 、むしろギリシア語から直接アラビア語圏にもたらさたとみる学説がある[ 3] [ 注 1] 。現代ギリシア語名は、卵を意味する中世ギリシア語接頭語ᾠó- を、現代語のαυγό に置き換えて「アヴゴタラホ」という語を形成した。
製造方法
日本のカラスミと同様にボラ の卵巣を原料にしたものが一般的だが、このほかクロマグロ の卵巣を使用した種類があり、イタリア語でこれらを区別する場合、ボラのものを「ボッタルガ・ディ・ムッジネ」、マグロのものを「ボッタルガ・ディ・トンノ 」と称する。サルデーニャ島 名産のボラの卵のボッタルガは琥珀色で「サルディーニャの金」とも呼ばれている[ 1] 。ほかにメカジキ の卵を使う製品もある[ 9] [ 10] 。卵巣は、塩漬けにし、数週間ほど乾燥・熟成させる。変性して硬い扁平形の塊となり、保存性を高めるために蜜蝋 でコーティングして固めることもあるが、自然の卵巣の外膜のままの製品もつくられる[ 11] [ 12] [ 13] 。
調理法
薄切りにしたり、チーズおろし 等で粉末状にして使う。
イタリアでは、シチリア島 、サルデーニャ島の郷土料理で知られる。代表的なのは、オリーブ油とレモン汁であえて、パンを添えたり、クロスティーニ として楽しむ[ 11] [ 13] 。また、削ったりすりおろした粉末をからめたボッタルガのパスタも定番[ 9] [ 11] 。
ギリシアでは、内海の湾で水揚げされたボラで作られる。メソロンギ 産のアヴゴタラホは、欧州連合 (EU)およびギリシアの原産地名称保護制度 (PDO)に指定されている数少ない海産物のひとつである[ 14] [ 15]
[ 16] 。
トルコやギリシアで「タラマ」とは魚卵で作る前菜のことで、タラモサラタ は、その「サラダ」を意味するが、本来はボラの卵を使う。だが現在では一般的にはタラ やコイ のオレンジ色の卵が代用品として使われる[ 17] 。
トルコ産のボラの卵巣の塩漬けは、スローフード 運動の「味覚の方舟」(en:Ark of Taste )[ 18] に、“haviar”という名で登録されている。産地は、トルコ南西岸のダルヤン で、キョイジェイズ湖 (英語版 ) より回遊してきた成魚を原料とする[ 19] 。
ボッタルガは、北アフリカ、モーリタニア [ 20] 、セネガル [ 21] 、アメリカ合衆国フロリダ 州[ 22] [ 23] などでも生産されている。
脚注
注釈
^ オックスフォード英語辞典の説ではアラビア語形「バターレフ」に「B」音が出現した理由が説明ができない。むしろ、ギリシア語では地域によって卵のことを「ウヴォン、オヴォ、ヴォ」などと発音したので、それらからアラビア語形が派生されたとみるのが妥当とされる。卵を意味するギリシア語は、ポントス方言 (原料のボラの産地)では ὠβόν 、小アジアでは ὀβό や βό などの形態をとったのである[ 3] 。オックスフォード英語辞典 では、アラビア語での最古の用例はアル=マクリーズィー による1400年頃の記述とするが、これはQuatremère (Journal de Savants 誌1848年1月号)が即席で挙げた例であって、それが最古とする考証は不十分だとされる[ 8] 。
出典
^ a b 美味しいヨーロッパ アウトバウンド促進協議会、2021年12月10日閲覧。
^ a b "botargo" . Oxford English Dictionary (3rd ed.). Oxford University Press . September 2005. (要購読、またはイギリス公立図書館への会員加入 。)
^ a b c Hughes, John P.; Wasson, R. Gordon (1947), “The Etymology of Botargo”, The American Journal of Philology 68 (4): 414-418 JSTOR 291531
^ Dalby, Andrew (2013). Siren Feasts . Routledge. p. 189. ISBN 0-415-11620-1 . https://books.google.co.jp/books?id=I4UeyRkqgvQC&pg=PA189
^ Hughes & Wasson 1947 , p. 415, n4。写本はアメリカ議会図書館 の稀覯本室のBitting Collection収蔵本。プラティナによるラテン語表記は、ギリシア語のὠβά τάριχα の音写ではないか、とする。
^ Andrew Dalby, Siren Feasts , 1996, ISBN 0-415-11620-1 , p.189
^ ᾠά τάριχα 「(魚の)卵の塩漬け」が、前3世紀のシフノス島 ディフィロス (英語版 ) の著述に在り、アテナイオス III, 121 Cに引用されている(Hughes & Wasson 1947 , p. 415)
^ Hughes & Wasson 1947 , p. 417–418
^ a b All About 編集部, ed (2013). 死ぬまでに食べたい! 世界の五大珍味 . 株式会社オールアバウト. https://books.google.co.jp/books?id=VXIlAAAAQBAJ&pg=PA7
^ Coroneo, V. (2009). Brandas, V., Sanna, A., Sanna, C., Carraro, V., Dessi, S., Meloni, M.. “Microbiological characterization of botargo. Classical and molecular microbiological methods” . Industrie Alimentari 48 (487): 29-36. http://www.cabdirect.org/abstracts/20093112173.html;jsessionid=B9E73C6777AEE82BBC5C25B7191DE1B6 .
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^ "Imraguen Women's Mullet Botargo", Slow Food Foundation for Biodiversity, full text Archived 2014年4月9日, at the Wayback Machine .
^ "La Bottarga tra Sardegna e Senegal", Affrica , 1 June 2010, full text
^ Chris Sherman, "Roe, Roe, Roe at Mote", Florida Trend , 10/4/2012 full text
^ John T. Edge, "Bottarga, an Export That Stays at Home", New York Times July 22, 2013 full text
関連項目