Intel 440BXはPentium II、Pentium III、Celeronに対応したインテルのチップセットであり、単に440BXと呼ばれることも多かった。正式名称はIntel 440BX AGP set。1998年4月にリリースされた[1]。
概要
440BXは、440FXと440LXの後にインテルがリリースした、Pentium II向けの3番目のチップセットである。Pentium IIで採用された100MHzのフロントサイドバスを新規でサポート[1]することにより、より高い性能を実現した。
440BXは当初Slot 1を搭載したマザーボードがほとんどであったが、Socket 370に対応したCoppermineのPentium IIIが発売されたあたりからSocket 370を搭載したマザーボードも増えてきた。Slot 1搭載マザーボードでも、ゲタを使用する事でSocket 370にも対応できた[2]。FSB 100MHz×11倍=最大1.1GHzのCPUに対応した[注 1]。
440BXは440EXと440ZXと440ZX-66を派生に持つ。いずれも440BXの廉価版である[3]。詳しい事はラインナップと仕様を参照。
長い製品ライフサイクル
440BXは当時非常に人気が高く、長きに渡り使われたチップセットであった。
440BXは後継のチップセットよりも信頼性が高く、製品ライフサイクルも長かった。Intel 810チップセットはAGPがサポートされなかったためコアユーザーからスルーされ、440BXの後継とされていた[4]Intel 820チップセットはAGPのサポート[5]こそあったものの、RDRAMが高価格で一向に普及しなかった[5]上、MTHの不具合でリコールされた[6]ことにより「信用できない」「安定しない」というイメージを持たれることになり、完全な失敗作に終わってしまった[4]。i820が失敗に終わった事情もあり、インテルはAGPがサポートされるIntel 815チップセットがリリースされるまで440BXを延命させざるを得なくなり[4]、i815がリリースされるまで440BXを使い続けるユーザーも多かった。そのi815もメモリが512MBしかサポートされなかった[4]ので、i815のリリース以後もメモリが1GBまでサポート[注 2]される440BXを使い続けるユーザーも存在した。
非公式ではあるが440BXはマザーボードによっては133MHzのFSBに設定することが可能だった[7]。ただし、133MHzのFSBはオーバークロック設定扱いだったので、AGPのクロックも66MHzから88MHzに、PCIのクロックも33MHzから44MHzにクロックアップされるため、AGPやPCIに増設した拡張カードが不安定になる、最悪全く動作しなくなることもあり、マザーボードが133MHzのFSBに対応していたとしても、133MHzのFSBに対応したCPUへの換装はマイクロコードがない状態での換装になることや、AGPやPCIのクロックアップといったクリアすべき問題点が多く、ユーザーの自己責任で試すしかない状況であった[8]。また、Tualatin/Tualatine-256Kに対応できないという問題もあった。
そのTualatin/Tualatine-256Kに対応できない問題を解決したのがゲタである。ゲタはPowerLeapから発売され[9][10]、Coppermine/Coppermine-128Kにしか対応できない440BXをTualatin/Tualatine-256Kに対応できることがあった。ただし、マザーボードのBIOSが対応しておらずCPUのマイクロコードがない状態で動作させることになるため、マザーボードによっては相性で正常動作しないことも多かった[10]上、133MHzのFSBに対応するCPUを使用する場合、133MHzのFSBに設定できるマザーボードで使用しないと規定クロックで動作しなかった[11]。詳しくはSlot 1やSocket 370の記事を参照のこと。
440BXはUltra ATA/33しかサポートされなかった[12]ことが弱点の1つとして当時よく挙げられていたが、発売からしばらく経ってオンボードでUltra ATA/66やUltra ATA/100のコントローラーICを搭載することによりUltra ATA/66やUltra ATA/100をサポートするマザーボードがリリースされるようになった[12][7]。Ultra ATA/66やUltra ATA/100に限らず、チップセットではサポートされないRAID[7]やSCSI[13]やサウンド[13][14]やIEEE1394[14]やEthernet[13]などをオンボードで搭載するマザーボードもリリースされていくようになった。長きに渡り使われ続けたことでこういった多機能なマザーボードがリリースされる結果となり、そういった440BXの弱点を補うマザーボードのリリースも440BXの製品ライフサイクルの長寿命化に拍車をかけた。
後継のチップセットが失敗に終わった結果、440BX搭載マザーボードは安定性を重視する法人にも受け入れられ、Pentium 4などのNetBurstマイクロアーキテクチャが主流となった後も、発売から実に5年以上の長きにわたって販売され続け、息の長いチップセットとなった。
ラインナップと仕様
製品名 |
サポートソケット |
サポートCPU |
対応FSB |
対応メモリ |
メモリスロット数(最大) |
最大メモリ容量 |
サポートI/F |
対応ATA
|
440BX |
Slot 1 Socket 370 |
Pentium II Pentium III (Katmai/Coppermine) Celeron (Mendocino/Coppermine-128K) |
66MHz 100MHz |
PC66/PC100 SDRAM[注 3] |
4 |
1GB |
AGP 2x/PCI/USB1.1×2 |
Ultra ATA/33
|
440EX |
Slot 1 Socket 370 |
Pentium II Celeron (Mendocino/Coppermine-128K) [注 4] |
66MHz |
PC66 SDRAM[注 3] |
2 |
256MB |
AGP 2x/PCI/USB1.1×2 |
Ultra ATA/33
|
440ZX |
Slot 1 Socket 370 |
Pentium II Pentium III (Katmai/Coppermine) Celeron (Mendocino/Coppermine-128K) |
66MHz 100MHz |
PC66/PC100 SDRAM[注 3] |
2 |
512MB |
AGP 2x/PCI/USB1.1×2 |
Ultra ATA/33
|
440ZX-66 |
Socket 370 |
Celeron (Mendocino/Coppermine-128K) [注 5][注 4] |
66MHz |
PC66 SDRAM[注 3] |
2 |
512MB |
AGP 2x/PCI/USB1.1×2 |
Ultra ATA/33
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脚注
注釈
- ^ 後述するPowerLeap製のゲタが正常動作するマザーボードならゲタの使用で最大1.4GHzまで対応可能。
- ^ ただしメモリスロットを4本搭載しているマザーボードに限る(256MB×4本=1GB)。440BXの中にはメモリスロットが2~3本しかないマザーボードも存在した。また、440BXは512MBのメモリーモジュールは使用できない。
- ^ a b c d これを超える速度のSDRAMも使用可能であるが、FSBの速度に合わせられてしまう。
- ^ a b Pentium IIIはFSB 66MHzに対応したCPUが存在しないので使用できない。
- ^ Pentium IIはSlot 1向けしかラインナップがないので使用できない。
出典
関連項目