MAPK経路。
分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ (ぶんれつそくしんいんしかっせいかタンパクしつキナーゼ、英: Mitogen-activated Protein Kinase、MAPK 、EC 2.7.11.24)とはセリン/スレオニンキナーゼ の一つであり、何らかの刺激(酸化ストレス 、サイトカイン など)を受けて活性化される。全身の細胞 に広く発現しており、様々な細胞の機能発現において重要な働きをしている。単にMAP (マップ)キナーゼ と略して呼ばれることが多い。
細胞外からの刺激が入ると低分子量Gタンパク質 であるRas が活性化され、さらにその下流に続くシグナル カスケード の活性化が引き起こされる。また、MAPKホスファターゼ (MAPK Phosphatase: MKP)による脱リン酸化 がMAPKを不活性化し、この機構に対して抑制的に働いている。
狭義には細胞外シグナル調節キナーゼ (英: Extracellular Signal-regulated Kinase、ERK )1/2のみを指すが、広義にはこれに加えてc-Jun N末端キナーゼ (英: c-jun N-terminal kinase、JNK )、p38 MAPK 、ERK5 およびERK7 等の分子をも含み、MAPKファミリーとも呼ばれる。
細胞内シグナル伝達。MAPKカスケードは図中央部。
ERK1/2(古典的MAPK)
ERK1/2はMAPKファミリーの中でも最初に同定されたものであり、古典的MAPKとも称される。ERK1/2は分子量 が44kDa のERK1と42kDaのERK2 から成り、これらのタンパク質 のアミノ酸配列 は互いに85%の相同性 がある。
ERK1/2の活性化は以下のような機序で生じる。上皮増殖因子受容体 (英: Epidermal Growth Factor Receptor、EGFR)等のチロシンキナーゼ関連型受容体 にリガンド が結合すると受容体細胞内ドメイン のリン酸化 が生じる。Grb2 等のSH2ドメイン を含むアダプタータンパク質 が受容体のリン酸化チロシン に結合すると、Grb2はSH3ドメイン を介してSosと結合し、Sosを活性化させる[ 1] 。活性化したSosはRas のGDP -GTP 交換反応によりRasを活性化させる[ 2] 。以下、RasはMAPキナーゼカスケードへとシグナルを伝えていくが、Ras はMAPキナーゼキナーゼキナーゼ (MAPKKK) であるRafを、RafはMAPキナーゼキナーゼ であるMAPK/ERK kinase (MEK) を活性化し、このMEKによりERKの活性化が引き起こされる。ERKの活性化にはThr 183及びTyr 185が重要な働きをしている。通常ERK1/2は細胞質 に優位に存在するが、活性化されることにより核 内へ移行して転写因子 と相互作用することにより転写 の制御を行っている。この経路はPD98059、U0126 等の試薬によって阻害される。
新規MAPK
JNK
JNK はc-JunのSer 63とSer73をリン酸化する活性を持つキナーゼとして同定された。JNKは放射線 やリポ多糖 (LPS)、IL-1 、浸透圧 及び熱ショックなどのストレス により活性化し、ストレス応答性MAPK (Stress-activated Protein Kinase、SAPK) とも呼ばれる。
JNK遺伝子にはJNK1-3が存在する。JNK1,2は全身の細胞に広く分布しているが、JNK3は主に神経系及び精巣において見られる[ 3] 。
JNK1はアポトーシス や神経変性 、細胞の分化 ・増殖、炎症性サイトカイン の産生などの過程に関与している[ 4]
。JNKは様々な細胞内タンパク質のリン酸化を行い、それらの機能修飾をしている。SP600125によって阻害される。
p38 MAPK
p38MAPKはサイトカインによる刺激や紫外線照射、熱・浸透圧ストレス などによって活性化されるプロテインキナーゼ であり、Thr180/Tyr182のリン酸化がp38MAPKの活性化において重要な働きをしている。p38MAPKの遺伝子にはp38MAPKα,β,γ及びδの4種類が知られている。p38MAPKの上流にはMKK3やMKK6が存在する。SB203580 により阻害される。
脚注
^ Schulze WX, Deng L and Mann M (2005). “Phosphotyrosine interactome of the ErbB-receptor kinase family” . Mol. Syst. Biol. 125.0008 . doi :10.1038/msb4100012 . PMC 1681463 . PMID 16729043 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1681463/ .
^ Zarich N, Oliva JL, Martínez N, Jorge R, Ballester A, Gutiérrez-Eisman S, García-Vargas S, Rojas JM (2006). “Grb2 is a negative modulator of the intrinsic Ras-GEF activity of hSos1” . Mol. Biol. Cell. 17 (8): 3591-3597. doi :10.1091/mbc.E05-12-1104 . PMC 1525251 . PMID 16760435 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1525251/ .
^ Waetzig V and Herdegen T (2005). “Context-specific inhibition of JNKs: overcoming the dilemma of protection and damage”. Trends Pharmacol. Sci. 26 (9): 455-461. doi :10.1016/j.tips.2005.07.006 . PMID 16054242 .
^ Oltmanns U, Issa R, Sukkar MB, John M, Chung KF (2003). “Role of c-jun N-terminal kinase in the induced release of GM-CSF, RANTES and IL-8 from human airway smooth muscle cells” . Br. J. Pharmacol. 139 (6): 1228-1234. doi :10.1038/sj.bjp.0705345 . PMC 1573939 . PMID 12871843 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1573939/ .
出典
外部リンク