QM/MM (Quantum Mechanics/Molecular Mechanics) 法は、正確な量子力学 的手法 (QM) と高速な分子力学法 (MM) の各々の長所を組み合わせた計算化学 の手法である。本手法によって、溶液やタンパク質における化学過程のような、大規模な系の取り扱いが可能になった。QM/MM法は1976年にウォーシェル とレビット の論文中で初めて発表された[ 1] 。ウォーシェル とレビット はカープラス と共に、「複雑な化学系のためのマルチスケールモデルの開発」という受賞理由で、2013年にノーベル化学賞 を受賞した[ 2] [ 3] 。
QM/MM法の大きな長所は効率が良いことである。ほとんどの素朴な分子力学法 (MM) の計算コストはO (N 2 ) に比例する(ここでN は系の原子数を表す)。これは主に静電相互作用の項によるものである。 しかし、カットオフ半径、 周期系におけるペアリストの更新、粒子メッシュエバルト (PME) 法 といった各手法を導入することで、計算量はO (N ) からO (N 2 ) 程度に削減できる。 換言すると、系の原子数を倍にしても、その計算時間は2倍から4倍程度に収まることを意味する。 一方で、単純な第一原理計算 の計算コストはO (N 3 ) に比例し、更に大きい場合もある(制限ハートリー=フォック計算 はO (N 2.7 )にスケールするとされてきた)。ここで、N は基底関数 の数を表し、 各原子は最低でも電子数個の基底関数 を必要とする。 上述の計算量の限界を克服するため、関心のある小規模な部分系 (酵素の活性部位など) のみを量子力学 的手法 (QM)により取り扱い、周囲を古典的に取り扱う[ 4] 。
問題点
QM/MM法は高効率な場合が多いが、扱い方には注意を要する。系の中でQMにより扱う領域を決定する必要があるが、その領域を変更すると、計算結果や計算時間に影響が生じる。系の原子配置やその平衡構造からのずれにより、QM領域とMM領域の相互作用は変わりうる。一般にQM領域とMM領域の境界はC-C結合上に設定され、電荷を帯びた原子団内には境界が無いようにする。このように系の電荷分布が異なると、モデルの質に影響しうる[ 5] 。
出典
^ Warshel, A; Levitt, M (1976). “Theoretical studies of enzymic reactions: Dielectric, electrostatic and steric stabilization of the carbonium ion in the reaction of lysozyme”. J. Mol. Biol. 103 (2): 227–49. doi :10.1016/0022-2836(76)90311-9 . PMID 985660 .
^ "The Nobel Prize in Chemistry 2013" (PDF) (Press release). Royal Swedish Academy of Sciences. 9 October 2013. 2013年10月9日閲覧 。
^ Chang, Kenneth (October 9, 2013). “3 Researchers Win Nobel Prize in Chemistry” . New York Times . https://www.nytimes.com/2013/10/10/science/three-researchers-win-nobel-prize-in-chemistry.html October 9, 2013 閲覧。
^ Brunk, Elizabeth; Rothlisberger, Ursula. “Mixed Quantum Mechanical/Molecular Mechanical Molecular Dynamics Simulations of Biological Systems in Ground and Electronically Excited States”. Chem. Rev. 115 (12): 6217–6263. doi :10.1021/cr500628b . PMID 25880693 .
^ Hans Martin Senn, Walter Thiel (2009). “QM/MM Methods for Biomolecular Systems”. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 48 : 1198–1229. doi :10.1002/anie.200802019 .
関連項目