タッシ作『アイネーアース の艦隊』(Naufragio della flotta di Enea )、1627年。キャンバスに油彩。
アゴスティーノ・タッシ (Agostino Tassi、1578年 - 1644年 )は、ペルージア に生まれローマ で没したイタリア の画家 で、もっぱら風景画 や海景画 を描いたが、今日では、アルテミジア・ジェンティレスキ を強姦した男として最もよく知られている。
経歴
貴族の身分になりたいという思いが強かった彼は、自分の生い立ちなどの詳細を偽っていた。実際にはペルージア 生まれであったが、ローマ 生まれだと称していた。姓はボナミチ (Buonamici) であったが、タッシ侯爵 の養子になったと称して、タッシと名乗った。実際の彼の父は、ドメニコ (Domenico) という名の毛皮 職人であった。
『カピトリヌスの丘への競走 (Competition on the Capitoline Hill)』1630年代。キャンバスに油彩。カピトリーノ美術館 蔵。
もともとタッシは、リヴォルノ やフィレンツェ で働いていたようである。リヴォルノでの弟子の中には、ピエトロ・チャフェーリ がいたと考えられている[ 1] 。フィレンツェにいた時期には、何らかの犯罪で有罪とされ、トスカーナ大公 のガレー船 の囚人漕手とされたと考えられている[ 2] 。しかし、タッシは、櫂 を握ることなく、船内を自由に動き回ることが許されていた。さらに重要なことに、彼はガレー線の中で絵を描くこともできたので、この経験が後に海景画を描き、港や船や漁労の場面を描くのに役立つ材料を豊富にもたらすことになった。
タッシは、パウル・ブリル の下で芸術家としての修行したとされ、海の描き方の特徴の一部は、師ブリルから受け継いだものとされる。その後、ローマで、人物画に長けたオラツィオ・ジェンティレスキ とともに、教皇 パウルス5世 の委嘱を受けて仕事をした。
デトーレス・ランセロッティ宮殿 (イタリア語版 ) の一部、天井近くに描かれた騙し絵の架空の風景画。ティヴォリのウェスタ神殿 (英語版 ) らしきものが描き込まれている。梁と天井は実際のものだが、柱頭 は絵の一部である。
遠近法 の大家にして、建築の装飾として描かれる騙し絵 に秀でているとされていたタッシは、クイリナーレ宮殿 (1611年 - 1612年 )、ドーリア・パンフィーリ宮殿 (イタリア語版 ) (1637年、ロスピリオージ宮殿 (イタリア語版 ) 、後のドーリア・パンフィーリ美術館 )など、ローマのいくつもの宮殿 (パラッツォ )に作品を残した。
ローマでは、1625年 4月以降、フランス の画家クロード・ロラン を弟子にしていた[ 3] 。タッシは、雇い入れたロランに、絵の具の調合や家事一切をやらせていた。
タッシは、もっぱらフレスコ 壁画 によって知られていたが、キャンバス 画も描いており、『Arrival of the Queen of Sheba before Solomon 』(1610年 ころ)や『Entry of Taddeo Barberini from the Porta del Popolo 』(1632年 )が伝えられている。タッシによる夜景の描写は、オランダ のレオナールト・ブラーメル にも影響を与えた[ 4] 。
強姦罪での有罪判決
1612年 、タッシは、オラツィオ・ジェンティレスキの娘で、自身も才能ある画家であったアルテミジア・ジェンティレスキ を強姦 したとして有罪判決を受けた。タッシは、当初は嫌疑を否定し、「私は、このアルテミジアと肉体関係をもったことは一度もないし、そのような関係を迫ったこともない ... アルテミジアの家で彼女と二人きりになったこともない」などと主張した。後には、彼女の名誉を守るために、彼女の家へ出向いたとも主張した[ 5] 。タッシには前科があり、それ以前にも義理の妹のひとりと、元妻のひとりに対する強姦で訴えられていた。当時のタッシの妻は行方不明となっており、タッシがごろつきを雇って殺させたのだと思われていた。
7ヶ月に及んだ強姦罪での裁判の中で、タッシが妻の殺害を計画していたこと、義妹と近親相姦していたこと、オラツィオの絵画作品の窃取を計画していたことが明らかになった。裁判の結果、タッシは2年間投獄されることとなった。その後、この判決は破棄されて、タッシは1613年 に自由の身となった[ 6] 。この裁判は、後に20世紀 後半になってから、フェミニズム の立場からのアルテミジア・ジェンティレスキの再評価に影響を与えた。
大衆文化の中で
アニエス・メルレ (英語版 ) 監督、ヴァレンティナ・チェルヴィ 主演の1997年の映画 『アルテミシア (Artemisia )』では、セルビア の俳優ミキ・マノイロヴィッチ がタッシ役を演じた。この映画では、広く受け入れられている史実とは異なり、タッシとアルテミジアの関係を、相思相愛の情熱的なものとして描いている[ 7] 。
おもな作品
脚注
^ Encyclopedia Treccani , entry on Ciafferi.
^ Lapierre, Alexandra; Heron, Liz (2017-01-12) (英語). Artemisia . Grove Press. ISBN 9780802138576 . https://books.google.fr/books?id=O4it58RbU7cC&pg=PA115&lpg=PA115&dq=tassi+galley+slave&source=bl&ots=2VSE0VDfGL&sig=MEdNgEdDGxvAxxMTeVP2wnzTWIQ&hl=fr&sa=X&ved=0ahUKEwjs7Nqwy73RAhVEVxoKHRiHC9IQ6AEIMDAC#v=onepage&q=tassi%20galley%20slave&f=false
^ Sgalbiero, Tatiana; minutes, 50 (2015-05-13) (フランス語). Claude Lorrain et l'esthétique classique: L’art du « paysage idéal », entre réel et imaginaire . 50 Minutes. ISBN 9782806261793 . https://books.google.es/books?id=bbtBCQAAQBAJ&pg=PA14&lpg=PA14&dq=Tassi+Lorrain&source=bl&ots=Hna-m6x7TU&sig=MUUYcivCbKuz58czfTVTfPFmmBw&hl=fr&sa=X&ved=0ahUKEwiG0O33y73RAhUHvRoKHYcYDoIQ6AEIWzAI#v=onepage&q=Tassi%20Lorrain&f=false
^ Liedtke, Walter A.; Plomp, Michiel; Rüger, Axel; N.Y.), Metropolitan Museum of Art (New York; Britain), National Gallery (Great (2001-01-01) (英語). Vermeer and the Delft School . Metropolitan Museum of Art. ISBN 9780870999734 . https://books.google.es/books?id=EZxWaNlQKiYC&pg=PA67&lpg=PA67&dq=influence+of+Tassi+on+Bramer&source=bl&ots=0QNY9Exuzs&sig=6kE6egxSP4qcoRVCtIv2tn2v4Mo&hl=fr&sa=X&ved=0ahUKEwiw9rrChePRAhXGPRoKHbs4BnAQ6AEIJTAA#v=onepage&q=Tassi&f=false
^ Artemisia: The Rape and the Trial Webwinds.com
^ アゴスティーノ・タッシの絵画作品 - Art UK 。2014年1月17日 閲覧。
^ Bal, Mieke. The Artemisia Files: Artemisia Gentileschi for Feminists and Other Thinking People (p195), University of Chicago Press, 2005 ISBN 978-0226035826 .
外部リンク