ルビーロマンは、ブドウの栽培品種の一つ。果皮が赤く、果粒は短楕円形で大粒の早生種である。生産地は石川県。
概要
石川県が開発し2007年(平成19年)に品種登録されたブドウで[1][2]、直径3cm以上の大粒と鮮やかな赤色の皮が特徴となっている[3]。石川県が戦略作物として地域ブランド化に取り組んでいるが出荷量が少ないことが課題とされている[4]。
新品種の開発と実用化
石川県は能登地方南部から加賀地方にかけて日本海に沿って長い砂浜海岸が発達している。このため砂丘特産の農産物であるスイカ、ダイコン、カキ、ブドウなどの生産が盛んである[5]。ブドウ栽培ではデラウェアなどの小粒品種が2004年(平成16年)で73%を占めており、巨峰などの大粒品種は少ない。これは石川県の夏季の温暖な気候により大粒品種では果粒の破裂や色付き不良などを起こしやすいためであるとされる。しかし、消費者は食べやすく、より高級感のある大粒なブドウを好む傾向が強まっているとして、ブドウ栽培農家から要望を受けた石川県が品質と栽培性ともに優れた赤色大粒品種の開発に取り組むこととなった[6]。
開発に当たった石川県農業総合研究センターの砂丘地農業試験場(かほく市)では、1995年(平成7年)に黒色大粒品種の「藤みのり」の自然交雑種子約400粒を播種し[2]、このうち40個の苗を圃場に定植。1997年(平成9年)から生育状態や果実の品質をもとに選抜を開始し、2002年(平成14年)に果皮が赤色で食味が有望な1個体(ブドウ石川1号)が選ばれた[6][1]。ブドウ石川1号は、その後の試験で、短楕円形の果粒の重さは平均21.6gと「藤みのり」や「安芸クイーン」の約1.5倍になること、果皮は鮮やかな赤色で、はがれやすく、果肉は白色で軟らかであること、果汁の糖度は20%前後で「藤みのり」より高く、酸味は少ないこと、収穫は雨よけ施設栽培で8月下旬から9月中旬、密閉施設栽培で8月の旧盆前後に可能であることなどが分かった[6]。これらの結果を踏まえ、2005年(平成17年)3月に種苗法に基づく品種登録の申請がされ、2007年(平成19年)3月に新たな品種として登録された[1][2][6]。2005年(平成17年)からは石川県内5地域で現地実証試験が始められ[7]、砂丘地農業試験場では人工授粉、摘粒・摘房、土壌改良、水分管理など安定栽培技術を確立するための研究が行われた[8]。
2020年には、開空率を測定して商品化率を高めるスマートフォンアプリが開発された[9]。2019年からエイブルコンピュータ(金沢市)が開発し、生産者の半数が使用している[9]。
地域ブランド化の取組
ブドウ石川1号は品種登録に先立ち2004年(平成16年)に公募でルビーロマンと命名された。石川県はルビーロマンの地域ブランド化を目指して2005年(平成17年)に戦略作物に選定し[1]、栽培農家との間で有償無償を問わず第三者に苗を譲渡しないとの誓約書を交わすなど苗木の流出を防ぐ[10]とともに、2007年(平成19年)には首都圏での販売戦略を総括するブランド食材プロデューサーを民間から起用した[11]。
ルビーロマンは、房の重さ(出荷初年度の2008年(平成20年)は一房450g以上、2年目からは一房350g以上)、一粒当たりの重さ(20g以上)、糖度(18度以上)、色などの出荷基準が定められており、規格外品は販売することができない[12][13]。規格は、秀、秀G、特秀、特秀G、プレミアムの5段階で、最上級のプレミアム[2]は一房が約700g以上、一粒当たりの重さが約30g以上とされている。「G」は秀と特秀の房のうち一粒当たりの重さがプレミアムと同じ約30g以上のものに付される[14]。
また品質保証の取組として、出荷箱に生産地と生産者が記入されたシールが貼られるほか、房には基準に合格したことを示す認証シールが貼られ、品質検査を行ったJAの検査員名の印が押された認証タグが取り付けられることとされている[15]。ブランドイメージを表すロゴは商標登録されている[13]。
2008年(平成20年)に金沢市中央卸売市場で行われた初競りでは最高値が一房10万円となった[3][16]。以後各年の初競りでの最高値(一房)は、2009年(平成21年)21万円[17]、2010年(平成22年)20万円[18]、2011年(平成23年)50万円[19]であり、平均落札価格は2011年(平成23年)で一房6,110円と総じて高値で取引されている[4]。また、近年は初競りにおいて高値で落札される傾向があり、北陸新幹線が金沢駅まで開業した2015年(平成27年)は100万円[3][20]、2017年(平成29年)は111万円[21]で落札された。2019年(令和元年)に120万円[22][23][24]、2020年(令和2年)には130万円[25][26]、2021年(令和3年)は140万円で落札され[27][28]、2022年(令和4年)の落札価格は150万円[29]と4年連続で最高値を更新している[27]。
2021年8月時点では、県内のほか東京都、大阪府へと出荷されている[30]。2021年には最高等級の一房が東京の市場において10万円で競り落とされている[31]。それらはすべてトラックのチャーター便で輸送されているが、費用対効果の面から北陸新幹線を利用しての輸送が検討されている[30]。
一方、出荷量は2011年で8,522房と少なく、栽培技術の向上や作付面積の拡大が求められている[4]。また規格外品の有効活用が課題とされる。2010年からはブランドイメージを損なわない有効活用策として加工品認証制度が設けられ、2011年に洋菓子など5商品が選定されている[32]。
生産地
日本国外での品種登録・栽培状況
日本国外での品種登録を行っていない。
植物の新品種の保護に関する国際条約においては、自国外における果物の品種登録は自国内での登録から一定期間(ブドウは6年)以内に行うことが定められており[33]、ルビーロマンは2013年に申請期限を過ぎている。このため日本国外では日本の許可などを要さず合法に栽培できる。
2021年4月9日、農林水産省は改正種苗法の施行に伴い海外持ち出しを禁止とする品種を公表し、石川県の「ルビーロマン」も含まれている事が判明したが[34]、2021年からソウル市の百貨店でルビーロマンに酷似したブドウが「ルビーロマン」として販売、韓国国内で広く流通していること判明した[35]。これを受けて県が調査したところ、当該ブドウとルビーロマンの遺伝子が一致した[36]。5年以上前に中国経由で韓国に流入したとされるという[37][38]。そのため県は、韓国国内の種苗会社が取得していた「ルビーロマン」の登録商標を司法手続きによって無効化させるための措置を取り、無効化した[38]。
脚注
- ^ a b c d 「ルビーロマンの概要」石川県
- ^ a b c d “1房100万円! 超高級ブドウ「ルビーロマン」を安く買う“ワザ””. AERA dot. (2015年7月22日). 2020年4月26日閲覧。
- ^ a b c “ブドウ1房100万円 石川県開発の「ルビーロマン」”. 朝日新聞デジタル. (2015年7月9日). https://www.asahi.com/articles/ASH784WQ8H78PJLB00D.html 2020年4月26日閲覧。
- ^ a b c 「ルビーロマン4年目 ブランド定着へ一歩ずつ」『北國新聞』2011年10月20日
- ^ 「いしかわの食と農業・農村ビジョン(2006年)」石川県 (PDF)
- ^ a b c d 嶋雅康、田村茂之、稲部善博、野畠重典、高山典雄『ブドウ新品種'ルビーロマン'』2006年 石川県農業総合研究センター研究報告 (PDF)
- ^ 嶋雅康『'ルビーロマン'の品種特性』(石川県農業総合研究センター) (PDF)
- ^ 本多梨紗、嶋雅康、玉村壮太『「ルビーロマン」の安定栽培技術』(石川県農業総合研究センター砂丘地農業試験場) (PDF)
- ^ a b 『ルビーロマン栽培アプリ開発を発表 エイブルコンピュータ』(2021年8月12日付北國新聞朝刊3面)2021年8月12日閲覧
- ^ 「ルビーロマン ブランド守れ 苗木流出阻止へ農家と誓約書」『北國新聞』2007年7月3日[リンク切れ]
- ^ 「食材プロデューサー配置 「日本一」大粒ブドウ・ルビーロマン 首都圏に照準」『北國新聞』2007年2月14日[リンク切れ]
- ^ 「新品種ブドウ「ルビーロマン」初出荷 小松の集出荷場」『北國新聞』2008年8月21日[リンク切れ]
- ^ a b 「来月中旬に初出荷 ルビーロマン生産者が大会」『北國新聞』2009年6月26日[リンク切れ]
- ^ 「ルビーロマンに新規格、大粒はGマーク 生産量、昨年の3倍に」『北國新聞』2010年6月24日[リンク切れ]
- ^ 「品質」ルビーロマン倶楽部
- ^ “「夢のブドウ」初競り1房10万円も、石川県開発のルビーロマン”. AFP BB NEWS. (2008年8月12日). https://www.afpbb.com/articles/-/2505359 2020年4月26日閲覧。
- ^ 「ルビーロマン、21万円 金沢市中央卸売市場で初競り 流通2年目、好発進」『北國新聞』2009年7月14日[リンク切れ]
- ^ 「ルビーロマン初競り 金沢産いい出来 20万円の輝き」『北國新聞』2010年7月29日[リンク切れ]
- ^ 「ルビーロマン1房50万円 金沢市で初競り、1粒2万円」『北國新聞』2011年7月29日[リンク切れ]
- ^ 『【ホテル日航金沢】ルビーロマン今季初競りにて 1房100万円(1粒38,462円)で落札』(プレスリリース)ニッコー・ホテルズ・インターナショナル、2015年7月10日。https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000922.000002213.html。2020年4月26日閲覧。
- ^ “高級ブドウ過去最高111万円で落札 「ルビーロマン」初競り”. 日本経済新聞. (2017年7月7日). https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG07H19_X00C17A7CC0000/ 2020年4月26日閲覧。
- ^ 北國新聞2019年12月21日付け朝刊30面
- ^ “石川の高級ブドウ「ルビーロマン」、初競り120万円”. 日本経済新聞. (2019年7月9日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47118730Z00C19A7CC0000/ 2020年4月26日閲覧。
- ^ “高級ブドウ1房120万円 過去最高、金沢で初競り”. 産経フォト. (2019年7月9日). https://www.sankei.com/photo/story/news/190709/sty1907090009-n1.html 2020年4月26日閲覧。
- ^ 「130万円 早速味わう ルビーロマン 初競り最高値」(2020年7月17日付北國新聞朝刊29面)2020年7月18日閲覧
- ^ 「1房130万円」超高級ブドウ・ルビーロマン初競り 甘くて食べ応え 石川(2020年7月17日、毎日新聞)2020年7月18日閲覧
- ^ a b 過去最高1房140万円 高級ブドウ初競り、金沢(2021年7月16日、iza=産経新聞)2021年7月17日閲覧
- ^ ルビーロマン1房140万円 石川産最高値(2021年7月17日、日本農業新聞)2021年7月17日閲覧
- ^ 高級ブドウ「ルビーロマン」、初競りで1房150万円…1粒当たり5万5000円(2022年7月15日、読売新聞)2022年10月16日閲覧
- ^ a b 『ルビーロマン 新幹線で輸送 JA全農が27日試験』(2021年8月25日付北國新聞朝刊28面)2021年8月25日閲覧
- ^ 最高等級ルビーロマン 1房10万円(2021年8月14日、北陸中日新聞)2021年8月25日閲覧
- ^ 「5商品に初の認証 ルビーロマン加工品」『北國新聞』2011年11月2日[リンク切れ]
- ^ “植物の新品種の保護に関する国際条約 (UPOV 条約 1991 年法)” (PDF). 特許庁. 2020年9月28日閲覧。
- ^ “「改正種苗法」海外へ持ち出し禁止品種を公表”]. 農業ビジネス. (2021年4月12日). https://nou-biz.com/news/revised_seed_act-maff/ 2021年7月31日閲覧。
- ^ 【石川】「ルビーロマン」韓国で流通 百貨店販売 無断栽培か(2021年8月28日、中日新聞)
- ^ 1房150万円もある「ルビーロマン」、韓国に苗木流出か…現地のブドウと遺伝子一致(2022年9月7日、読売新聞)2022年10月16日閲覧
- ^ 最高級の「ルビーロマン」苗木流出は5年以上前か…14年かけ開発、生産者「がっかり」(2022年9月8日、読売新聞)2022年10月16日閲覧
- ^ a b 【石川】「ルビーロマン」韓国 商標登録無効に 当局先月、業者ら紛争受け(2022年9月17日、中日新聞)2022年10月16日閲覧
関連項目
外部リンク
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西アジア種群 ヨーロッパ・ブドウ ヴィニフェラ種 | |
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北米種群 アメリカ・ブドウ ラブルスカ種 | |
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東アジア種群 | |
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雑種 |
ヴィニフェラ×ラブラスカ系 交雑種 | |
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ヴィニフェラ×ラブラスカ×リンケクミー系 交雑種 | |
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ヴィニフェラ×ラブラスカ×エースティバリス系 交雑種 | |
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ヴィニフェラ×ダヴィディ系 交雑種 | |
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ヴィニフェラ×アムレンシス系 交雑種 | |
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三倍体 交雑種 | |
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四倍体 交雑種 | |
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