ESOP(イーソップ、イソップ)とは、『Employee Stock Ownership Plan(従業員による株式所有計画)』の頭文字をとったものであり、企業拠出による従業員に対する退職時雇用者株式給付制度を指す。米国ではEmployee Retirement Income Security Act(ERISA:従業員退職所得保障法)およびInternal Revenue Code (I.R.C.:内国歳入法典)において定義[1][2]され、制度の租税法上の適格性要件が厳格に定められた適格退職金・年金制度であり、確定拠出型年金信託の一形態である[3][4][5]。アイルランド及び英国(及びオーストラリア等の連邦諸国)においても、米国と同様の法制度が存在する。また、中国[6]、ロシア、ハンガリーなどで同様の制度導入が進んでいるといわれている。
これを実現するスキームとしては、ノンレバレッジドESOP[7]と呼ばれている株式賞与制度(stock bonus plan)とレバレッジドESOP[8]と呼ばれるマネー・パーチェス年金(money purchase)の二つの形態がある。いずれの形態も、会社従業員に会社の資産および収益を分配する仕組みであるが、特にレバレッジドESOPは、会社の資産または将来収益を担保とするエンプロイー・バイアウトの一種として構築される。
ESOPは本来より、混合経済等の社会主義的バイアスを排除し、公正な資本主義を実現する目的をもって設立されているが、最近では、バイナリ・エコノミクス(市場経済運営パラダイム)の観点から、また、従業員による資本所有(議決権保有と利益分配への参加)の効用について、コーポレート・ガバナンスの観点[9]から、この有効性が期待されている。[10]
なお、ESOPをEmployee Stock Option Planと誤解したり、従業員が株式を所有するために何らかの手助けをするものをESOPと混同するきらいがあるので注意が必要である。特に、401(k)確定拠出型年金制度における自社株投資可能部分や、423ESPP(Employee Stock Purchase Plan:従業員株式買付補助制度)などをESOPに含めて考えるのは誤りである。特に、新聞記事等で日本版ESOPと称されるスキームの中には、ESOPとは思想、目的がまったく異なる従業員持株会[11][12][13]利用スキームが含まれており、このようなスキームを、米国のESOPを参考にしたインセンティブプランなどと宣伝する悪質な金融仲介業者が数多く存在するので、注意が必要である。
ESOPの意義と目的
ESOPは、単に従業員が雇用者株式を所有することを指すものではなく、自由と私有財産制に基づく公正な資本主義運営を個別の企業の自助努力により実現することを目的とする制度である。
ESOPが最初に実現したのは1956年といわれるが、「ESOPについて考え始めたのは、大恐慌の底1931年である。」[14]と発案者であるルイス・ケルソは語っている。ここで、ESOPの出発点は、米国資本主義経済が自壊する様を目の当たりにして発せられた、『資本主義とは何か』という問いにあったことが明らかにされる。(ケルソの資本主義に対する問いは、モーティマー・アドラーとの共著であるThe Capitalist Manifesto他[15]において詳細が明らかにされている。)
この本源的な問いに「一つの明快な回答を提示し、さらにこの資本主義システムが不用意に用いられる[16]ときに起きる『富の偏在』[17]がもたらす、社会構造に対する破壊的な挑戦(民主主義体制の崩壊、全体主義・国家支配へと向かう社会主義的性向、あるいは混合経済体制の左傾化と官僚の腐敗による社会的不公正と経済の不安定性)から、資本主義を救済する手段」としてケルソが提示したのが、『ESOP=従業員による株式所有を実現する計画』であり、富の創造源である資本そのものを公平かつ正当に分配することによって、経済格差を是正し、資本主義の前提である自由と民主主義を実現するための究極的な手段である。[18]
ケルソ自身は、自由と民主主義の前提に拘って、この手段を制度的強制に依らず、各企業が個別に用いることで資本主義的革命(capitalist revolution)を進行させることを説いている。この革命が目標とする具体的成果は、人間労働力の資本に対する相対的劣後に起因する雇用の減少に対する需要の確保(インフレ、デフレ、バブル等の発生を抑え、経済変動を安定化させること[19])と、法人所得の個人への広範な分配を可能にすることに基づく法人税率の引き下げ(これによる企業資本の競争力回復)である。これを実態に則して換言すれば、資本に労働者が従属する原始的状態からこの関係を逆転させ、労働者に資本を従属させることによって、労働組合や従業員代表制の法制化などの外部(政府等)の干渉によることなく、合法的かつ公正に労働者の(企業に対する)主権を回復し、同時に株式に付帯する権利を解放することによって、経済における人間性の復権と資本の価値の回復を実現する手段として提起されたものである(『資本主義宣言』)ということを意味する。
したがって、各企業の株式は、労働者の成果分配の一環として、雇用者企業の負担において公正に労働者に分配されなければならず、雇用者企業は自ら株式を資本家から回収して労働者に分配するか、新たに獲得された富を資本化してこれを労働者に分配することが求められる。[20]
これに抵抗する勢力は、ウォール街に表象される金融権力[21]であるとされるが、ケルソ自身が、レバレッジドESOPはこの勢力を資本主義革命に引きずり込むための方便として設計されたが、結局金融権力によって矮小化されている[22]ことを告発している。金融批判として、ケルソは他の著述で、労働者が資本を取得する際の金融(ローン)は、中央銀行が積極的に「無利子で」行うべきだとしている。これは、資本の果実が、労働者にではなく金融業者に渡ってしまうことを防止するためである。
この他、企業がESOPの導入に抵抗するいくつかの理由として、利益水準が低いために導入コストに耐えられない、家族所有(ファミリービジネス)を崩したくない、従業員と経営陣が対立しているなどという企業実態が挙げられているが、M&A仲介業者などが、自分たちの手数料ビジネスを失いたくないために否定的である[23]というものもある。このように、証券仲介業者や投資銀行は総じてESOPに否定的である。
日本でのESOPの効用についての研究は少ないが、米国を中心に多数の実証的研究がなされており[24]、これらの孫引き的なものではあるが米国の状況についてのいくつかの論文[25][26]が存在する。
制度概要
米国では1956年にケルソによって考案された最初のスキームが採用[27]され、1958年にアドラーとの共著The Capitalist Manifesto(資本主義宣言) [28]、1961年にはThe New Capitalistの出版によりこの、資本の再分配の手段としてのコンセプトが示された。この後、1974年ERISA法において自社株式による退職給付を前提とする確定拠出型年金制度の一種として採用されるに至る[29]。
ESOP AssociationやNational Center for Employee Ownership(NCEO)の統計に依れば、現在では約1万社が導入しているといわれ、英国でも、これに倣った制度が、1987年から導入され[30]て広く用いられている。
ERISAでは、『主として適格な雇用者会社株式に投資する(invest primarily in qualifying employee securities)確定拠出型年金信託の一形態として規定がなされている』[31]が、『控訴裁判所は、(中略)「雇用者会社株式に投資しなければならない」と解釈したのは誤りであったとした』[32]のであり、会社の倒産等、従業員の将来受取資産である雇用者会社株式の財産性が失われることが予見されるような場合には、その他の年金信託等の財産保護と同様、合理的判断(すなわち、財産価値保全上の危険性にかかる受益者への警告、信託財産の現金化、制度変更等の要請または緊急時の実施等)が信託に求められている。したがって、ESOPが従業員の財産と会社の運命を共にさせるようなものであるという指摘は完全には当たっていない。また、日本国内における労働給付の原則は、生活を維持するために必要な費用については貨幣通貨によることが求められるのであり、これは退職・年金給付についても同じことが言えるのであって、ESOPを採用したからといって全ての企業年金・退職給付の運用資産が雇用者株式に代えられるということではない。
ESOPについての定義は、米国においてより厳密であるが、最低限の要件は、
- 株式取得の費用は会社の負担により、従業員が負担するものではないこと
- 従業員に、退職時までの担保差し入れ等を含む処分をさせないこと
- 株式に係る議決権はすべて従業員にパススルーすること
であり、従業員に対する金銭的報酬インセンティブ、従業員の資産形成としての側面よりも、従業員が株主となることによる株式価値の顕在化、コーポレート・ガバナンスの安定、資本主義体制の堅持に必要な公正な分配、経済的自由の実現を強く意識した制度であることが理解される必要がある。
このことは、「1983年に上院議会が、再度、ESOPを伝統的な年金制度(arrangement)の代替としてではなく、会社の資本所有をその従業員(worker)へ移転する手段であると明言している」[33]ことからも明らかである。
ケルソ自身は、資本主義宣言のなかで「いわゆる利益分配(profit-sharing)と、株式分配(equity-sharing)とははっきり区別することが必要である。前者は各世帯に消費のために使う収入を補足することを目的としたのに止まるが、後者は新しい資本家をつくることを目的にしたものだからである。株式分配がどんどんおこなわれて、こうして蓄積された株からの収入が労働者の収入に大きく加算されるようになったら、まことに占めたものである。しかし運用を誤って、労働者がこうした株を売り払い消費物資に使ってしまうというようなことになれば、このプランは台なしになる。」(『資本主義宣言』P.182)と述べている。
世界的な広がり
NCEOによれば、英国、オーストラリア、アイルランドで米国ESOPと同様の法制度があり、また、中国、東欧、旧ソ連邦などで民営化プロセスに類似のスキームが広く用いられている。韓国、南アフリカ共和国、フランスでも同様のスキームが採用されつつあるといわれている。
ESOPに関する会計処理
米国におけるESOPに関する会計処理は明確である。
- 既に分配された個人勘定にある株式については、個人の年金資産であり、会社財産とは関係がない。(オフバランス)
- 未分配の仮勘定にある株式については、将来の会社の利益分配にあたることから、利益準備金勘定から償却勘定として控除される。
- ESOP信託における借入金は、その返済原資が会社の将来の支出によることから、会社の負債として認識される。
レバレッジドESOPにおいて、ESOP信託が取得した時点での株式金額と、個人勘定に分配される時点での株式金額が、評価上異なることとなるが、会社の損益に影響を及ぼすわけではないので、分配される利益勘定の調整(資本取引)によって実際の分配額との差額の反映が行われることとなる。
日本におけるESOPの会計処理については、確定的なものは示されていないが、現状採用されているESOPスキームは米国と異なり負債を用いないため、より簡略な会計処理が可能と考えられる。例えば、米国ESOPと異なり、個人勘定と仮勘定が明確に分離されていないが、従業員個人への分配株式数が制度上確定した時点で、会社の勘定から切り離すことが可能であろう。また、米国会計ではESOP独特の償却勘定が用意されているが、日本ではこのような会計科目が存在しないため、純資産からの控除は困難なことから、ESOP信託に対する企業拠出が行われた時点で、将来給付資産の取得として資産計上し、従業員個人への分配分を時点償却する方法があり得るものとされる。一方で、純資産からの控除項目が他にないため、自己株式勘定を流用する方法もあり得るが、実際の自己株式との区別がつかないこととなり、実態が不明確になるため好ましい方法とは思われない。各方面からの指摘のとおり、明確な会計ルールの策定が待たれるところである。
日本版ESOP創設への動き
日本版ESOP創設への動きとして、2001年に経済同友会社会保障改革委員会による政策提言[34]の一項目として、米国型ESOP制度の導入が謳われている[35]。
日本で最初に導入されたESOPは、2005年に三洋電機が設立した基金型ESOP[36][37]であるといわれている。みずほフィナンシャルグループが開発した[38]日本版ESOPの採用は、2009年のダイドーリミテッドが最初[39]である。
旧来より存在する従業員持株会制度と名称が似ていること、ESOPについての研究が殆どされていないなどの理由から、理解に混乱が見られ、会社が信託を用いて自社株式を先行取得し、事後的に従業員持株会に売却するスキームを日本版ESOPと称している記事等が散見される。このような理解の混乱は、「従業員株式所有制度」という訳語が、会社従業員が自社の株式を所有するための制度全般を指すように捉えられるための誤った解釈から生じるものと思われるが、ESOPの厳格な定義と本来の目的と思想的な背景を理解すれば、このような解釈にたどり着くことはないといえる。
また、日本では敵対的買収の脅威が喧伝される一時のブームが起き、これに対抗する方法として、従業員が売れないようにして株式を持たせてしまえば、会社経営者の保身を目的とする買収防衛スキームや安定株主対策として機能すると考える向きもあるが、このような考え方はESOPの本質から完全に逸脱しており、株式報酬制度そのものの継続、ESOP信託によって株式保有を継続するかどうかの判断は、経営者側にではなく完全に従業員に委ねられている必要があるということを理解していないための誤解であるといえる。
実際の導入事例をみてみると、米国ESOPと同様効果をもつ退職給付型の日本版ESOP制度としては、先に挙げた三洋電機による基金型ESOPの導入が本邦初の事例と考えられ、以下、ダイドーリミテッド、川崎地質、中道リース、エン・ジャパン、ピーシーデポコーポレーション、橋本総業、ウェルネット、デンヨー、西松屋、アイダエンジニアリング、第一生命保険といった会社が導入もしくは導入を決定している。(2010年10月現在)また、従業員の経営参加ではなく自社株式の退職給付のみに特化した擬似的なスキームとしては、三菱UFJ信託銀行が開発したストック・リタイアメント・トラストがあり、これは日本駐車場開発、バルスといった会社が導入している。
脚注
- ^ ERISA407条(d)(6)
- ^ I.R.C.4975条(e)(7)
- ^ 黒田敦子『アメリカ合衆国における自己株報酬・年金の法と税制』税務経理協会、1999年、p.109-115
- ^ “別添資料 ESOP(Employee Stock Ownership Plan)~自社株に投資する確定拠出型年金”. 経済同友会 (2000年1月16日). 2010年3月3日閲覧。
- ^ 従業員による株式所有を推進するための各種制度は、ESOPのほかにもRistricted stock(制限付株式賞与)、ESPPs(Employee Stock Purchase Plans:日本における従業員持株会に類似)、Broad based stock options(原則として従業員全員に広範に付与するストック・オプション、インセンティブ・ストック・オプションとは別)、401(k)プランにおける自社株投資枠などいくつかのものがある。ESOPやRistricted Stockは企業給付型であり、ストック・オプション、ESPPsなどは従業員負担型といえる。
- ^ NCEOの調べによれば、世界第2位の規模を持つ従業員所有企業は中国の通信会社Huaweiである。このケースでは、退職時に株式を売り戻すrestricted stock(制限付株式報酬プラン)の一種を通して95,000人の従業員のうちの61,000人によって全株式が所有されているという。退職時に株式を売り戻すことから年金給付ではないが、ノンレバレッジドESOPに近い形態といえる。また、レノボなどを傘下に持つLegend Holdingsもemployee stock ownership
associationを通じて35%を従業員(約30,000人)が所有しているという。
- ^ 制度のスポンサーである雇用者が、雇用者会社の株式を購入するための現金を毎年拠出する形態
- ^ 雇用者会社によって、従業員の口座に一定の金額を拠出する制度。株式の購入に借入を併用することができる。
- ^ “米山秀隆「コーポレートガバナンスの改革」富士通総研経済研究所” (2001年7月16日). 2010年3月17日閲覧。
- ^ コーポレート・ガバナンスの観点からは、従業員所有だけでなく、消費者所有(CSOP)などステークホルダー株主化推進制度が他に提案されている。
- ^ 日本の従業員持株制度は、従業員にとって、小額資金を継続的に拠出することにより無理なく雇用者会社株式を購入でき、それにより、長期的に財産形成を行うことを目的としている。しかし、「このようなことが特定の制度的目的の下で推進されてこなかったという事情もあり、株価の値下がりはもとより、譲渡制限、会社経営の悪化に対する歯止め、持株会運営主体と会社との経営政策上の癒着(への対応)など、従業員の権利保護に対する側面に対して体系的な法規制を欠いている」(中西敏和「従業員持株信託と受託者の責任」『信託法研究』15号p.46‐47|信託法協会1991年)という欠点が指摘されている。
- ^ 従業員持株会が必ずといってよいほど置かれている。(中略)なぜ置かれているのかを考えてみれば、結局は従業員株主管理のためにあると言える。現在の従業員持株会は、一応会社から切り離された独立の団体であるが、実際には会社の一機関として活動しているといってもよく、従業員の利益になる部分もあるが、多くは会社の利益のためにある。 (道野真弘
“「従業員持株会の問題点」『立命館法学』一九九七年六号(二五六号)P.340” (2000年1月16日). 2010年3月3日閲覧。)
- ^ 従業員持株会とESOPの相違については“井潟正彦、野村亜紀子「米国ESOPの概要とわが国への導入-従業員を新たな株主として位置づける時代」『知的資産創造』2001年3月号P.56-71” (2001年4月1日). 2010年3月17日閲覧。
- ^ My thinking about ESOPs began in 1931 in the bottom of what we call the Great Depression., Louis O. Kelso "Labor's Untapped Wealth",at the Air Line Pilots Association Retirement and Insurance Seminar, March, 1984, Washington, D.C.
- ^ “The Kelso Institute Pubrications Bibliography” (2010年3月4日). 2010年3月3日閲覧。
- ^ "The trouble with today's techniques of finance is that they're designed to make the rich richer. None are designed to make the poor richer. That's why the poor are poor. Because they're not rich." (Louis O. Kelso, San Francisco Examiner & Chronicle, 1978)
- ^ "People are hungering for property - for a secure, permanent and independent link with spaceship earth that ownership represents and which only ownership can protect or defend. It is humiliating to possess nothing, to own nothing, and hence to produce nothing and to count for nothing."
(Louis O. Kelso and Patricia Hetter, Washington Post, June 18, 1972)
- ^ 菅晃千「日本版ESOPへの展望」『Mergers & acquisitions research report : MARR』(174)、レコフ事務所、p.32-35, 2009年
- ^ ケルソは『資本主義宣言』のなかで、単純労働(機械的労働)の機械による代替が進行し、労役の価値が減少してゆくことで雇用が減少する現実を見抜いており、この点から、完全雇用が幻想であって経済活動を衰退させる元凶になり得ること、過剰消費やバブルの崩壊による景気の変動を抑制しながら経済的平等の実現に向かうためには、人の富の生産への関与を労役から私有財産を通じた参加にシフトさせる必要があることを説いている。
- ^ 資本が主として工場や機械のような生産器具によって構成される場合には、「生産のための道具を労働者の手に渡すこと」を意味し、生産活動の主体を道具から労働に還元される結果となる。また、高度情報化の進展により資本の主たる構成要素が従来のような生産器具ではなく、知的財産であるような場合においては、特に資本側に収奪された人の知的創造価値を返還する重要な機能を果たし得る。
- ^ 「古来からある株という日本語は、売買してカネを儲けるものではなく、事業に参加することの証である。株をもつもの同士の連帯がそこでは意味されていた。事業に参加するための出資、これが株である。この古典的な言葉の由来を私たちは思い起こすべきであろう。あえて言う。現在のリスク売買を主体とする金融ゲームは、どのような理論的衣装を施されようとも、人間の生活を根底的に破壊するものであるということを。
いま求められているのは、「自由」の美名の下で金融ゲームに走る金融権力をいかに制御するのか、という社会の知恵である。」;
本山美彦『金融権力 ―グローバル経済とリスク・ビジネス』、岩波新書、2008年
- ^ “"A powerful free market economy must have powerful consumers, as well as powerful producers. Adam Smith was right about that. But today that requires consumers who have the combined earning power of their labor and their own capital. Unless we change our Stone Age economic policy, however, and begin to democratize capital ownership through the ESOP LBO and related financing methods based on private property and free market principles, while discouraging methods of finance that foster Wall Street rip-offs of the ESOP—our standard of living and world leadership position will continue to decline." Louis O. Kelso and Patricia Hetter Kelso, "Why I Invented the ESOP LBO"より” (2010年3月3日). 2010年3月3日閲覧。
- ^ "Employee Ownership Report", July–August 2010,A publication of the National Center for Employee Ownership,例えば、Employee Buy-Outの一形態であるESOPは、仲介業者なしオーナーチェンジが実行されるため、仲介業者のビジネスチャンスが失われることを意味する。
- ^ “NCEO "Largest Study Yet Shows ESOPs Improve Performance and Employee Benefits"などの更新がある” (2010年7月15日). 2010年10月27日閲覧。
- ^ 竹中啓之「ESOP制度と株式会社支配の可能性」経営研究Vol.44, No.2, p.65-77、大阪市立大学経営学会、1993年7月
- ^ 尾西正美「アメリカ企業の従業員株式所有制度-C.M.Rosen/K.J.Klein/K.M.YoungのESOP調査を中心にして-」埼玉大学経済研究室 社会科学論集 (73):p.155-209 1991年3月
- ^ Peninsula Newspapers, Inc., において、創業者からのemployees buyoutとして実施
- ^ “"The Capitalist Manifesto" The Kelso Institute Downloadable Booksよりダウンロード可能” (2000年1月16日). 2010年3月3日閲覧。
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- ^ 黒田敦子『アメリカ合衆国における自己株報酬・年金の法と税制』税務経理協会、1999年、p.109
- ^ 黒田敦子『アメリカ合衆国における自己株報酬・年金の法と税制』税務経理協会、1999年、p.154-155
- ^ 黒田敦子『アメリカ合衆国における自己株報酬・年金の法と税制』税務経理協会、1999年、p.117
- ^ “新社会保障制度改革の提言(その5) 米国ESOPの日本導入”. 経済同友会 社会保障改革委員会 (2000年3月26日). 2010年3月3日閲覧。
- ^ 2001年当時は金融危機から日本の株式市場が低迷し、投資有価証券の時価評価開始による金融機関保有株式の放出、持ち合い解消も重なったことから、株価対策、持ち合い解消の受け皿としての機能が強調され、ESOP本来の意義が理解されないまま、金庫株制度の拡充によって問題意識自体が終息している。
- ^ “ESOPとは”. 電機連合 (2009年2月2日). 2010年3月3日閲覧。
- ^ “人事改革、各社の試み 三洋電機が「ESOP型」退職金制度”. 日本エス・エイチ・エル (2009年2月2日). 2010年3月3日閲覧。
- ^ J-ESOP開発者の1人は、次のように語っている。「バブル経済に危機感を抱いて証券会社に入社して以来、企業の側から株式というものについて考え続けてきた。日本では未だに多くのサラリーマンが株式会社に雇用されているにもかかわらず、株式を長期保有していないどころか、資産運用や金儲けの手段としてしか株式を見ていないように思われる。一方で、企業経営者の側も、株価が同業他社に比べて高いとか低いということには関心を持っているようだが、株価が何に基づいて形成されているかを考えず、証券会社に平然と株価操作を持ちかけることさえあった。このような株式に対する無理解から株式市場が満足に機能しない状況を打開し、株式を真にそれを持つべき者の手元に行き渡らせるには、ESOPによってしかないとの想いを従来から抱いていた。
しかし、2003年頃経済同友会からなされたESOP導入の提言は、株価対策に矮小化され、かき消されてしまった。次にESOPと銘打って出てきたものは、およそESOPとは似ても似つかない従業員持株会を変形した自社株運用スキームであり、自社株式の運用損益を会社が負担するから、従業員持株会を勝手に使っても許されるだろうという程度の杜撰なものだった。
そのようなスキームではあっても、現実が歪んでいる以上、持ち合い解消や敵対的買収の幻影に怯える経営者の目に有り難いものに写ったとしても仕方がないだろう。不公正な取引であっても経営者がそれに責任を持ち、株主がそれを許容するのであれば、他所からどうこう言う筋合いでもないのだろう。しかし、実際に、いくつかの取引先からどのようなスキームなのか教えてほしいという要請があり、このディスカッションの中でESOPの可能性を確認できたのは幸運だった。この時点でJ-ESOPを開発しなければ、日本においてESOPが成立するチャンスは永久に失われると考え、半ば強引に開発を進めた。この結果、一応の評価を得つつあるように見えることは幸いである。従業員持株会借用スキームは、複数の金融機関がセールスしているようだが、彼らは米国のピープルズ・キャピタリズムの歴史を学んだことはないのだろうし、ERISA法の成立過程も、ましてルイス・ケルソーも読んだことがないのだろうと思う。個人的には、ケルソーの思想は、民主主義を人間の自由のうちに実現することを理想とし、人間の自由は経済的自由なしには実現不可能であるという点において、ハイエクの思想に近似していると思う。ハイエクは、理論的に社会主義の危険性と自由からの逃走(隷属への道)に対する警告を発したが、ケルソーは、ESOPという手段でその思想(資本主義革命)を現実のものにしようとしたのである。」
- ^ “株式給付信託(J-ESOP)の導入(詳細決定)に関するお知らせ”. 株式会社ダイドーリミテッド (2009年2月2日). 2010年3月3日閲覧。
参考文献
- 黒田敦子『アメリカ合衆国における自己株報酬・年金の法と税制』税務経理協会、1999年、p.108-183
- 野村総合研究所『日本の優先課題2001少子高齢化と現役世代の活性化』野村総合研究所 広報部、2000年、p.341-428
- 本山美彦『ESOP―株価資本主義の克服』シュプリンガーフェアラーク東京、2003年
- 本山美彦『金融権力―グローバル経済とリスク・ビジネス』岩波新書、2008年
- 渡部潔『日本版ESOP入門―スキーム別解説と潜在的リスク分析』中央経済社、2009年
- ロバート・A・G・モンクス&ネル・ミノウ『コーポレート・ガバナンス』生産性出版、1999年
- モーチマー・アドラー、ルイス・ケルソー『資本主義宣言』時事通信社、1958年
- モーチマー・アドラー、ルイス・ケルソー『百万人の資本主義』時事通信社、1963年
- Louis O. Kelso and Mortimer J. Adler, The Capitalist Manifesto, New York: RANDOM HOUSE, 1958
- Louis O. Kelso and Mortimer J. Adler, The New Capitalists, New York: RANDOM HOUSE, 1961
関連項目
外部リンク