DST 識別子 記号 DST , BPA, BPAG1, CATX-15, CATX15, D6S1101, DMH, DT, EBSB2, HSAN6, MACF2, dystonin, BP230, BP240, EBS3外部ID OMIM: 113810 HomoloGene: 134369 GeneCards: DST オルソログ 種 ヒト マウス Entrez Ensembl UniProt RefSeq (mRNA) RefSeq (タンパク質) 場所 (UCSC) Chr 6: 56.46 – 56.95 Mb n/a PubMed 検索[ 2] n/a ウィキデータ
ジストニン (英: Dystonin、BP230 、BPAG1 )は、ヒト遺伝子DST にコードされたタンパク質 で、数種類のアイソフォーム がある。神経 組織 、筋 組織 、上皮組織 に存在する。上皮組織に発現するアイソフォーム(ジストニン-e)は、BP230 (ビーピー ツーサーティ、BPAG1e )とも呼ばれ、神経組織に発現するアイソフォーム(ジストニン-a)はBPAG1a 、筋組織に発現するアイソフォーム(ジストニン-b)はBPAG1b とも呼ばれている。
プラキン (plakins) ファミリーの一員である[ 3] 。プラキンの上位はスペクトラプラキン (spectraplakins) なので、スペクトラプラキンファミリーの一員でもある[ 4] 。
用語
別称一覧
BP230; BPAG1; BPAG1e; BPAG1a; BPAG1b; DT; BPA; DMH; BP240; HSAN6; MACF2; CATX15; CATX-15; D6S1101; bullous pemphigoid antigen 1; trabeculin-beta; dystonia musculorum protein; hemidesmosomal plaque protein; bullous pemphigoid antigen 1, 230/240kDa
上皮組織 の半接着斑 の研究者は、ジストニンという名称をほとんど使用せず、BP230という呼称を多用する。
上皮組織のジストニン・アイソフォーム「ジストニン-e」の別名であるBP230の「BP」は、皮膚病 の病名である「B ullous p emphigoid 」(水疱性類天疱瘡 )の頭文字で、つづく「230」は、タンパク質 の分子量 が230 kDaという意味である。つまり、水疱性類天疱瘡 の患者で発見された分子量230 kDaのタンパク質という含意である。誤解されないように書くが、患者で発見されたが、患者特有のタンパク質ではなく、健常なすべてのヒトに存在する。
BP230の別名「BPAG1e」の「BP」は、上記の通り「B ullous p emphigoid 」(水疱性類天疱瘡 )の頭文字で、「AG1」は「抗原 (a ntig en)の1番目」と言う意味である。「e」は「e pithelial(上皮の)」の頭文字である。
神経 組織 のジストニン・アイソフォーム「ジストニン-a」は、BPAG1a とも呼ばれる。筋 組織 のジストニン・アイソフォーム「ジストニン-b」は、BPAG1b とも呼ばれる。
発見
BP230の発見
1953年、米国・ハーバード大学 のウォルター・レーバー (Walter F. Lever) が老人の表皮 の水泡を水疱性類天疱瘡 (bullous pemphigoid:BP) として最初に記載した[ 5] 。
1967年、レーバーは、水疱性類天疱瘡の患者が自分の皮膚の基底膜 に対する抗体 (自己抗体 )をつくっていることを、蛍光抗体法 (immunofluorescence ) で発見した[ 6] 。病気の原因を、自己抗体が自分の皮膚を破壊するためだと突き止めた。
1986年、米国のジョンズ・ホプキンス大学 のディアズは、水疱性類天疱瘡の患者の自己抗体を使い、免疫ブロッティング法 で、自己抗体に反応する5つのタンパク質(つまり、抗原 )を同定した。内2つが主要で、分子量は240 kDaと180 kDaだった。2つとも、半接着斑 に局在することも確かめられた[ 7] 。240 kDaは、後に230 kDaと修正(さらに315 kDaと修正)されるが、この記事で説明するタンパク質・BP230である。なお、180 kDaはBP180 だった。
1989年、cDNAが単離され、塩基配列が解明され、ヒト染色体6にあると同定された[ 8] [ 9] 。
ジストニンの発見
図2.ジストニア患者
1995年、カナダ・モントリオールがん研究所のラシミ・コタリー(Rashmi Kothary)が、マウスの遺伝的な神経変性疾患 であるジストニア (Dystonia musculorum)の原因遺伝子を突き止め、病名の「Dystonia musculorum」に因んで「dystonin」(ジストニン)と命名した。判明したアミノ酸配列から、ジストニンは半接着斑 のタンパク質・BP230に類似のタンパク質であると判明した[ 10] 。
ジストニン・アイソフォーム
半接着斑 の研究界では、ジストニンという名称を使用しないでBP230と呼ぶ人が多いが、2013年9月現在、BP230はジストニンのアイソフォームの1つに統合されつつある。
ジストニン-a:神経組織のジストニン・アイソフォーム。別名、BPAG1a 。
ジストニン-a1
ジストニン-a2
ジストニン-a3
ジストニン-b:筋組織のジストニン・アイソフォーム。別名、BPAG1b 。
ジストニン-b1
ジストニン-b2
ジストニン-b3
ジストニン-e:上皮組織のジストニン・アイソフォーム。別名、BP230 、BPAG1e 。
構造
図3. ジストニンのドメイン構造。上皮組織のジストニン-e(BP230、BPAG1e)。神経組織のジストニン-a(BPAG1a)。筋組織のジストニン-b(BPAG1b)。プラキン ドメインは、スペクトリン リピート構造(SR:spectrin repeats)が4つ(青色の楕円)、次いで、SH3ドメイン (src homology 3 domain)(SH3)が1つ(紫色の長方形)、そして、再びスペクトリンリピート構造がある。ロッドドメイン(rod domain)は、2つのコイルドコイル (CC:coiled coils)構造からなる(橙色の長方形)。中間径フィラメント 結合ドメイン(IFBD:intermediate filament-binding domain)は2つのプラキン繰返し構造からなる(白色の2個の長方形)。アクチン 結合ドメイン(ABD:actin-binding domain)は、2つのカルポニン相同ドメイン(calponin homology domains)(黄色の2個の長方形)からなる。微小管 結合ドメイン(MTBD:microtubule-binding domain)(赤色の長方形)。
N末端側からC末端側へと説明する。図3のドメイン構造モデルに対応して説明する[ 11] [ 12] 。
上皮組織のジストニン-e(BP230、BPAG1e)は、315 kDaの大きなタンパク質である。
N末端側にプラキン ドメイン (plakin domain)がある。プラキンドメインは、スペクトリン リピート構造(SR:spectrin repeats)が4つ(青色の楕円)、次いで、SH3ドメイン (src homology 3 domain)(SH3)が1つ(紫色の長方形)、そして、再びスペクトリンリピート構造が4つあるドメインである。
ついでロッドドメイン(rod domain)がある。ロッドドメインは、2つのコイルドコイル (CC:coiled coils)構造からなる(橙色の長方形)。このドメインでジストニン-eどうしが結合し、二量化する。
C末端側に中間径フィラメント 結合ドメイン(IFBD:intermediate filament-binding domain)があり、中間径フィラメントに結合する。中間径フィラメント結合ドメインは2つのプラキンリピート構造からなる(白色の2個の長方形)。
神経組織のジストニン-a(BPAG1a)は、615 kDaと巨大なタンパク質である。
図3に示していないが、ジストニン-aのN末端側のABD(アクチン 結合ドメイン)(黄色)のさらにN末端側にペプチドが異なる3種類のアイソフォーム(a1/a2/a3)がある。付加したペプチドに細胞膜への結合活性があり、アイソフォームにより機能は大きく異なる。
ジストニン-a1:付加なし
ジストニン-a2:ABDのさらにN末端側に膜貫通ドメイン(TM:transmembrane domain)が付加している。そのために、細胞内から膜に結合できる。
ジストニン-a3:ABDのさらにN末端側にミリストイル化 モチーフ (短いペプチド構造)(MYR:Myristoylation motif)が付加している(ジストニン-a2の膜貫通ドメインはない)。そのために、細胞内から膜に結合できる。
N末端側にABDがあり、アクチン線維に結合する。アクチン結合ドメインの内部は、2つのカルポニン相同ドメイン(calponin homology domains)(黄色の2個の長方形)である。
ついで、ジストニン-eと全く同じ構造のプラキンドメインがある。
次に、スペクトリンリピート構造がたくさんある(青色の楕円)。
C末端側近くの赤色の手前に2つのEFハンド のCa++ 結合ドメインがある。
C末端側に微小管 結合ドメイン(MTBD:microtubule-binding domain)があり(赤色の長方形)、微小管に結合する。
筋組織のジストニン-b(BPAG1b)は、834 kDaとさらに巨大なタンパク質である。
ジストニン-bのアイソフォームもジストニン-aと同じ以下の3種類がある。付加するペプチドは、ジストニン-aと全く同じである。
ジストニン-b1
ジストニン-b2
ジストニン-b3
N末端側にジストニン-aと同じABDがあり、アクチン線維に結合する。
ついで、ジストニン-eやジストニン-aと全く同じ構造のプラキンドメインがある。
次に、2つのプラキンリピート構造がある(白色の2個の長方形)。図3では書き落としたが、ここはIFBDであり、中間径フィラメントに結合する。
次に、ジストニン-aとよく似たスペクトリンリピート構造がたくさんある(青色の楕円)。
ジストニン-aと同じだが、C末端側近くの赤色の手前に2つのEFハンドCa++ 結合ドメインがある。
ジストニン-aと同じ、C末端側にMTBDがあり(赤色の長方形)、微小管に結合する。
機能
BP230の機能
図4.半接着斑の構造模型と構成タンパク質
上皮組織のジストニン-e(BPAG1e)は、図4では「BP230」と示してある。半接着斑 (ヘミデスモソーム)の細胞膜裏打ちタンパク質 で、細胞内のケラチン 線維と膜貫通タンパク質 (transmembrane protein)であるインテグリン (integrin)α6β4、BP180 、CD151 に結合し、半接着斑 (ヘミデスモソーム)の接着構造を細胞の内側から支える。角化細胞 (ケラチノサイト)の半接着斑の形成と機能維持、極性形成、運動に必須である。
ジストニンの機能
神経組織と筋組織のジストニンは、アクチン 結合ドメイン、中間径フィラメント 、微小管 結合ドメインがある。ジストニンは、神経細胞内でこれら3種類の細胞骨格に結合する。さらに、細胞膜貫通ドメインや膜結合のミリストイル化 モチーフ (短いペプチド構造)を持つので、細胞膜にも結合し、細胞の骨格構造の形成・維持、細胞の生物機能の場の確保に重要な役割を果たしていると思われる。また、ゴルジ体に存在するジストニンは、微小管の重合の核となり、微小管構造の安定性を維持している。シュワン細胞 では、特に、ミエリン鞘 の形成に必須である[ 13] 。
遺伝子欠損マウス
1995年、BP230遺伝子 欠損マウス(BP230 KO)の作成が発表された[ 14] 。マウスは、致死ではなく、成体になる。半接着斑 の形態、細胞増殖「細胞‐基質接着」も正常である。異常な点は、半接着斑の細胞内に細胞骨格が結合していないことだった。予想外のことに、このマウスには、強度のジストニア と感覚神経退行の症状が見られた。「予想外のこと」というのは、BP230遺伝子 欠損マウス論文発表時点では、BP230がジストニンと同一タンパク質だということが知られていなかったためである。同じ年の1995年の論文で、同一だと報告された[ 10] 。
病気
ある種の水疱性類天疱瘡 (bullous pemphigoid:BP)は、患者が自分の皮膚のジストニン-e(BP230、BPAG1e)に対する抗体 (自己抗体 )をつくるために生じる皮膚病である。
ある種のジストニア (Dystonia musculorum)は、神経組織や筋組織のジストニンの異常が原因である。変異遺伝子を持つと遺伝的ジストニア になる。
応用・特許
上記の病気の予防・診断・治療に関する医薬品 や研究器材への応用が大いに期待できるが、有効な医薬品はまだ登場していない。
脚注
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関連項目
外部リンク