ザミア科 (ザミアか、学名 : Zamiaceae )は、ソテツ綱 ソテツ目に属する裸子植物 の科 の1つであり、9属250種ほどが知られる。常緑樹 であり、幹は地下生のものから高木 になるものまである。葉はふつう茎頂に密生し、羽状複葉 (図1)、これを構成する小葉は二又分枝する多数の葉脈 をもつ。雌雄異株 であり、"雄花"(小胞子嚢穂)または"雌花"(大胞子嚢穂)を形成する(図1)。北米 南部から南米 、アフリカ 、オーストラリア の熱帯 から亜熱帯 域に散在的に分布している。古くはスタンゲリア科 などが分けられることが多かったが、2023年現在ではソテツ属 以外のソテツ類はすべてザミア科にまとめられている。
特徴
常緑樹 で幹は太く円柱状、短く地下生のものから高さ18メートル (m) に達するものまであり(下図2a, b)、まれに不規則に分枝する[ 2] [ 9] [ 5] [ 10] [ 11] [ 12] 。幹は皮層や髄が発達しており、柔らかい多髄質である[ 5] 。幹には葉柄の基部がうろこ状に残る場合とこれがない場合がある[ 10] 。地表付近に特殊化した根(サンゴ状根 )を形成し、その中に窒素固定 (窒素分子を植物が利用可能なアンモニア に変換する)を行うシアノバクテリア (藍藻)が共生している[ 5] [ 13] 。また、サイカシン やマクロザミン(macrozamin)などの有毒な配糖体 や神経毒 となる非リボソームペプチド であるBMAA などの毒を全体に含み[ 14] [ 15] 、これらの毒の生成には共生シアノバクテリアが関わっていると考えられている[ 16] 。
ヤシ のように、多数の葉 が茎頂にらせん状に密生しているものが多いが(上図2a, b)、地中性の茎から1年に1枚の葉のみを展開するものもいる[ 2] [ 5] [ 10] [ 11] 。葉は大きく、革質、ふつう1回羽状複葉 であるが(下図3a, b)、ボウェニア属(Bowenia )は2回羽状複葉をもつ(下図3c)[ 2] [ 5] [ 17] 。葉を構成する小葉は葉軸に互生または対生、全縁または鋸歯がある[ 2] [ 5] [ 10] [ 11] (下図3)。ふつう中央脈がなく二又分枝する多数の葉脈 が小葉の長軸に平行に伸びているが(下図3d)、スタンゲリア属(Stangeria )では明瞭な中央脈があり、そこから二又分枝する側脈が羽状に伸びている[ 5] [ 18] [ 11] (下図3e)。ふつう、気孔 は長軸方向に配列している[ 18] 。葉柄や葉軸にはときにトゲがある[ 11] 。葉の芽内形態 はまっすぐまたは渦巻き型、ソテツ科 とは異なり小葉は巻いていない[ 18] [ 10] (下図3f)。
3f . ヒロハザミアの幼葉では小葉は巻いていない。
雌雄異株 [ 2] [ 5] [ 10] 。雄株は"雄花"(小胞子嚢穂、雄性胞子嚢穂、雄錐、花粉錐、雄球花、雄性球花[ 20] [ 21] [ 22] [ 23] )を、雌株は"雌花"(大胞子嚢穂、雌性胞子嚢穂、雌錐、種子錐、雌球花、雌性球花[ 20] [ 21] [ 22] [ 23] )を頂端付近につけ、"花後"にわきに新芽が生じて成長を再開する[ 12] [ 24] 。"雄花"は、軸に多数の小胞子葉(雄性胞子葉)がらせん状に密生しており、花粉 放出後に枯れる[ 5] (下図4a, b)。小胞子葉の裏面(背軸面 )に、多数の花粉嚢(小胞子嚢)が密生している[ 5] (下図4b, c)。花粉 は球形[ 5] 。"雌花"は、軸に多数の大胞子葉(雌性胞子葉)がらせん状に密生しており、1年以上残る[ 5] (下図5a, b)。大胞子葉先端はふつう厚い盾状、向軸側 基部に2個の直生胚珠 がついている[ 5] [ 18] [ 11] (下図5c)。"雌花"では多くの場合、大胞子葉の盾状部が密着しているが、短期間だけ隙間ができて受粉する[ 10] 。種子 は扁平ではなく、種皮外層は多肉質でしばしば派手な色をしており、中層は木質、内層は膜質[ 5] [ 11] [ 14] [ 25] 。種皮の孔から発芽する[ 18] (下図5d)。子葉 は2枚[ 5] [ 11] 。染色体 数はふつう 2n = 16、18、ミクロキカス属は26、ザミア属は多様で16–28[ 26] 。
分布・生態
北米 南部から南米 、サハラ以南のアフリカ 、オーストラリア の熱帯 から亜熱帯 域に散在的に分布する[ 9] [ 18] [ 11] 。生育環境は、種によって半乾燥地から、湿地、熱帯雨林まで多様である[ 9] (下図6)。
ザミア科の花粉媒介 は、主にゾウムシ やアザミウマ による虫媒であり、特異性が高い(決まった種が送粉する)[ 18] [ 15] 。媒介者の幼虫が、胚珠や胞子葉を餌とする例が知られている[ 18] [ 11] 。また、ソテツ類の"雄花"(小胞子嚢穂、雄性胞子嚢穂)や"雌花"(大胞子嚢穂、雌性胞子嚢穂)は発熱することが知られており、花粉媒介者を誘引する臭気を強化すると考えられている。"雄花"が"雌花"よりも高温に発熱する例が報告されており、高温によって、花粉をつけた送粉者を雄花から追い出して"雌花"へ行くように仕向けていると考えられており、このような花粉媒介は push-pull pollination とよばれる[ 18] [ 27] 。
ザミア科を含めてソテツ類 の種子 の種皮外層は多肉質でしばしば派手な色をしており、大型動物に被食・排出されることで種子散布 (動物被食散布)されると考えられている[ 14] 。種子散布者としては、ペッカリー 、ハナグマ 、アグーチ 、ネズミ 、フクロギツネ 、鳥、爬虫類などが報告されている[ 28] 。ソテツ類の種子の胚乳 にはサイカシン など毒が含まれるが、種皮外層には毒がほとんど含まれないことが報告されている[ 14] 。
保全状況評価
国際自然保護連合 (IUCN)のレッドリスト では、ザミア科のうち4分類群が野生絶滅種、42分類群が近絶滅種、49分類群が絶滅危惧種、43分類群が危急種に指定されている(2020年現在)[ 9] 。これらの種の減少の主な原因は、農業や開発による生息環境の破壊、園芸のための違法な採取、気候変動などである[ 9] 。
ケラトザミア属(ツノザミア属、Ceratozamia )とエンケファラルトス属(オニソテツ属、Encephalartos )の全種、および Stangeria eriopus 、Microcycas calocoma 、Zamia restrepoi はワシントン条約 の附属書I類に指定されており、それ以外のザミア科の全種は附属書II類に指定されている[ 4] 。
人間との関わり
7 . 植栽された Encephalartos (ロサンゼルス )
エンケファラルトス属(Encephalartos )、ボウェニア属(Bowenia )などザミア科の多くの種 は、観賞用に利用されている[ 10] [ 11] (図7)。
幹や種子 にはデンプン が多く含まれており、Dioon edule 、Macrozamia riedlei 、フロリダソテツ[ 29] (Zamia pumila )などは食用に利用されることがあった(ただしソテツ類 は有毒であるため、これを除く必要がある)[ 10] [ 11] 。19世紀後半の米国 フロリダ州 には、フロリダソテツの幹からデンプンを抽出する工場が多くあった[ 10] 。また、Dioon edule の種子、Stangeria eriopus の幹などは民間薬に利用されることがある[ 10] 。
ザミア科を含むソテツ類は全体が有毒であり、これを食べた人や有用動物に害が起こることがある。オーストラリア では、Macrozamia heteromera の種子を食べた2,200頭のヒツジ が死んだことがある[ 14] 。
分類
ザミア科の科の名前はタイプ属(模式属)であるザミア属 (Zamia )に基づいており、Zamia は、マツ の球果 を表すラテン語 である azaniae に由来する[ 10] 。
2023年現在、ザミア科には9属約250種が知られている[ 2] [ 18] 。いくつかの属が別科に分けられることがあり、特に20世紀末ごろには、スタンゲリア属(Stangeria )およびボウェニア属(Bowenia )をまとめてスタンゲリア科 (Stangeriaceae )として独立させたり、両属をそれぞれスタンゲリア科、ボウェニア科(Boweniaceae )として独立させることが多かった[ 10] [ 30] [ 31] 。しかし分子系統学 的研究からは、両属の近縁性は支持されず、また他のザミア科の属とは分けられないことが示唆され、2023年現在ではふつう両属はザミア科に含められている[ 2] [ 18] 。ザミア科内の属の系統仮説の一例として下図8のようなものがあるが、必ずしも確定的ではない[ 18] 。ソテツ類のもう1つの科はソテツ科 (ソテツ属のみを含む)であるが、小葉の葉脈 が分枝しないこと、雌生殖器として大胞子葉が集まっているだけで明瞭な大胞子嚢穂を形成しないことなどの点でザミア科とは異なる[ 18] 。
ザミア科内の現生属の分化は、1億8,500万年前から9,000万年前の間に始まったと推定されている[ 18] 。
画像
脚注
注釈
出典
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外部リンク
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“Zamiaceae ”. Plants of the World Online . Kew Botanical Garden. 2023年11月24日 閲覧。 (英語)
“Zamiaceae ”. The Gymnosperm Database. 2023年11月24日 閲覧。 (英語)