ソブリン・ウエルス・ファンド(英: Sovereign Wealth Fund、略: SWF)は、政府が出資する投資ファンド。政府系ファンド[1]、国富ファンド[2]、主権国家資産ファンド[3]などとも称される。
概要
石油や天然ガスによる収入、外貨準備高を原資とすることが多い。
近年、世界的な資源価格急騰により資源供給国の割合が増えつつある。
モルガン・スタンレーの推計によると、2007年5月時点の世界のSWFの資産総額は2.5兆ドルであり、ヘッジファンドの規模を上回るとされている[4]。
大規模な投資をするため市場への影響が大きく、透明性が求められている他、政治的意図をもった投資を懸念する声もある。
アラブ首長国連邦のアブダビ投資庁(ADIA)、シンガポールのテマセクとシンガポール政府投資公社(GIC)、マレーシアのカザナ・ナショナル、サウジアラビアのサウジアラビア通貨庁、中国の中国投資有限責任公司(CIC)などが有名である。アブダビ投資庁は世界最大規模と言われている。日本でも設立が議論されている。
大規模なソブリン・ウエルス・ファンド
以下に挙げられているものは、大規模な(運用資産額が100億ドルを超える)ソブリン・ウェルス・ファンドである(イスティスマールを除く)。
国
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ファンド名
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運用資産[5]
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設立
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原資
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国民一人当たりの資産
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アブダビ首長国 |
アブダビ投資庁(ADIA) |
6,270億ドル |
1976年 |
石油 |
$1,000,000
|
ノルウェー |
ノルウェー政府年金基金(GPF) |
6,110億ドル |
1990年 |
石油 |
$74,500
|
中国 |
中国国家外国為替管理局(SAFE) |
5,679億ドル(推定) |
1997年 |
Non-commodity (非コモディティ、外貨準備高など) |
|
サウジアラビア |
サウジアラビア通貨庁(SAMA) |
5,328億ドル |
n/a |
石油 |
$15,000
|
中国 |
中国投資有限責任公司(CIC) |
4,396億ドル |
2007年9月28日 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
$151
|
クウェート |
クウェート投資庁(KIA) |
2,960億ドル |
1953年 |
石油 |
$80,000
|
香港 |
香港金融管理局(HKMA)[注 1] |
2,933億ドル |
1993年 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
|
シンガポール |
シンガポール政府投資公社(GIC) |
2,475億ドル |
1981年 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
$100,000
|
シンガポール |
テマセク・ホールディングス(TH) |
1,572億ドル |
1974年 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
$35,400
|
カナダ |
カナダ年金制度投資委員会[6](CPPIB) |
1,528億ドル[7] |
1997年 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
$12,800
|
ロシア |
ロシア連邦安定基金(SFRF) ロシア連邦国民福祉基金(NWF) |
1,497億ドル(合算) |
2004年1月1日 2008年 |
石油 |
$1,180
|
中国 |
中国国家社会保障基金(NSSF) |
1,345億ドル |
2000年 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
|
カタール |
カタール投資庁(QIA) |
850億ドル |
2005年 |
石油、天然ガス |
$250,000
|
オーストラリア |
オーストラリア未来基金[注 2] |
730億ドル |
2004年 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
$2,900
|
ドバイ首長国 |
ドバイ投資公社(ICD) |
700億ドル |
2006年 |
石油 |
|
リビア |
リビア投資庁(LIA) |
650億ドル |
2006年 |
石油 |
$7,200
|
アルジェリア |
アルジェリア歳入調整基金[8](FRR[注 3]) |
567億ドル |
2000年 |
石油 |
|
韓国 |
韓国投資公社(KIC) |
430億ドル |
2005年 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
$417
|
アメリカ合衆国 (アラスカ州) |
アラスカ永久基金[注 4](APFC) |
411億ドル[9] |
1976年 |
石油 |
$61,000
|
カザフスタン |
カザフスタン国家基金[10](KNF[注 5]) |
386億ドル |
2000年 |
石油 |
$1170
|
マレーシア |
カザナ・ナショナル(KN) |
368億ドル |
1993年 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
$658
|
アゼルバイジャン |
アゼルバイジャン国家石油基金(SOFAZ)[11] |
302億ドル |
2001年[注 6] |
石油 |
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アイルランド |
アイルランド国民年金積立基金(NPRF[注 7])[12] |
300億ドル |
2001年 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
|
ブルネイ |
ブルネイ投資庁(BIA[注 8]) |
300億ドル |
1983年 |
石油 |
$90,100
|
フランス |
フランス国家戦略投資基金[13](FSI[注 9]) |
280億ドル |
2008年 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
|
アブダビ首長国 |
ムバーダラ・ディベロプメント・カンパニー(MDC) |
271億ドル |
2002年 |
石油 |
|
アメリカ合衆国 (テキサス州) |
テキサス州永久学校基金[注 10][注 11](PSF[注 12]) |
244億ドル[注 13] |
1854年 |
石油その他(公有地運用収益なども含む) |
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イラン |
国家開発基金(NDF)[14][注 14] |
230億ドル |
2011年[注 15] |
石油 |
$174
|
チリ |
チリ経済社会安定化基金(ESSF)[15][注 16] |
218億ドル[注 17] |
1985年[注 18] |
銅鉱石 |
|
カナダ (アルバータ州) |
アルバータ州遺産貯蓄信託基金[16](AHSTF)[注 19] |
151億ドル |
1976年 |
石油 |
n/a
|
台湾 |
台湾国家安定化基金(NSF[注 20]) |
150億ドル[17] |
2000年 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
$652
|
アメリカ合衆国 (ニューメキシコ州) |
ニューメキシコ州投資協議会(SIC)[18][注 21][注 22] |
143億ドル |
2003年 |
Non-commodity (税収入・公有地運用収益など) |
n/a
|
ニュージーランド |
ニュージーランド退職年金基金(NZSF)[19] |
135億ドル |
2003年 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
n/a
|
アメリカ合衆国 (テキサス州) |
テキサス州永久大学基金[注 23](PUF) |
123億ドル[20] |
2008年 |
Non-commodity (公有地運用収益) |
n/a
|
ブラジル |
ブラジル政府ファンド[注 24](FSB[注 25]) |
113億ドル |
2008年 |
Non-commodity (外貨準備高など) |
n/a
|
ドバイ首長国 |
イスティスマール[注 26] |
n/a |
2003年 |
石油 |
n/a
|
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日本の状況
各国のSWFは資源による収入が多く、資源を持たない国の場合は外貨準備や年金を運用しており、日本の場合後者にあたる。いわば元手は借金で運用に伴うリスクは国民にあるという構図が成り立つので、日本の財務省は基本的に反対の立場をとっている。現在100兆円に膨らんだ外貨準備の運用先として検討されているが、外貨準備の大半は米国債であり、外貨準備の運用をSWFに切り替えた場合の債券市場に与える影響は大きい。130兆円に上る年金積立金の一部運用も検討されているが年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は人件費削減対象で、高給のファンドマネージャーの採用は困難でありSWFの導入には体制見直しの可能性もある。以上のような理由から、SWFは資源国以外の先進国では現在のところ少数派である。
2007年(平成19年)11月5日に 自民党内に山本有二前金融担当相と田村耕太郎前内閣府大臣政務官(金融担当)を中心に、資産効果で国民を豊かにする議員連盟という日本の政府系ファンド早期創立を目指す議員連盟が設立した。当時の参加者は42人。内閣府特命担当大臣(金融担当)(当時)の渡辺喜美は党本部の設立総会で、官民の資産をどう運用するかを検討すると述べた[21]。
脚注
注釈
- ^ SWFIの表記では、「香港金融管理局投資ポートフォリオ」(Hong Kong Monetary Authority Investment Portfolio)となっている。
- ^ この日本語訳は定訳ではない。例えば、この経済産業省の資料 (PDF) では「未来基金」の訳が用いられているが、この厚生労働省の資料 (PDF) では「将来基金」との訳が用いられている。
- ^ フランス語名“Fonds de régulation des recettes”に従った略称。英語名は“Revenue Regulation Fund”であり、略称も“RRF”となる。
- ^ この日本語訳は定訳ではない。この訳はこの外務省ホームページ内の資料による。この「永久基金」という訳の他にも、このふくおかフィナンシャルグループ調査月報 (PDF) のように、「恒久基金」と訳している例もある。
- ^ “Kazakhstan National Fund”の略。
- ^ 前掲駐日アゼルバイジャン共和国大使館のホームページの資料によれば、2001年とされている。一方で、前掲SWFIの資料によれば、1999年とされている。
- ^ “National Pension Reserve Fund”の略。
- ^ “Brunei Investment Agency”の略。
- ^ “Fonds stratégique d'investissement”の略。英語では“Strategic Investment Fund”となるので、略称は“SIF”となる。
- ^ 日本語訳の定訳はない。
- ^ 本基金は、テキサス州内の公立学校の運営資金に収益を活用するべく設立されたものである。なお、公立大学(州立大学)については後述の通り「大学永久基金」が別途置かれている。
- ^ “Permanent School Fund”の略。
- ^ 前掲SWFIの資料による。また、PSFを運用するテキサス州教育庁(TEA)が公開している2011会計年度(2010年9月1日 - 2011年8月31日)のアニュアル・レポート (PDF) によれば、2011会計年度末時点での資産残高は269億ドルであった。
- ^ かつて存在した石油安定化基金(OSF)に代わるものとして新たに設立された。
- ^ 前身であるOSFの設立は1999年(ただし、前掲中央アジア・コーカサス研究所の資料によれば、2000年設立とされている)。
- ^ かつては銅資源の産出による利益を原資としていたことから、銅安定化基金(Fondo de Compensación del Cobre、略称:FCC)と呼ばれていた(参照:国会図書館にてオンライン公開されている財務省の資料 (PDF) )。
- ^ 前掲の野村資本市場研究所による資料によれば、チリにはESSFの他にも、同じく銅資源による利益を原資とした年金準備基金が存在しており、この額はESSFに加えて年金準備基金の資産も合算した数値である可能性がある。両基金は政府系ファンドであり、チリ中央銀行が財務代理人として運営を行っている点や投資ポートフォリオの内容などでも類似点が多い。
- ^ 現行の体制・名称となったのは2006年。
- ^ 基金の運用は、2008年に設立されたアルバータ投資管理公社(Alberta Investment Management Corporation、略称:AIMCo)が担当する。
- ^ “National Stabilisation Fund”の略。
- ^ 前掲SMRJの資料によれば、SICは“Land Grant Permanent Fund”(直訳すれば「公有地払い下げ永久基金」)、“Severance Tax Permanent Fund”(直訳すれば「サービス税永久基金」)、“Tabacco Settlement Permanent Fund”(直訳すれば「タバコ和解永久基金」)という3つの永久基金を運用しているとのことである。これら3つのファンドは、その名称からそれぞれ公有地から得た収益、サービス税の税収入、全米各州と大手タバコ会社の間で結ばれた包括的和解契約(MSA)によってタバコ会社より支払われる金銭を原資にしていると考えられる。
- ^ 前掲SMRJの資料によれば、実際に資金運用を行っているのは同じ州政府の機関である投資局(SIO)である。
- ^ 日本語訳の定訳はない。この訳は、英語名称を直訳したものである。
- ^ 日本語訳の定訳はない。この訳は、ポルトガル語の名称およびその英訳名称を直訳したものである。
- ^ “Fundo Soberano do Brasil”の略
- ^ イスティスマールに関しては、ドバイ・ショックによるドバイ経済の悪化とドバイ政府の財政難などの影響から、2009年に投資活動を中止したと見られており、現在の活動実態は不明である。(参照:「ドバイ政府系イスティスマルが事業再編で投資中止-関係者」 (日本語) ブルームバーグの記事。2009年9月11日掲載・2012年3月15日閲覧。
出典
関連項目