イシルドゥア(Isildur、第二紀3220年 - 第三紀2年)は、J・R・R・トールキンの中つ国を舞台とした小説、『指輪物語』、『終わらざりし物語』の登場人物である。ヌーメノール出身のドゥーネダインで、第2代のアルノールとゴンドールの上級王。最後の同盟の戦いに父エレンディルとともに参加し、父とギル=ガラドによって倒された冥王サウロンの指を切り落とし、一つの指輪を我が物とした。
概要
イシルドゥアは第二紀3220年に、アンドゥーニエの最後の領主アマンディルの息子、エレンディルの長男として生まれた。彼の弟はアナーリオンである。かれにはエレンドゥア、アラタン、キアヨン、ヴァランディルの4人の息子があった。
イシルドゥアは若い頃にニムロスの木が切り倒される前にその実をとり、白の木の命脈を保った。かれは後にその苗木をミナス・アノールに植えた。
ヌーメノールの没落時には破滅を免れ、父や弟とともに中つ国へ逃れた。イシルドゥアとアナーリオンは南方にたどり着きゴンドール王国を建国し、かれらの父は北方にたどり着いてアルノール王国を建国した。
イシルドゥアは大河アンドゥインの西に住み、ミナス・イシルを築き、イシリエンの地も確立した。しかし3428年にサウロンがミナス・イシルを攻撃しこれを奪い取ると、イシルドゥアは北方の父のもとに逃れ、ゴンドールの防衛をアナーリオンに委ねた。
かれは3428年に父エレンディルやエルフの上級王ギル=ガラドとともに、エルフと人間の最後の同盟の一員としてゴンドールに戻った。サウロンとの戦いでかれの父と弟、それにギル=ガラドは死亡したが、サウロンもまた倒れた。イシルドゥアは父の剣ナルシルをとってサウロンの指から一つの指輪を切り落とし、サウロンの肉体を滅ぼして戦争に勝利した。エルロンドとキーアダンの助言にもかかわらず、かれは指輪を破壊せず、かわりにこれを王家の宝とした。
サウロンが倒れた後、イシルドゥアはゴンドールに戻り、アルノールの王位を継ぐと、ゴンドールとアルノール両王国の王であることを宣言した。一年後の第三紀2年にアナーリオンの息子メネルディルにゴンドールの統治を任せると、かれは三人の息子とともに北方への帰途についた。四人目の息子ヴァランディルは裂け谷に残されていた。
帰還の途中、イシルドゥアはあやめ野でオークに奇襲され、指輪の裏切りによって殺され、指輪は大河に失われた。
第四紀にかれの子孫であるエレッサール王が再びゴンドールとアルノールの統一王国の王として帰還するまで、かれが両王国を統治した最後の王であった。
トールキンのメモによると、かれの身長は7フィートあった。
あやめ野の凶事
イシルドゥアは北方へ向かう際、息子たちのほかに200人の配下を連れていた。オークの群れに襲撃を受けたときもかれらは陣形を組んで対処し、これを防ぎきった。通常なら攻撃に失敗した時点でオークは意欲を失って撤退するものだが、このときは不可解な理由で戦意に駆られ、攻撃の手を休めることはなかった。あるいは一つの指輪の悪意が働きかけたのかもしれない。
本格的な持久戦の備えまでしていなかったイシルドゥア一行は進退窮まった。覚悟を決めたイシルドゥアは、配下のオホタールに折れた剣ナルシルを託して脱出させると、最期まで抗戦する構えを取った。指輪の秘密を打ち明けられていたエアレンドゥアは、指輪を使ってオークたちを脅し従わせることを進言したが、イシルドゥアはこれを却下した。だが、イシルドゥアは最終的にエアレンドゥアの進言を容れて脱出することにし、一つの指輪による透明化でその場は難を逃れた。イシルドゥアはヌーメノールの技術で作られた糧食を携行していたので、それ以上何事も起こらなければ1人になっても生き延びることができたはずである。しかし、あやめ川を渡る途中で指輪がかれを裏切って抜け落ち、姿が現れた結果オークの矢に射殺されることになった。
一方、戦場に踏みとどまったエレンドゥアたちはほぼ全滅した。遅まきながら闇の森から出撃した人間やエルフたちによってオークは蹴散らされたものの、生存者はただ1人だった。
息子たち
- エレンドゥア
- 第二紀3299年生まれ。父の信頼も厚く、戦場では(サウロンとの決戦を別として)常に同行していた。一つの指輪の存在も打ち明けられている。
- 本来は次代の王となるべきだった人物。美しく優秀で、一族の中では祖父エレンディルに最もよく似ていた。父は自尊心のあまり指輪を手にして破滅を招いたが、かれにはそのような慢心はなかった。
- オークの襲撃から父を逃がし、最期まで戦い続けて果てた。
- アラタンとキアヨン
- 2人とも最後の同盟に参加してはいたが、バラド=ドゥーアの包囲には加わらず、ミナス・イシルに控えてサウロンが山道を突破してくる事態に備えていた。
- オークの襲撃を受けた際、父や兄に先立って倒れた。
- ヴァランディル
- 幼かったので戦いには加わってはいない。父と兄の死後、その跡を継いで北方王国アルノールの王となった。
配下
- オホタール
- 実のところ、これは個人名ではなく、騎士に列する前の戦士が帯びる称号である。
- ナルシルを託されたオホタールは、イシルドゥアの信頼厚い縁者だった。かれは2名の仲間とともに無事に裂け谷までたどり着き、以後折れた剣はヴァランディルから代々の子孫へ受け継がれていくことになる。
- エステルモ
- オークの襲撃から唯一生き残った男。棍棒で殴られて昏倒し、エレンドゥアの亡骸の下敷きになって敵の目を逃れた。かれの口から人々に事態が伝えられた。
遺品
イシルドゥアの禍
あやめ野で失われた一つの指輪は「イシルドゥアの禍」とも呼ばれたが、その意味を正しく覚えていたのは北方のドゥーネダインだった。
南方王国ゴンドールには詳細が伝わらず、約3000年後にファラミアがこの言葉を夢のお告げで聴いたときも、理解できずにいた。かれは、まさかイシルドゥアを射たオークの矢ではないだろうし、おそらく何らかの強大な力を秘めた宝物だろうと推測したものの、サムワイズ・ギャムジーに言われるまで一つの指輪と結びつけて考えることをしなかった。
エレンディルミア
ミスリルの髪帯につけられた白い宝石で、エアレンディルの星すなわちシルマリルを象徴したものであり、エレンディルから受け継いだ王の証。その輝きは一つの指輪の不可視化の効力を受けず、敵をひるませた。しかしイシルドゥアが頭巾をかぶると輝きも遮られ、あえなく敵の攻撃を許すこととなった。
この宝石は持ち主の死とともに永遠に失われたと思われていた。ヴァランディル以降のアルノール王が身につけたのは複製品であり、それはそれで美しかったものの、オリジナルには及ばなかったとされる。
実は指輪を探していたサルマンによってアンドゥイン川で回収され、オルサンクの隠し部屋に秘蔵されていたことが指輪戦争後に明らかになった。こうしてエレンディルミアは正当な継承者であるアラゴルンの手に渡ったが、かれは普段は身につけず、特別なときにのみ着用した。
なお、この帯はイシルドゥアの亡骸から直接取られた物であるはずだが、遺体そのものは見つからなかった。サルマンが焼き捨ててしまったのではないかと考えられる。
系譜
エレンディルの王家