『聖母被昇天 』(せいぼひしょうてん、露 : Вознесение Марии 、英 : Assumption )は、イタリア のバロック絵画 の巨匠グエルチーノ が1623年ごろ、キャンバス 上に油彩 で制作した絵画である。「聖母被昇天 」を主題としている。作品は現在、サンクトペテルブルク のエルミタージュ美術館 に所蔵されている[ 1] [ 2] 。
作品はアレッサンドロ・テナーリ (Alessandro Tanari) 伯爵により委嘱され、200年以上、彼の末裔の所蔵であった。1841年に、ニコライ1世 (ロシア皇帝) の命で、作品は、ローマ のロシア 大使館第一書記官パヴェル・クリフツォフ (Pavel Krivtsov) を通してエルミタージュ美術館のために購入されたが、ガエターノ・ジョルダーニ (Gaetano Giordani) はイタリアがかくして「著名な画家による、非常に素晴らしい作品」を失ったことを嘆いた[ 3] 。作品は翌年にサンクトペテルブルクにもたらされたが、作品がイタリアを離れる前の1840年に複製が制作され、現在はヴァチカン美術館 内の絵画館に所蔵されている。
作品
グエルチーノ『聖母被昇天』のエルミタージュ美術館での展示風景。下はアンニーバレ・カラッチ の『キリストの墓を訪れた三人のマリア 』
グエルチーノ『聖ペトロニラの埋葬 (英語版 ) 』 (1623年)、カピトリーノ美術館 (ローマ )
「聖母被昇天」の構図は通常、天使 たちに支えられ、雲に乗って天に昇る、光背 を持つ聖母マリア を表す上半分と、空になった石棺 の周囲に天を仰ぐ使徒 たちを表す下半分からなる。そのため縦長の構図が適当であるが、グエルチーノはやや横長という画面の制約を計算された構図により見事に解決している。画面は4等分され、それぞれに天をうやうやしく仰ぐ聖母と愛らしい天使たち、石棺を挟んでその左右に、神秘的な出来事にさまざまな反応を見せる使徒たちがカラッチ一族の手法、とりわけルドヴィコ・カラッチ の古典主義 を思わせる手法で描かれている[ 1] 。この作品にはまた、カラヴァッジョ の自然主義、ヴェネツィア派 の色彩や躍動感の影響も見られる[ 4] 。
本作は以前の他の絵画のモティーフを用いている[ 2] 。全体の様式は、同じくグエルチーノによる『聖ペトロニラの埋葬 (英語版 ) 』 (カピトリーノ美術館 、ローマ ) に類似している[ 5] 。本作の使徒たちは、グイド・レーニ が1617年に制作した『聖母被昇天』 (サンタンブロージョ教会、ジェノヴァ ) の使徒たちのように表され、人物の1人はグエルチーノの『聖マタイ』 (アルテ・マイスター絵画館 、ドレスデン ) と同じである。
洗礼者聖ヨハネ (前景にいる赤い衣服の人物) 像の早い時期の模写がローマ のドーリア・パンフィーリ美術館 に所蔵されており、しばらくの間グエルチーノ自身による本作のための油彩スケッチであると考えられていた。また、同じく洗礼者聖ヨハネの早い時期の別の模写が1985年10月25日にロンドン のクリスティーズ で競売に掛けられた[ 6] 。
脚注
^ a b 『NHK エルミタージュ美術館 2 ルネサンス・バロック・ロココ』、1989年、110頁。
^ a b “Assumption of the Virgin ”. Web Gallery of Artサイト (英語). 2025年3月27日 閲覧。
^ (イタリア語) Malvasia CC Felsina Pittrice. Vite de'Pittori Bolognesi / F. Pittrice. Con aggiunte, correzioni e note inedite del medesimo autore, di Giampietro Zanotti e di altri scrittori viventi. - Bologna, 1841. - T. 2. - P. 288, nota 35.
^ 『NHK エルミタージュ美術館 2 ルネサンス・バロック・ロココ』、1989年、113頁。
^ (フランス語) Cochin Ch. N. Voyage d'Italie. - Paris, 1769. - T. 2. - P. 113.
^ (ロシア語) Vsevolozhskaya S. N. Итальянская живопись XVII века. Государственный Эрмитаж. Каталог коллекции. — СПб.: Изд-во Государственного Эрмитажа, 2013. — С. 67—69.
参考文献
外部リンク