『エネミー・オブ・アメリカ』(Enemy of the State)は、トニー・スコット監督が製作した1998年のサスペンスアクション映画。ブエナビスタ作品。
音楽は当初はハンス・ジマーがすることになっていた。
テロ防止法を巡る暗殺事件の証拠となるビデオを、偶然掴んだ弁護士が、事件の首謀者である国家安全保障局(NSA)の高官に追われることになるが、その陰謀に挑んでいく。
あらすじ
アメリカ連邦議会ではテロ対策のための「通信の保安とプライバシー法」案を巡って議論が交わされていた。この法案は、犯罪やテロを防止するものと説明されていたが、法執行機関による監視権限を拡大し、一般市民のプライバシーを大幅に侵害する恐れがあった。国家安全保障局(NSA)の高官トーマス・ブライアン・レイノルズは、法案を可決させるべく、強硬な反対派の下院共和党議員フィリップ・ハマースリーを、目撃者のいない湖畔で暗殺させる。レイノルズの思惑通りハマースリーの死は心臓発作による事故死とされた。だが、殺害の一部始終が、渡り鳥を観察するために設置されていた無人カメラに録画されていたことを、事件現場を偵察していたレイノルズの部下が気づく。レイノルズは、この事態に対処するため、アメリカ海兵隊特殊部隊員数名を工作員としてスカウトする。
無人カメラのテープを回収した動物研究者のダニエル・ザビッツは、帰宅後テープを見て、ハマースリーの死の真相に気づき、知り合いのジャーナリストに渡すべくテープをPCカードディスクにコピーしている最中に、レイノルズが送った工作員がザビッツのアパートを急襲する。すんでのところでアパートを脱出したザビッツは、ディスクを持ってワシントンDCの街中を必死に逃走するが、NSA側は、偵察衛星や指揮通信車、ヘリコプターを駆使し次第に追い詰めていく。女性下着店に逃げ込んだザビッツは、偶然、ジョージタウン大学の同級生で、妻のクリスマスプレゼントを選ぶために店で下着を選んでいた弁護士のロバート・クレイトン・ディーンに出会う。ザビッツは秘かにディスクをディーンの買い物袋の中に隠し、さらに逃走を図るが、店先で消防車にはねられて死亡してしまう。
下着店の監視カメラの映像から、ディーンの買い物袋にディスクが入っていると推察したレイノルズは、工作員をディーン宅に侵入させ、ディスクを探させるが見つけることができない。
次にレイノルズはディーンへ秘密工作を仕掛けた。その結果、マフィアとの癒着を疑われ法律事務所を解雇されてしまい、さらに、過去の不倫相手で私立探偵ブリルとの仲介をしていたレイチェル・バンクスとの関係を妻から問い詰められて家を追い出され、その上、口座を凍結されクレジットカードが使用できなくなってしまう。
ディーンは、一連の事件のきっかけはブリルが提供した情報にあると考え、ブリルに直接接触することを試みる。かつてNSA技官であったブリルは、盗聴器や発信器が多数ディーンの衣服に仕掛けられていることを見抜き、NSAに追われているディーンを避けようとする。しかしNSAの秘密工作の一環で、レイチェルが殺されてしまい、その殺人容疑がディーンにかぶせられたと聞き、ブリルはディーンを助けることを決心する。ブリルのNSA時代の相棒の娘がレイチェルであり、相棒がイラン革命下のテヘランで殉職して以来、ブリルはレイチェルの成長を陰ながら支えていたのだ。
ブリルはディーンを自身のセーフハウスに連れて行く。ファラデーケージで出来たオフィスでディスクの中身を解析し、映っていたのがレイノルズであると分かって二人はハマースリーの死の真相をはじめて知る。ディーンがセーフハウスへ向かう途中にかけた電話をもとに、レイノルズ配下のNSA工作員たちはこのセーフハウスを発見し突入する。ブリルはセーフハウスを爆破し、二人とブリルの飼い猫はかろうじて脱出、逃走するが、その際に証拠のディスクが破損してしまう。
ブリルとディーンは、レイノルズから直接ハマースリー暗殺の証言をとるためにレイノルズに会うが2人とも工作員に捕えられてしまう。コピー先がディスクであり、既に破損したことを知らずに、その引き渡しを迫り脅迫してくるレイノルズに対して、ディーンは咄嗟に、ある訴訟で自分の依頼人を脅迫していたマフィアのボス、ピンテロの元にディスクがあると嘘をつく。ディーンは以前、ピンテロが訴訟に介入するのを牽制するために、ピンテロ自身を逮捕できる証拠テープを入手し、そのテープで無理矢理に取り引きをし、ピンテロから撮影者を明かさなければ殺すと脅迫されたという経緯があった。ピンテロに会ったレイノルズはすぐにテープを要求するが、ピンテロは、それをディーンが自分との取り引きで使ったテープのことと勘違いし、拒否する。ピンテロとレイノルズの双方が勘違いした上でテープをめぐり押し問答を繰り返し、激しい銃撃戦となる。その結果レイノルズは射殺され、NSA工作員やマフィアの大半も死亡。生き残った数名はピンテロを監視していたFBIに逮捕され、レイノルズらによるハマースリー暗殺が白日の下に曝された。
疑いが晴れたディーンは家族と幸せな時をすごす。一人になった時、テレビからブリルの別れの電波映像が流れてきて物語は終わる。
登場人物
- ロバート・クレイトン・ディーン
- 演 - ウィル・スミス
- 弁護士。専門としては労働問題を扱っている。たまたま再会したザビッツに犯行を記録したディスクを持たされて事件に巻き込まれる。
- ブリル / エドワード・ライル
- 演 - ジーン・ハックマン
- 私立探偵。レイチェルの情報源ともいえる情報量も持つ。元NSAの工作員でありレイチェルの父と同僚だった。このことからレイチェルにも深い情を持つ。
- トーマス・ブライアン・レイノルズ
- 演 - ジョン・ヴォイト
- 国家安全保障局(NSA)の高官。
- レイチェル・F・バンクス
- 演 - リサ・ボネット
- クレイトンの元恋人。現在は仕事仲間。クレイトンをブリルに引き合わせるなどの活躍をするが殺害されてしまう。
- カーラ・ディーン
- 演 - レジーナ・キング
- クレイトンの妻。夫同様、弁護士。妻の立場から夫の元恋人であるレイチェルに良い印象を抱いていない。
- サム・アルバート
- 演 - スチュアート・ウィルソン
- 議員。
- エリック・ディーン
- 演 - ジャッシャ・ワシントン
- クレイトンとカーラの息子。
- フィリップ・ハマースリー
- 演 - ジェイソン・ロバーズ
- 下院議員。レイノルズに心臓発作に見せかけて暗殺される。
- ダニエル・ザビッツ
- 演 - ジェイソン・リー
- 動物研究家。観察用に仕掛けた無人カメラでレイノルズの犯行を記録していた。クレイトンとは大学時代の同級生。
- レニー
- 演 - グラント・ヘスロヴ
- ザビッルの知人。
- フィードラー
- 演 - ジャック・ブラック
- NSAの一員。
キャスト
スタッフ
評価
レビュー・アグリゲーターのRotten Tomatoesでは85件のレビューで支持率は72%、平均点は6.40/10となった[2]。Metacriticでは22件のレビューを基に加重平均値が67/100となった[3]。
地上波放送履歴
作品解説
NSAは当初撮影への協力を完全拒否していたが、出演者にNSA高官の娘がいたために辛うじて外観の撮影と内部の限られた部屋の見学のみが許された(この時撮影した本部の外観は一部の映像がオープニングに使用されている)。ただし、職員への質問は禁じられ、地下にあるといわれるコンピュータルームへの立ち入りも許されなかった。そのため、撮影では元職員の証言や文献資料に頼らざるを得なかった。しかし本作でNSAが使う技術は、20年前のもの、また制作当時は逆に研究開発中だったものもあるが、ほとんどが実際に使われているものだという[4]。また、公開直後にNSAの長官に就任したマイケル・ヘイデンは映画でのNSAの描かれ方はNSAに対するマイナスな印象を一般市民に与えると危機感を覚えてNSAのイメージを改善させる戦略を行うこととなった[5][6]。しかし、ヘイデンはアメリカ同時多発テロ事件後のNSAの令状無し盗聴(英語版)を推し進めた張本人として矢面に立つことになった[7]。
ハックマン演じるブリルは『カンバセーション…盗聴…』でハックマンが演じたハリー・コールを彷彿とするオマージュが見受けられる。ブリルがハリー・コール同様に通信傍受のプロであるという設定に加え、ブリルのNSA履歴ファイルにはハリー・コールを演じているときのハックマンの写真が添付されていた。
ソフト
2007年2月23日にBlu-ray Disc版が発売。
脚注
関連項目
外部リンク
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