キュプロス文字 (キュプロスもじ、Cypriot script)は、キプロス島 で紀元前8世紀から紀元前3世紀にかけて[ 1] 使用された、主にギリシア語 を表記するための音節文字 である。紀元前6世紀から紀元前3世紀頃の碑文がある。キュプロス音節文字 (Cypriot syllabary)とも呼ばれる。
右から左へ書かれる。
概要
ギリシア語圏では線文字B のような音節文字が使われていたが、紀元前1千年紀 になると音節文字の使用はとだえ、アルファベット で書かれるようになった。しかし、キプロス島だけはどういうわけか音節文字が残存した。ギリシア語だけでなく、エテオ・キュプロス語 (英語版 ) (純正キュプロス語とも)と呼ばれる未知の言語の表記にも用いられた[ 2] 。
キュプロス文字は55文字から構成され、各文字はCV型の音節(開音節)を表す。子音の数は13(ゼロ子音を含む)、母音の数は5である。ギリシア語にある母音の長短、子音の無声・有声・帯気音の区別は表記されない。
音節末の流音 と歯擦音 、および語末の鼻音 については e が補われる[ 1] 。また子音結合 は前後にある母音を補う。したがって、たとえば πτóλιν (ptolin)「市を」[ 3] はポトリネ(po-to-li-ne)のように表記される[ 4] 。
紀元前4世紀になるとギリシア文字 と併用されるようになり、紀元前3世紀にはキュプロス文字は廃れた。
文字一覧(画像 )
-a
-e
-i
-o
-u
𐠀
𐠁
𐠂
𐠃
𐠄
w-
𐠲
𐠳
𐠴
𐠵
z-
𐠼
𐠿
j-
𐠅
𐠈
k-, g-, kh-
𐠊
𐠋
𐠌
𐠍
𐠎
l-
𐠏
𐠐
𐠑
𐠒
𐠓
m-
𐠔
𐠕
𐠖
𐠗
𐠘
n-
𐠙
𐠚
𐠛
𐠜
𐠝
ks-
𐠷
𐠸
p-, b-, ph-
𐠞
𐠟
𐠠
𐠡
𐠢
r-
𐠣
𐠤
𐠥
𐠦
𐠧
s-
𐠨
𐠩
𐠪
𐠫
𐠬
t-, d-, th-
𐠭
𐠮
𐠯
𐠰
𐠱
他の文字との関係
キュプロス文字はキュプロ・ミノア文字 から発達したようであり、また線文字B とはどちらもCV型の音節文字である点が共通する[ 1] 。線文字Bとキュプロス文字の間には形と読みの両方が一致する文字がいくつかある[ 5] 。
解読
キュプロス文字は1869年にイダリオンでキュプロス文字とフェニキア文字 の2言語碑文が発見されてから解読が進み、1871年にジョージ・スミス が最初にキュプロス文字が音節文字であることを明らかにした。その後、1874年にモーリッツ・シュミットは表記されている言語がギリシア語であることを明らかにした[ 6] 。
Unicode
Unicode では U+10800 - 1083F の領域に55文字のキュプロス文字が定義されている。
キュプロス音節文字 [ 7]
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
A
B
C
D
E
F
U+1080x
𐠀
𐠁
𐠂
𐠃
𐠄
𐠅
𐠈
𐠊
𐠋
𐠌
𐠍
𐠎
𐠏
U+1081x
𐠐
𐠑
𐠒
𐠓
𐠔
𐠕
𐠖
𐠗
𐠘
𐠙
𐠚
𐠛
𐠜
𐠝
𐠞
𐠟
U+1082x
𐠠
𐠡
𐠢
𐠣
𐠤
𐠥
𐠦
𐠧
𐠨
𐠩
𐠪
𐠫
𐠬
𐠭
𐠮
𐠯
U+1083x
𐠰
𐠱
𐠲
𐠳
𐠴
𐠵
𐠷
𐠸
𐠼
𐠿
脚注
参考文献
Bennett, Emmett L (1996). “Aegean Scripts”. In Peter T. Daniels; William Bright. The World's Writing Systems . Oxford University Press. pp. 125-133. ISBN 0195079930
Daniels, Peter T (1996). “Methods of Decipherment”. In Peter T. Daniels; William Bright. The World's Writing Systems . Oxford University Press. pp. 141-159. ISBN 0195079930
高津春繁 著「ミュケーナイ文書の解読」、高津春繁、関根正雄 編『古代文字の解読』岩波書店 、1964年、235-302頁。
松本克己 著「ギリシア・ラテン・アルファベットの発展」、西田龍雄 編『世界の文字』大修館書店 、1981年、73-106頁。
関連項目
外部リンク
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