テラビット・イーサネット(Terabit Ethernet, TbE)は、イーサネットで100 Gbit/sを超える通信速度を持つネットワーク規格の総称。
1 Tbps (1000 Gbps)の通信速度を目指して開発が進められており、2024年現在 200Gbps・400Gbps・800Gbpsの通信速度を持つプロトコルが標準化されている。
歴史
100GbEが標準化された2010年代初頭から、FacebookやGoogleが早くもTbEの必要性を表明している[1]。同時期にカリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)は、アジレント・テクノロジー、Google、インテル、ロックウェル・コリンズ、ベライゾン・コミュニケーションズから助成を受けて次世代イーサネット研究支援を開始した[2]。
2012年後半から2013年初頭にかけて、IEEE IC (Industry Connections)プロジェクトのHigher Speed Ethernet Consensusグループでは、次世代の目標として400GbEの実現を掲げることにした。1000 Gbps動作するTbEの実現には課題が多く新機軸の技術が必要になる可能性があるが、400 Gbpsであれば既存技術の応用で実現可能と見込まれたためである[3][4]。さらに、2016年1月には200GbEの追加目標が掲げられた[5]。
2014年3月27日、IEEEは200/400Gbpsの標準化プロジェクトP802.3bsを設置[6]し、100GbEとほぼ同じ技術を流用して策定作業を進めた[7][8]。以降、200GbE/400GbE規格が相次いで承認されている。
2020年以降、800Gbpsおよび1.6Tbpsの通信速度もIEEEのロードマップで示され[19]、これらの実現には1レーン112GbpsのSERDES動作が要求される見通しが立てられた[20][21]。その後、800GbE規格は以下のものが承認されている。
市場動向
2016年にはすでに200Gと400G用のベンダ独自のソリューションが提供されている。シスコシステムズやジュニパーネットワークスなどが発売しているシャーシ・モジュール構成のコアルータ製品は400Gbps全二重通信をサポートしており、ラインカード(英語版)(スロット挿抜モジュール)は100GbEを1〜4ポート、400GbEを1ポート装備したものが利用できる。802.3cd承認後の2019年には200GbEのラインカードもアルカテル・ルーセントから発売された[24]。
2022年にシスコシステムズが800GbEスイッチ[25]を、2024年にノキアが800GbE対応ルータ[26]をリリースしている。
規格一覧
2024年現在までにIEEE 802.3で標準化が策定されているTbE関連規格について媒体ごとに概説する[27][15][17][22]。
光ファイバーケーブル
光ファイバーケーブルによる接続では、短距離用にマルチモードファイバー(OM3, OM4, OM5)を、長距離用にシングルモードファイバー(OS1, OS2)を用いた接続が規定されている。
200GbE 光ファイバーケーブル規格
名称 |
規格(項番) |
ケーブル・ 距離長 |
ケーブル 本数 |
波長 |
符号化[28][29][30]
|
200GBASE-DR4
|
802.3bs-2017 (Clause121)
|
OS2: 500 m
|
8
|
1311 ± 6.5 nm
|
4レーン × 50GbEベース[注 1]
|
200GBASE-FR4
|
802.3bs-2017 (Clause122)
|
OS2: 2 km
|
2
|
1271 – 1331 nm (4波長WDM)
|
4レーン × 50GbEベース[注 1]
|
200GBASE-LR4
|
802.3bs-2017 (Clause122)
|
OS2: 10 km
|
2
|
1295.56 – 1309.14 nm (4波長WDM)
|
4レーン × 50GbEベース[注 1]
|
200GBASE-SR4
|
802.3cd-2018 (Clause138)
|
OM3: 70 m OM4: 100 m
|
8
|
850 nm
|
4レーン × 50GbEベース[注 1]
|
200GBASE-ER4
|
802.3cn-2019 (Clause122)
|
OS2: 40 km
|
2
|
1295.56 – 1309.14 nm (4波長WDM)
|
4レーン × 50GbEベース[注 1]
|
200GBASE-VR2
|
802.3db-2022 (Clause167)
|
OM3: 30 m OM4: 50 m
|
4
|
850 nm
|
2レーン × 100GbEベース[注 2]
|
200GBASE-SR2
|
802.3db-2022 (Clause167)
|
OM3: 60 m OM4: 100 m
|
4
|
850 nm
|
2レーン × 100GbEベース[注 2]
|
400GbE 光ファイバーケーブル規格
名称 |
規格(項番) |
ケーブル・ 距離長 |
ケーブル 本数 |
波長 |
符号化[28][29][30]
|
400GBASE-SR16
|
802.3bs-2017 (Clause123)
|
OM3: 70 m OM4: 100 m OM5: 100 m
|
32
|
850 nm
|
16レーン × 25GbEベース[注 3]
|
400GBASE-FR8
|
802.3bs-2017 (Clause122)
|
OS2: 2 km
|
2
|
1273−1309 nm (8波長WDM[注 4])
|
8レーン × 50GbEベース[注 1]
|
400GBASE-LR8
|
802.3bs-2017 (Clause122)
|
OS2: 10 km
|
2
|
1273−1309 nm (8波長WDM[注 4])
|
8レーン × 50GbEベース[注 1]
|
400GBASE-DR4
|
802.3bs-2017 (Clause124)
|
OS2: 500 m
|
8
|
1311 ± 6.5 nm
|
4レーン × 100GbEベース[注 2]
|
400GBASE-ER8
|
802.3cn-2019 (Clause122)
|
OS2: 40 km
|
2
|
1273−1309 nm (8波長WDM[注 4])
|
8レーン × 50GbEベース[注 1]
|
400GBASE-SR8
|
802.3cm-2020 (Clause138)
|
OM3: 70 m OM4: 100 m OM5: 100 m
|
16
|
850 nm
|
8レーン × 50GbEベース[注 1]
|
400GBASE-SR4.2
|
802.3cm-2020 (Clause150)
|
OM3: 70 m OM4: 100 m OM5: 150 m
|
8
|
850 nm, 912 nm (2波長1芯双方向)
|
8レーン × 50GbEベース[注 1]
|
400GBASE-FR4
|
802.3cu-2021 (Clause151)
|
OS2: 2 km
|
2
|
1271−1331 nm (4波長WDM)
|
4レーン × 100GbEベース[注 2] ベンダ間合意規格に基づく[31]。
|
400GBASE-LR4-6
|
802.3cu-2021 (Clause151)
|
OS2: 6 km
|
2
|
1271−1331 nm (4波長WDM)
|
4レーン × 100GbEベース[注 2]
|
400GBASE-VR4
|
802.3db-2022 (Clause167)
|
OM3: 30 m OM4: 50 m OM5: 50 m
|
8
|
850 nm
|
4レーン × 100GbEベース[注 2]
|
400GBASE-SR4
|
802.3db-2022 (Clause167)
|
OM3: 60 m OM4: 100 m OM5: 100 m
|
8
|
850 nm
|
4レーン × 100GbEベース[注 2]
|
400GBASE-DR4-2
|
802.3df-2024 (Clause124)
|
OS2: 2 km
|
8
|
1311 ± 6.5 nm
|
4レーン × 100GbEベース[注 2]
|
400GBASE-ZR (策定中)
|
802.3cw[32] (Clause155/156)
|
OSx: 80 km
|
2
|
(未定)
|
59.84375 Gbaud, DP-16QAM
|
800GbE 光ファイバーケーブル規格
名称 |
規格(項番) |
ケーブル・ 距離長 |
ケーブル 本数 |
波長 |
符号化
|
800GBASE-VR8
|
802.3df-2024 (Clause167)
|
OM3: 30 m OM4: 50 m OM5: 50 m
|
16
|
850 nm
|
8レーン × 100GbEベース[注 2]
|
800GBASE-SR8
|
802.3df-2024 (Clause167)
|
OM3: 60 m OM4: 100 m OM5: 100 m
|
16
|
850 nm
|
8レーン × 100GbEベース[注 2]
|
800GBASE-DR8
|
802.3df-2024 (Clause124)
|
OS2: 500 m
|
16
|
1311 ± 6.5 nm
|
8レーン × 100GbEベース[注 2]
|
800GBASE-DR8-2
|
802.3df-2024 (Clause124)
|
OS2: 2 km
|
16
|
1311 ± 6.5 nm
|
8レーン × 100GbEベース[注 2]
|
ダイレクトアタッチケーブル
データセンター内サーバなどのLAN短距離接続として、Twinaxケーブルを用いた接続が規定されている。
名称 |
規格(項番) |
コネクタ・ トランシーバ |
距離長 |
符号化
|
200GBASE-CR4
|
802.3cd-2018 (Clause136)
|
QSFP56, microQSFP, QSFP-DD, OSFP
|
3 m
|
4レーン × 50GbEベース[注 1]
|
200GBASE-CR2
|
802.3ck-2022 (Clause162)
|
QSFP112
|
2 m
|
2レーン × 100GbEベース[注 2]
|
400GBASE-CR4
|
802.3ck-2022 (Clause162)
|
QSFP-DD
|
2 m
|
4レーン × 100GbEベース[注 2]
|
800GBASE-CR8
|
802.3df-2024 (Clause162)
|
QSFP-DD800, OSFP
|
2 m
|
8レーン × 100GbEベース[注 2]
|
バックプレーンイーサネット
1メートルの基板上配線で通信するための物理層仕様が規定されている。
名称 |
規格(項番) |
距離長 |
配線本数 |
符号化
|
200GBASE-KR4
|
802.3cd-2018 (Clause137)
|
1 m
|
8
|
4レーン × 50GbEベース[注 1] 挿入損失: 30 dB以下(at 13.28125 GHz)
|
200GBASE-KR2
|
802.3ck-2022 (Clause163)
|
1 m
|
4
|
2レーン × 100GbEベース[注 2] 挿入損失: 28 dB以下(at 26.56 GHz)
|
400GBASE-KR4
|
802.3ck-2022 (Clause163)
|
1 m
|
8
|
4レーン × 100GbEベース[注 2] 挿入損失: 28 dB以下(at 26.56 GHz)
|
800GBASE-KR8
|
802.3df-2024 (Clause163)
|
1 m
|
16
|
8レーン × 100GbEベース[注 2] 挿入損失: 28 dB以下(at 26.56 GHz)
|
チップ間インタフェイス
PCS・PMD間接続インタフェイスとして以下のAUIが規定されている。
名称 |
規格(項番) |
距離長 |
配線本数 |
符号化
|
200GAUI-8
|
802.3bs-2017 (Annex120B/C)
|
25 cm
|
16
|
8レーン × 25GbEベース(FEC付加)[注 5]
|
200GAUI-4
|
802.3bs-2017 (Annex120D/E)
|
25 cm
|
8
|
4 レーン × 50GbEベース[注 1]
|
200GAUI-2
|
802.3ck-2022 (Annex120F/G)
|
25 cm
|
4
|
2レーン × 100GbEベース[注 2]
|
400GAUI-16
|
802.3bs-2017 (Annex120B/C)
|
25 cm
|
32
|
16レーン × 25GbEベース(FEC付加)[注 5]
|
400GAUI-8
|
802.3bs-2017 (Annex120D/E)
|
25 cm
|
16
|
8 レーン × 50GbEベース[注 1]
|
400GAUI-4
|
802.3ck-2022 (Annex120F/G)
|
25 cm
|
8
|
4レーン × 100GbEベース[注 2]
|
800GAUI-8
|
802.3df-2024 (Annex120F/G)
|
25 cm
|
16
|
8レーン × 100GbEベース[注 2]
|
注釈
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 50Gbps = 26.5625 Gbaud × 256b/257b × 514/544 (RS-FEC) × 2bit/baud (PAM4)
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 100Gbps = 53.125 Gbaud × 256b/257b × 514/544 (RS-FEC) × 2bit/baud (PAM4)
- ^ 25Gbps = 25.78125 Gbaud × 64b/66b × 1bit/baud (NRZ)
- ^ a b c ここで用いる波長は、以下のように2つの波長帯にわかれている。
- 1273.5449, 1277.8877, 1282.2603, 1286.6629 nm (229.0, 229.8, 230.6, 231.4 THz)
- 1295.5595, 1300.0540, 1304.5799, 1309.1374 nm (233.0, 233.8, 234.6, 235.4 THz)
- ^ a b 25Gbps = 25.78125 Gbaud × 256b/257b × 528/544 (RS-FEC) × 1bit/baud (NRZ)
参考文献
外部リンク
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速度 | |
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全般 | |
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組織 | |
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媒体 | |
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歴史的な規格 | |
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応用 | |
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トランシーバ | |
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インターフェース | |
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機器 | |
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