NEOWISE彗星 (C/2020 F3) は、赤外線 観測衛星NEOWISE によって2020年 に発見された長周期彗星 である[ 1] [ 2] 。NEOWISE彗星という名称のついた彗星 は複数発見されているため、明確な区別のために以下、本文では「C/2020 F3」と呼称する。日本 国内ではネオワイズ彗星 と表記されることが多い[ 4] [ 5] [ 6] 。「2020年の大彗星 (The Great Comet of 2020) 」とも呼ばれている[ 7] [ 8] 。
発見と特性
NEOWISE彗星 (C/2020 F3)の軌道
C/2020 F3は2020年 3月27日 、アメリカ航空宇宙局 (NASA)が2009年 に打ち上げた赤外線観測衛星NEOWISE での観測から発見された[ 2] [ 5] 。C/2020 F3は軌道離心率 が1(1だと放物線軌道 、それを超えると双曲線軌道 になる)に非常に近い極めて潰れた楕円 軌道で太陽 を公転 しており[ 1] [ 2] 、オールトの雲 から飛来してきた天体とされている[ 9] 。極めて極端な楕円軌道を公転しているため、近日点 では水星 よりも内側の太陽から約0.29 au (約4400万 km )まで接近するが、遠日点 では709.35 au(約1061億 km)まで遠ざかる。黄道 面に対する軌道傾斜角 は約129度 に達する[ 1] 。
太陽系内部へ飛来する前の公転周期 は4,300年であったが、2020年の太陽系の内部への接近により現在では6,700年程度まで長くなっている[ 9] 。2020年7月5日時点の軌道要素 では、次に近日点を通過するのは8786年 頃になるとされていたが[ 10] 、2020年7月21日時点でジェット推進研究所 が公開している小天体データベースJPL Small-Body Database が採用している、元期 2020年8月3日の軌道要素に沿うと、次にC/2020 F3が近日点を通過するのは8704年頃となる[ 1] 。
NEOWISEによって撮影された赤外線画像からは、C/2020 F3の核 の直径は約5 km ほどと推定されている[ 3] 。これはエンケ彗星 (4.8 km)や百武彗星 (4.2 km)の核の直径よりも大きく、この程度の規模の核を持つ彗星は大抵が短周期彗星 である[ 11] 。赤外線画像と可視光線 によるデータを組み合わせた結果、核は煤けた暗い粒子によって覆われているとみられている[ 3] 。
2020年7月13日には、これまでヘール・ボップ彗星やアイソン彗星 などの非常に明るい彗星でしか確認されていなかった「ナトリウムの尾」がC/2020 F3に存在することが発表された[ 12] 。
観測
地球上からの観測
2020年の前半にはすでにATLAS彗星 (C/2019 Y4) とSWAN彗星 (C/2020 F8) の2つの彗星が太陽に接近し、明るい彗星になることが期待されたが、共に近日点通過前に核が崩壊し、それほど明るくなることはなかった。それに対して、これらの彗星の後に太陽に接近したC/2020 F3は近日点通過後も核の崩壊が発生せず、長い尾 を伴う巨大な彗星となり、多くの天体観測者を魅了させた[ 13] [ 14] 。その尾の大きさからC/2020 F3は、メディアなどでは1997年 に観測された大彗星 であるヘール・ボップ彗星 と対比されることもある[ 13] [ 15] [ 16] 。
発見当時の見かけの等級 は17等級 だったが、6月頃には眼視等級まで達した[ 5] 。C/2020 F3は2020年 7月3日 (日本時間では7月4日 )に近日点を通過したが、彗星接近前はこのころのC/2020 F3の見かけの等級は最大でも約3等級程度と予想されていた[ 6] 。しかし、C/2020 F3は近日点通過直前から予想以上の増光を起こし、6月末にはC/2020 F3は0〜1等級程度にまで明るくなり[ 17] 、夜明け前の空の低い位置に尾をなびく様子が肉眼でも観測された[ 5] [ 9] [ 10] 。近日点通過直後には彗星のダストテイル (塵の尾)の長さは地球上から見ると約6度 に達し、また淡い青色のイオンテイル (イオンの尾)も観測されている[ 15] [ 18] 。日本国内でも、沖縄県 の石垣島天文台 [ 19] [ 20] を始め、広い地域で尾をなびく姿が観測されている[ 21] [ 22] 。
7月中旬からはC/2020 F3は日没 後の北西の空に見えるようになり、7月23日に地球から約1億300万 kmの距離まで最接近する[ 9] 。その後、7月下旬にかけてC/2020 F3は暗くなっていき、8月下旬には肉眼で観測することができなくなると予想されている[ 5] [ 23] 。
宇宙からの観測
2020年7月5日にパーカー・ソーラー・プローブが撮影したNEOWISE彗星
6月22日 - 27日には、C/2020 F3は太陽観測衛星SOHO のLASCO C3カメラが撮影しているコロナグラフ画像 の視野内に写り込んだ[ 9] 。コロナグラフ画像に写り込む頃にはC/2020 F3の見かけの明るさは3等級よりも明るくなっていた[ 24] 。
また、尾をなびくC/2020 F3の様子は国際宇宙ステーション (ISS)に滞在中の宇宙飛行士 [ 10] [ 23] [ 25] や、太陽探査機 のパーカー・ソーラー・プローブ と太陽観測衛星のSTEREO [ 26] からも撮影されている。パーカー・ソーラー・プローブに搭載されている光学観測装置「WISPR」からも、C/2020 F3から伸びるダストテイル(塵の尾)とイオンテイル(イオンの尾)の姿が観測されているが、この画像からイオンテイルがさらに2方向に分化している可能性が示されている[ 26] 。
画像
出典
関連項目
外部リンク