イカリソウ (錨草、学名 : Epimedium grandiflorum var. thunbergianum )はメギ科 イカリソウ属 の落葉多年草 。低い山地の雑木林に生え、茎の先が3本の葉柄に分かれて、3枚の小葉がつく。春に淡紅紫色の錨形の花を咲かせる。観賞用や薬用に栽培もされる。
名称
和名イカリソウ は、漢字で「錨草」と書き、花の形が和船の錨 に似ていることに由来する。
別名、サンショクソウ、カンザシグサ、オトコトリアシともよばれる。茎 の先が3本の葉柄 に分かれ、それぞれに3枚の小葉 がつくため、三枝九葉草(さんしくようそう)の別名がある[ 注釈 1] 。
地方によって、カグラバナ、ヨメトリグサともよばれる。英語名は barrenwort、bishop's hat、fairy wings、horny goatweed など。
中国 植物名として淫羊藿 (いんようかく)という。本来の淫羊霍は中国原産の同属ホザキノイカリソウ E. sagittatum (Sieb. et Zucc.) Maxim.(常緑で花は淡黄色)で、日本産の各種イカリソウもこの名でよばれている。名はヒツジ がこれを食べて精力絶倫になったという伝説による。中国の『本草綱目 』(1578年ごろ)に、「西川(せいせん)に淫羊(発情した羊)あり、この藿(かく、花蕾 )を食べて、一日百編交合す。」と記され、これ故に淫羊藿と名付けたとされる(意味:「四川 の北部に淫羊という動物がいて1日に100回も交尾する。それはこの藿という草を食うからだ。そこで淫羊藿と名付けた」)。ホザキノイカリソウの淫羊霍に対して、イカリソウの方を和淫羊霍とすることもある。
花言葉 は、「あなたを離さない」とされる。
分布・生育地
日本の本州 ・四国 の主に太平洋側の平野部や低い山地 に分布し、各地の丘陵 や山裾の雑木林 など、林縁や樹陰に自生する。イカリソウ属は25種ほどがアジア から南ヨーロッパ にかけて分布する。
形態・生態
多年生草本。根茎は太くて短く、横にはって多数のひげ根を出す。草丈は20 - 40センチメートル (cm) 。数本の茎を出し、茎部には鱗片がある。春先に出る根出葉 には長い葉柄 がつき、2回3出複葉となる。一つの小葉 は全体が歪んだ卵形で、先が尖って基部は心形あるいは矢じり形をしており、葉縁 に刺毛状の細かい鋸歯がある。
花期は春(4 - 5月ごろ)。40 cmほどの花茎の先に根出葉と似た葉を1枚つけ、そのさらに上に総状花序 をつくって、4 - 7個の吊り下がった薄紅紫色の花 が下向きに咲く。花径は3 - 7 cm 。萼片 は8枚つくが、外側の4枚は早くに落ちる。花弁 は4枚で、中に蜜をためる長さ1.5 - 2 cm の距(管状の細長い突出部)を四方に突出して、ちょうど船の錨のような形をしている。
多くの近縁種があり、園芸用や薬用に栽培され、多くの品種がある。冬には葉が枯れるが、トキワイカリソウ やウラジロイカリソウ などの種は、冬でも枯れないことが多い。浅根性で乾燥に弱く、半日陰の肥沃土を好む性質があり、繁殖は秋から初冬にかけて株分け により行われる。
葉
利用
食用
まだ開ききっていない若い葉と花を食用とする。採取時期は関東以西が3 - 4月ごろ、東北地方が4 - 5月ごろが適期とされる。塩ひとつまみ入れ茹でてから、からし和えやキュウリ和えなどの和え物 や、油炒め などにする。また、生のまま衣をつけて天ぷら にもできる。花は軽く熱湯にくぐらせる程度にして、二杯酢 や三杯酢 にする。
生薬
薬効は、インポテンツ (陰萎)、腰痛 のほか、補精、強壮、鎮静 、ヒステリー に効用があるとされる。
全草は淫羊霍 (いんようかく、正確には淫羊藿 )と称する生薬 で精力剤 として有名である[ 12] 。淫羊霍とは、5 - 6月頃の開花期に茎葉を刈り取って天日干しにしたものである。市場に流通している淫羊霍は、イカリソウの他にも、トキワイカリソウ 、キバナイカリソウ 、海外品のホザキノイカリソウ (ホザキイカリソウ)も同様に使われる。
イカリソウの茎葉には有効成分としてはイカリイン というフラボノイド 配糖体 と、微量のマグノフィリン というアルカロイド などが含まれ、苦味の成分ともなっている。充血を来す作用があり、尿の出を良くする利尿作用もあるとされている。
イカリインには実際に次のような効果が示されている。
これらにより平滑筋 が弛緩し陰茎 などの血流が増えると考えられる。PDE-5の阻害は(かなり弱いが)バイアグラ と共通の作用である。マウスを用いた実験で、男性ホルモン様の作用が報告されている。昭和初期に日本の学者がイカリソウの茎葉から抽出したイカリインを動物に与えた実験を行った結果、雄の動物の精液が増量することがわかったという報告もなされている。
民間利用では、滋養強壮に淫羊霍を粗く刻み、1日量5 - 10グラムを約500 - 600 cc の水で30分ほど半量になるまで煎じて、食間に3回に分けて温服される。また低血圧・不眠症・強精・強壮には、焼酎(ホワイトリカー)1.8リットルあたり淫羊霍50 - 150グラムを入れて2 - 4か月漬け込んで作った薬酒「仙霊脾酒(せんれいひしゅ)」が、就寝前などに1日1 - 2回お猪口1杯程度を目安に飲まれる。体を温める作用があることから、手足の冷え症や、冷えから来る腰痛症、下半身が疲れやすい人のインポテンツによいとされる一方で、火照りやすい人やのぼせやすい人への服用は禁忌 とされる。
日本の近縁種
近縁種に常緑のトキワイカリソウ 、花が淡黄色のキバナイカリソウ などがある。日本海側に自生するトキワイカリソウは、常緑で冬季に落葉しないという特徴があり、常盤(ときわ)は常緑の意味合いがある。
キバナイカリソウ (黄花錨草、学名:Epimedium koreanum ) - 日本海側に生える。花色が黄色。
トキワイカリソウ (常盤錨草、学名:Epimedium sempervirens )
バイカイカリソウ (梅花錨草、学名:Epimedium diphyllum )
脚注
注釈
^ 本来、「三枝九葉草」は中国における呼び名で、ホザキノイカリソウ に対する中国植物名。
出典
参考文献
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
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外部リンク