ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン の『エグモント 』(Egmont )作品 84は、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ による1787年 の同名の戯曲 (英語版 ) のための劇付随音楽 。現在では序曲 のみが単独で演奏されることがほとんどだが、他にソプラノ 独唱を伴う曲を含む9曲が作曲されている。
概要
エフモント伯爵ラモラール
1809年 、ウィーン宮廷劇場の支配人であるヨゼフ・ハルトルはゲーテとシラー の戯曲に音楽をつけ、一種のオペラ のようにして上演する計画を立てた。そして、ゲーテの作品から『エグモント』を選んでベートーヴェンに作曲を依頼した。ちなみに、シラーの作品から選ばれたのは『ヴィルヘルム・テル 』であり、こちらはアダルベルト・ギロヴェッツ に作曲が依頼された(なお、ベートーヴェンが弟子のカール・チェルニー に語ったところによれば、ベートーヴェンは本当は『ヴィルヘルム・テル』に曲をつけたかったようである)。しかし、敬愛するゲーテの作品ということもあり、否応なしに引き受けた。1809年 10月から1810年 6月までに作曲され、1810年5月24日 にブルク劇場 でベートーヴェン自身の指揮で初演された。なお、序曲は初演に間に合わず、6月15日 の4回目の公演から付されたと考えられている。
作品の題材は、エフモント(エグモント)伯ラモラール の物語と英雄的行為である。作品中でベートーヴェンは、自らの政治的関心を表明している。圧政に対して力強く叛旗を翻したことにより、死刑に処せられた男の自己犠牲と、とりわけその英雄的な高揚についてである。初演後、この楽曲には称賛の評価がついて回った。とりわけE.T.A.ホフマン がこの作品の詩情を賛えたものが名高く、ゲーテ本人もベートーヴェンは「明らかな天才」であると述べた。
曲の構成
付随音楽は以下のような楽曲が含まれ、とりわけリート 《太鼓が鳴ると Die Trommel gerühret 》や「クレールヒェンの死」が名高い。
序曲: Sostenuto , ma non troppo - Allegro 、ヘ短調 →ヘ長調
力強く雄渾多感な序曲は、ベートーヴェン中期の終わりに位置する作品で、序曲《コリオラン 》や、2年早く完成された《交響曲 第5番 》と同じくらいに有名であり、また作曲様式でも類似点が見られる。
リート: "Die Trommel gerühret"(太鼓が鳴ると)
第1幕第3場の民家の場面で、クレールヒェン(クラーレ)が歌うリート。
アントラクト: Andante
第1幕の幕が下りると演奏される幕間の音楽。
アントラクト: Larghetto
第2幕の幕が下りると演奏される幕間の音楽
リート: "Freudvoll und Leidvoll"
第3幕第2場でクレールヒェンが自宅で歌うリート
アントラクト: Allegro - Marcia
第3幕の幕が下りると演奏される幕間の音楽
アントラクト: Poco sostenuto e risoluto
第4幕の幕が下りきらないうちに演奏される幕間の音楽。下りきらないうちに演奏するのは、第4幕の最後でエグモントが逮捕され、冒頭3小節がその場面の音楽だからである。
クレールヒェンの死: Clärchens Tod
第5幕第3場で、クレールヒェンの自宅の場面で演奏される音楽。ここでクレールヒェンが毒をあおって自決する。
メロドラマ: "Süßer Schlaf"
第5幕の獄中のエグモントの場で、エグモントのモノローグに続いて演奏される音楽
勝利のシンフォニア: Allegro con brio
エグモントの最後の台詞の後、幕が下り始めると演奏される音楽。序曲のコーダと同一の楽曲であるが、こちらが先に完成されたと言われている。
上演について
初演後、「エグモント」が劇として上演された回数は不明(1973年 のザルツブルク音楽祭 の演劇部門で上演された記録がある)。一方で、劇の内容を語り手 が説明し、上演する方法が比較的早い時期から行われていたようである。その際に使う説明文としては、かつてはフランツ・グリルパルツァー らが手がけたものを使用していたが、最近ではゲーテの原作から自由に台詞を抜粋して(ただし、話の流れを無茶苦茶にしない程度)上演する方法も多い。演奏会や録音等での語り手役には俳優 などがしばしば起用され、例えば1991年 のベルリン・フィル のジルヴェスター・コンサートで演奏されたときは、ブルーノ・ガンツ が語り手を務めている。日本では1969年にNHK交響楽団 が川久保潔 を語り手として上演している[ 1] 。
楽器編成(序曲)
フルート 2(セカンドがピッコロ 持ち替え)、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2、ホルン 4、トランペット 2、ティンパニ 、弦5部 。
参考文献
藤田由之「劇音楽《エグモント》Op.84」『作曲家別名曲解説ライブラリー ベートーヴェン』音楽之友社、1992年
注・出典
関連項目
外部リンク