シキミモドキ科 (シキミモドキか)(ウィンテラ科[ 4] 、学名 : Winteraceae )は被子植物 のカネラ目 に属する科 の1つである。常緑性 の木本 であり、多くの被子植物 とは異なり道管 をもたない。花 は不特定数の花弁 や雄しべ をもち、雌しべ の心皮 が二つ折りで縁が完全には合着していない不完全心皮であることが知られている。精油 を含み、英名で「… pepper」とよばれるものが多い[ 5] 。東南アジア からオセアニア 、マダガスカル 、メキシコ から南米 に分布し、日本に自生種は存在しない。5属 100種 ほどが知られる。
特徴
常緑性 の小高木 から低木 であり[ 1] [ 6] [ 5] 、つる性の種も知られる[ 7] (下図2a, b)。節は3葉隙 性[ 6] [ 8] 。道管 を欠く[ 6] [ 5] [ 8] [ 7] 。師管 の色素体 はS-type[ 6] 。精油 細胞をもつ[ 6] [ 8] 。ときにアルカロイド を含み、プロアントシアニジン が存在、フラボノイド としてクェルセチン をもち、エラグ酸 を欠く[ 6] 。
葉 は互生 し、ふつう螺生する[ 1] [ 6] [ 8] (上図2c)。葉は単葉 、ふつう革質で無毛、油点をもち、全縁 、葉脈 は羽状、葉柄 が存在し、托葉 を欠く[ 1] [ 6] [ 8] 。葉裏はしばしば白色を帯び(下図3c)、気孔 は平行型、ワックス で栓がされている[ 1] [ 6] [ 8] [ 9] 。
花 は中型から小型、放射相称、基本的に両性であるがときに単性、ふつう集散花序を形成するが単生することもあり、花序は頂生または腋生する[ 1] [ 6] [ 8] (上図3)。一部の種では、花は発熱性[ 7] 。苞 は早落性[ 1] 。萼片 は2–4(–6)枚、輪生し(上図3b)、部分的に合生、または完全に合着して花芽を包むキャップ状構造(カリプトラ)を形成する[ 1] [ 6] [ 5] [ 8] [ 7] 。花弁 は2–多数、ふつう離生するが(上図3)、外側の花弁が合着してカリプトラ状になることがある[ 1] [ 6] [ 8] 。雄しべ は3–多数、離生し、らせん状につく[ 1] [ 6] [ 5] (上図3a)。花糸 はふつう太く短く、ときに葉状、葯隔 はときに突出、葯 は沿着で外向、側向または内向、縦裂する[ 1] [ 6] [ 8] [ 7] 。小胞子形成は同時型[ 6] 。花粉 は2細胞性、単口粒、ふつう4集粒として放出される[ 6] [ 8] [ 7] 。雌しべ の心皮 は二つ折りで不完全心皮 としてよく知られ、縁辺が完全には融合しておらず、この部分が線状に柱頭 になっている[ 5] [ 10] 。シキミモドキ属では縁辺全長にわたって融合が不完全であるが、ジゴギヌム属などでは縁辺下部は完全に融合している[ 5] [ 11] 。1–20心皮が1輪につき、基本的に離生心皮であるが(上図3a)、ジゴギヌム属では合生している(ただし柱頭や子房室は独立している)[ 1] [ 6] [ 5] 。一方でタクタヤニア属では2心皮が完全に合生して単一の子房室を形成している[ 5] 。子房上位 、心皮の縫合線に沿って胚珠 がつき、1心皮あたり胚珠数は1個から多数、倒生胚珠で厚層珠心、2珠皮性[ 1] [ 6] [ 5] [ 8] 。胚嚢 はタデ型[ 6] 。ふつう蜜腺を欠く[ 8] 。
果実 は基本的に液果 であるが(上図4)、タクタヤニア属は蒴果 [ 1] [ 6] [ 5] [ 8] 。内胚乳形成は造壁型、油性[ 6] 。胚 はよく分化しているが小さい[ 6] [ 8] 。染色体 基本数は x = 13, 18, 43[ 6] [ 5] [ 7] [ 12] 。
分布・生態
シキミモドキ科は、主に南半球 に分布するゴンドワナ要素 である[ 5] 。フィリピン 、ボルネオ島 、スラウェシ島 、小スンダ列島 、ニューギニア島 、ソロモン諸島 、ニューカレドニア 、オーストラリア 東部、ニュージーランド 、メキシコ から南米 、およびマダガスカル に分布する[ 1] [ 6] [ 7] 。多くは熱帯 域の多雨林 や雲霧林 内に生育するが、温帯 域に分布する種もいる[ 6] [ 8] [ 7] 。
さまざまな昆虫、特に小型の甲虫 、アザミウマ 、コバネガ 、双翅類 によって花粉媒介 され、ふつう花粉 を報酬とするが、柱頭 または雄しべ から報酬となる物質を分泌するものもいる[ 8] 。ただしタスマニア属の一部は風媒される[ 8] 。多くの種は自家不和合性 を示す[ 8] 。果実 はふつう液果 であり、鳥などによって種子散布 される[ 8] 。
人間との関わり
シキミモドキ科の植物は精油 を含み、葉や樹皮、果実が薬用や香辛料に用いられることがある[ 8] [ 9] [ 13] [ 14] 。よく利用される種としてウィンタードリミス [ 15] (別名: ウィンターズバーク [ 16] 、Drimys winteri )、Tasmannia lanceolata 、Tasmannia stipitata などがある(図5)。またニュージーランド に分布するPseudowintera axillaris および P. colorata はマオリ語 でホロピト (horopito )とよばれ、腸チフス の薬とされた[ 17] 。
ボルネオ島 では、部族 間の闘争の際にイヌ を興奮させるため、シキミモドキ(Tasmannia piperita )の葉 を揉んだものを嗅がせたという[ 5] 。
ウィンタードリミス などは鑑賞用に栽培されることもある[ 9] 。
系統と分類
シキミモドキ科は道管 を欠くことや雌しべ の心皮が二つ折りで完全に合着していないなどの特徴から、最も原始的な特徴をもつ被子植物 の1つとされていた[ 9] [ 18] 。20世紀末以降の分子系統学 的研究から、シキミモドキ科はカネラ科 とともに系統群(カネラ目 )を形成し、カネラ目はコショウ目 (ウマノスズクサ科 、コショウ科 など)の姉妹群 であることが示されている[ 8] [ 7] 。このような系統的位置から、シキミモドキ科における道管の欠如は、二次的な欠失によるものであると考えられている[ 8] [ 7] 。また心皮の進化に関しては、二つ折りではなく嚢状(袋状)に発生する心皮をもつもの(アンボレラ目 、スイレン目 、アウストロバイレヤ目 )が被子植物の中で最初期に分かれたことが示されており、これが被子植物の原始形質であると考えられている[ 19] 。
シキミモドキ科は比較的古くから認識されていた植物群である。古典的な被子植物の分類体系である新エングラー体系 やクロンキスト体系 では、シキミモドキ科はモクレン目 に分類されていた[ 18] [ 20] [ 21] [ 22] 。しかし上記のように、分子系統学 的研究からカネラ科 に近縁であることが明らかとなり、2022年現在ではこの2科はあわせてカネラ目 に分類されている[ 7] 。
2022年現在、シキミモドキ科には5属100種ほどが知られている[ 1] [ 7] (下表)。この5属以外にベリオルム属(Belliolum )やブッビア属(Bubbia )、エクソスペルムム属(Exospermum )が認められることが多かったが[ 5] [ 4] 、これらの属は系統的にジゴギヌム属(Zygogynum )にきわめて近縁であることが明らかとなっており、これに含めることが多い[ 1] [ 7] 。5属のうちタクタヤニア属(Takhtajania )が最初期に分岐したことが示されており(下図6)、タクタヤニア属と他の4属を亜科のレベルで分けることがある[ 7] [ 23] (下表1)。
シキミモドキ科に関連すると考えられている4集粒花粉 の化石は、ガボン の1億2250万年前の地層から報告されている[ 7] 。またシキミモドキ科に関連すると考えられる材 の化石も白亜紀 以降に報告されている[ 7] 。シキミモドキ科と考えられる化石記録は現在の分布域よりも広く、アフリカ 、イスラエル 、南極 、南米 、北米 、オーストラリア 、ニュージーランド などから報告されている[ 7] 。
ギャラリー
脚注
注釈
出典
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r “Winteraceae ”. Plants of the World Online . Kew Botanical Garden. 2022年3月28日 閲覧。
^ a b c GBIF Secretariat (2021年). “Winteraceae ”. GBIF Backbone Taxonomy . 2022年3月28日 閲覧。
^ “Winteraceae R. Br. ex Lindl. ”. Tropicos.org . Missouri Botanical Garden. 2022年4月7日 閲覧。
^ a b c d e f g h i j 田村道夫 (1999). “無導管被子植物”. 植物の系統 . 文一総合出版. pp. 137–143. ISBN 978-4829921265
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad 植田邦彦 (1997). “シキミモドキ科”. 週刊朝日百科 植物の世界 9 . pp. 123–125. ISBN 9784023800106
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y Watson, L. & Dallwitz, M. J. (1992 onwards). “Winteraceae Lindl. ”. The families of flowering plants : descriptions, illustrations, identification, and information retrieval. . 2022年3月28日 閲覧。
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u Stevens, P. F.. “WINTERACEAE ”. Angiosperm Phylogeny Website . 2022年3月13日 閲覧。
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w Judd, W.S., Campbell, C.S., Kellogg, E.A., Stevens, P.F. & Donoghue, M.J. (2015). “Canellales”. Plant Systematics: A Phylogenetic Approach . Academic Press. pp. 257–258. ISBN 978-1605353890
^ a b c d Heywood, V.H. (ed.) (1985). “WINTERACEAE”. Flowering Plants of the World . Helm. p. 28. ISBN 978-0709937784
^ 田村道夫 (1999). “不完全被子状態”. 植物の系統 . 文一総合出版. pp. 158–161. ISBN 978-4829921265
^ アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部光泰, 鈴木武 & 植田邦彦 (監訳) (2002). “雄蕊と心皮の系統発生”. 維管束植物の形態と進化 . 文一総合出版. pp. 530–540. ISBN 978-4829921609
^ a b c d e f Ehrendorfer, F. & Lambrou, M. (2000). “Chromosomes of Takhtajania, other Winteraceae, and Canellaceae: phylogenetic implications”. Annals of the Missouri Botanical Garden 87 (3): 407-413. doi :10.2307/2666199 .
^ “Tasmanian Pepper (Tasmannia lanceolata ) ”. Gernot Katzer's Spice Pages . 2022年3月31日 閲覧。
^ “ドリミス・ウインテリ ”. 山科植物資料館 (2013年4月30日). 2022年4月2日 閲覧。
^ アレン・コーンビス 著、濱谷稔夫 翻訳・監修 (1994). 木の写真図鑑 完璧版 . 日本ヴォーグ社 . p. 310. ISBN 4-529-02356-7
^ コリン・リズデイル、ジョン・ホワイト、キャロル・アッシャー 著、杉山明子、清水晶子 訳 (2007). 知の遊びコレクション 樹木 . 新樹社. p. 113. ISBN 978-4-7875-8556-1
^ “horopito ”. Māori Dictionary . 2022年3月28日 閲覧。
^ a b 加藤雅啓 (編) (1997). “モクレン亜綱”. バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統 . 裳華房. pp. 234–239. ISBN 978-4-7853-5825-9
^ 長谷部光泰 (2020). “心皮の獲得”. 陸上植物の形態と進化 . 裳華房. p. 226–227. ISBN 978-4785358716
^ a b 井上浩, 岩槻邦男, 柏谷博之, 田村道夫, 堀田満, 三浦宏一郎 & 山岸高旺 (1983). “シキミモドキ科”. 植物系統分類の基礎 . 北隆館. p. 219
^ Melchior, H. (1964). A. Engler's Syllabus der Pflanzenfamilien mit besonderer Berücksichtigung der Nutzpflanzen nebst einer Übersicht über die Florenreiche und Florengebiete der Erde. I. Band: Allgemeiner Teil. Bakterien bis Gymnospermen
^ Cronquist, A. (1981). An integrated system of classification of flowering plants . Columbia University Press. ISBN 9780231038805
^ a b Thomas, N., Bruhl, J. J., Ford, A. & Weston, P. H. (2014). “Molecular dating of Winteraceae reveals a complex biogeographical history involving both ancient Gondwanan vicariance and long‐distance dispersal”. Journal of Biogeography 41 (5): 894-904. doi :10.1111/jbi.12265 .
^ Schatz, G. E. (2000). “The rediscovery of a Malagasy endemic: Takhtajania perrieri (Winteraceae)”. Annals of the Missouri Botanical Garden 87 (3): 297-302.
^ 大場秀章 (2009). 植物分類表 . アボック社. p. 21. ISBN 978-4900358614
外部リンク
Kabeya, Y. & Hasebe, M.. “モクレン類/カネラ目/シキミモドキ科 ”. 陸上植物の進化 . 基礎生物学研究所. 2022年4月1日 閲覧。
Stevens, P. F. (2001 onwards). “WINTERACEAE ”. Angiosperm Phylogeny Website . 2022年3月13日 閲覧。 (英語)
Watson, L. & Dallwitz, M. J. (1992 onwards). “Winteraceae Lindl. ”. The families of flowering plants : descriptions, illustrations, identification, and information retrieval. . 2022年3月28日 閲覧。 (英語)
“Winteraceae ”. Plants of the World Online . Kew Botanical Garden. 2022年3月28日 閲覧。 (英語)
GBIF Secretariat (2021年). “Winteraceae ”. GBIF Backbone Taxonomy . 2022年3月28日 閲覧。