草野 絵美(くさの えみ、1990年8月4日 - )は、東京を拠点に活動する日本の現代美術家。
レトロフューチャリスティックな作風と人工知能等、最新テクノロジーを用いた表現で知られており、英国のオークションハウスであるクリスティーズとグッチのコラボレーション・オークションでは、AI生成を使った3Dドレスを発表した[1]。
取引総額16億円を記録した[2]NFTアニメ・プロジェクト「新星ギャルバース」共同創業者兼、共同原案者。東京芸術大学非常勤講師。シンセウェーブ音楽ユニットSatellite Young主宰・歌唱担当。
来歴・人物
高校時代・フォトグラファー
2008年よりも以前の高校時代から、ファッションフォトグラファーとして活動。ウェブサイト「Japanese Streets」CNNのトラベルガイド総合サイト「CNN Go」、イギリスの業界誌「WGSN」などを媒体に原宿を中心にストリートスナップを撮影[3]。写真作品はニューヨークのFIT美術館[4]、イギリスのヴィクトリア&アルバート博物館で展示もされた[5]。
大学時代・起業
2011年、慶應義塾大学環境情報学部在学中に[6]、スタートアップを立ち上げ起業。伊藤穣一率いるインキュベーションOpen Network Labの4期生として、海外向けのグラフィックデザイナーのSNS「arraies」ベータ版を立ち上げるものの、立ち上げメンバーの就職により開発は見送られる[7]。
2012年3月に21歳で結婚。11月に第一児を出産[8]。
音楽活動・インスタレーション作品の発表
2014年、シンセウェィブの分野で、サウンドマンであるベルメゾン関根と、音楽ユニット「Satellite Young (サテライトヤング)」として活動を開始する。現代風にアレンジされた80'sサウンドに、人工知能やオンライン交際など現代のネット社会や最新テクノロジーをテーマに楽曲制作を行う[9]。
2016年 スウェーデン発のアニメ『Senpai Club』の主題歌提供、米国インディーレーベル「Future City Records」「New Retro Wave」からのリリースにより、欧米を中心にファンを増やし、2017年にはテキサス州の音楽フェス サウス・バイ・サウスウエストに出演[9]。
2018年、日本科学未来館で開催された多分野横断型のアート・ハッカソン「Art Hack Day」に参加アーティストとして選出される。人工生命をもったカラオケマシンをアート作品「Singing Dream」として発表する。審査員特別賞を受賞[10]。
2019年より、東京芸術大学で非常勤講師に就任。現代アーティストであるスプツニ子と共に教壇に立つ[11]。
2019年、オーストラリアで行われた、CGカンファレンス「SIGGRAPH Asia」Art Galleryにて、デザイナーズベイビー問題を題材にしたメディアアート作品「Instababy Generator」が入賞[12]。
2020年10月、Emi Satellite名義で初のソロ・シングル「Glass Ceiling」をリリース。女性の生き辛さと共鳴し、未来に向かって進んでいこうというメッセージも込めたエンパワーメント・ソングとなっている[13]。
NFTアートへの挑戦
2021年3月、セカンドシングル「IPO」をリリース。日々乱高下する株式市場をインスピレーションに作詞。同時に初のNFT作品「Love Is an IPO」を出展し[14]、Foundationで落札される。
2022年4月、NFTアート作品「Shinsei Galverse(新星ギャルバース)」をリリース。映像作家の大平彩華とタッグを組み、髪型や服装、目の色や形などがひとつひとつ違う「ギャル」イラストをコンピューターで8888体生成した。4月14日に売り出し始め、発売からわずか6時間で完売。OpenSeaの「Top NFTs」ランキングでにて24時間部門で1位を数日間獲得、二次流通で取引されている額を含めて、4月17日時点での取引総額は、3600ETH(日本円にして13億円以上)にまで達している[15]。
2022年フランスで開催された、「Nft in Europe」[16]、2023年には、2月香港で開催された「FOMOAsia」[17]、6月ポルトガルで開催された「Non Fungilble Conference」[18]、9月に韓国で開催された「The Gateway Korea」など、海外での講演も積極的に行なっている。
2022年11月、デジタル庁主催 Web3.0 研究会等に有識者として参画[19]。
AIを用いた創作活動の開始
2023年4月、米国のデジタルアートギャラリー「Bright Moments」Japan Contemporary部門に自身が手がけるAIアート作品が選出され24時間以内に100点が完売する[20]。
2023年6月、ファション業界誌「WWDJAPAN」にて自身の顔を学習したAIアートの表紙を手掛ける。日本のファッションメディアにおいて初のAI表紙である[21]。
2023年6月、文化庁 第23期 文化審議会 著作権分科会委員に就任。生成AIと著作権に関する議論に参画する[22]。
2023年6月、SuperRareでAI技術を使ったセルフポートレート作品「Synthetic Reflections」シリーズを発表。1作目である#1は、3.5ETH(当時のレートで96万円相当)で落札される[23]。
2023年7月、オークションハウス、クリスティーズとグッチの、コラボレーション・オークション「フューチャー・フリークエンシーズ(Future Frequencies)」に生成AIを使った3Dドレスをクレア・シルバーと共同で出展[24]。
2023年7月、共同創業者を務める「新星ギャルバース」は、 グラミー賞ノミネートアーティストであるトーヴ・ロー『I like u』のオフィシャルMVを製作。自身はエグゼクティブプロデューサーを務める[25]。
2023年10月、イギリスのサーチギャラリーで初めて開催されたエキシビジョン「Long Live London」で自身の「Synthetic Reflections #2」が展示される[26]。
2023年12月、アートバーゼルマイアミで開催した「Gateway Miami」で「Synthetic Reflections #5」を出展。パネルトークに参加。
2023年 伝統的な日本のアニミズム信仰と最先端技術の融合をテーマとしたAIアートコレクション「Techno-Animism」を発表し、米国のデジタルアートギャラリー「Bright Moments」と共に、アートバーゼル期間のマイアミ、ニューヨーク、東京を敢行するワールドツアーを開催[27]。二週間の間に336作品、合計11.2ETH(当時のレートで315万円)の作品を完売させた[28]。
2024年2月ジェネラティブアートのプラットフォームのArt Blocksでは、Curated部門に選出され、作品「Melancholic Magical Maiden」を発表[29]。1990年代のアニメの美学を再構築して過去のヒロイン像を批評している。 1時間以内に300点57ETHで完売[30](当時のレートで2800万円)させた。
2024年4月にスイス、ジュネーブにて国連の専門機関である世界知的所有権機関(WIPO)において、著作権等常設委員会での登壇した。その際AIに特化した議論情報についてのスピーチをした[31]。
作風
一貫してレトロフューチャーを起点に、最新テクノロジーを取り扱う作品を制作している。その動機には、ポストインターネット時代以前のマスメディアの影響が強い時代における、文化への憧れが根底にある。また、最新テクノロジーとレトロ文化を組み合わせることで、現在や未来の加速主義的テクノロジーに対する愛憎や両義性を表現している[32][33][34]。大学時代に、レトロフューチャーブームの火付け役でありデザイナーの坂井直樹のもとで学んだ経験が、その後の作品制作に大きな影響を与えている[35]。
音楽活動「Satellite Young」では、80年代アイドルの格好をしながら現代のテクノロジーについて歌っており、インスタレーション作品「Singing Dream」では、80年代以降に普及したカラオケに人工生命が宿って人間に歌わせるというアイデアを探求している。NFTアートプロジェクト「新星ギャルバース」では、平成初期に流行した魔法少女のタッチで女性を中心に描きサイバーパンクアニメを再構築している[33]。さらに、生成AIを活用した作品作りにも積極的であり、アートプロジェクト「Neural Fad」では、戦後から2000年代までの日本のファッション部族を再現し、ポストトゥルース時代のレトロ文化へのあり方を探求している[36]。
家族
息子が2人いる[8]。2021年時点で小学3年生の長男は「Zombie Zoo Keeper」(ゾンビ飼育員)の名前でNFTアーティストとして活動。夏休みの自由研究として「OpenSea」にピクセルアートを出品していたところ、イラストレーターのたかくらかずき、海外のインフルエンサー・Trevor McFedriesらが購入したことを発端に、面白がって購入する人物が増えた。中には、世界的DJ スティーヴ・アオキが240万円相当で作品で購入したことで人気が高まっている[37][38][39]。
著作
- 『親子で知的好奇心を伸ばす ネオ子育て』(2022年3月、CCCメディアハウス)
- 『ミライの科学にふれてみよう おうちじっけん号』(2022年3月、CCCメディアハウス)
受賞
- 2024年7月、AIビデオ作品『Morphing Memory of Neural Fad』が2024年Meta Morph AwardのAI Video部門で受賞し、AIコレクション『Pixelated Perception』は同アワードのAI Photo部門で準優勝を果たした[40]。
- 2024年8月、AIコレクション『Cognitive Chaos』と『Neural Fad』が、Lumen Prize 2024のStill Image部門でファイナリストにノミネート[41]。
展示
- 「Japan Fashion Now」(2011年4月、ニューヨーク州立ファッション工科大学)
- 「Four Alchemists Method」(2012年1月、西武百貨店アートスペース)
- 「シブカル祭」(2012年10月、パルコミュージアム)
- 「Art Hack Day」(2018年3月、日本科学未来館)
- 「SIGGRAPH ASIA Art Gallery」(2019年11月、Brisbane Convention & Exhibition Centre)
- 「Kimono: Kyoto to Catwalk」(2020年8月、ヴィクトリア&アルバート博物館)
- 「NFTってなんだ?!〜アニメで知るNFTの世界~」(2022年7月、羽田空港)
- 「Hello my name is NFT」(2022年9月、ラフォーレミュージアム)
- 「Tokyo Digital Art Gallery」(2022年10月、ARTFACTORY城南島)
- 「Gal Pals!」(2023年3月、NEORT++)
- 「Bright Moments Tokyo」(2023年5月、渋谷パルコ)
- 「Non Fungible Conference」(2023年6月、Carlos Lopes Pavilion)
- 「Christie's 3.0 presents Future Frequencies: Explorations in Generative Art and Fashion in collaboration with Gucci」(2023年7月、ロックフェラーセンター)
- 「art stage OSAKA」(2023年9月、グランキューブ大阪)
- 「The Gateway Korea」(2023年9月、SFACTORY)
- 「E-Motions」(2023年9月、UNIT London)
- 「FEMGEN Artblocks Marfa」(2023年9月、glitch gallery)
- 「Long Live London - All Star Collections vol1」(2023年10月、サーチ・ギャラリー)
- 「DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ」(2023年10月 - 、金沢21世紀美術館)
- 「The Gateway Miami」(2023年12月、Faena Forum)
- 「MOT アニュアル extra」(2023年12月 - 東京都現代美術館)
- 「Tokyosaï」(2024年2月、MAGASINS GÉNÉRAUX Paris)
- 「DXP2」(2024年3月 - 、金沢21世紀美術館)
- 「Now in Digital Art: Playroom」(2024年3月、Akbank Sanat)
- 「Cognitive Chaos」(2024年4月、Checkpoint Charlie)
- 「Artificial Dreams」(2024年5月、Grand Palais Immersif)
- 「Kiaf SEOUL」(2024年9月)、 COEX Convention & Exhibition Center
- 「ART OF PUNK」(2025年1月)、Museum Francisco Carolinum
- 「Artificial Dreams」 (2024年10月、MEET Digital Culture Center, イタリア ミラノ)[42]
ブランド・タイアップ
- LG Art Galleryとコミッションワークを作成。全米1400万台のスマートスクリーンに作品を配信[43]
- アディダス Adidas Originals 2024-25 AW「adicolor WINTER x HOME」キャンペーンビジュアル起用[44]
- グッチ x クリスティーズのデジタルオークションでデジタルドレスを発表[1]
- 参天製薬・サンテPC、テレビCM出演[45]
- アドビ Premiere Rush CC ウェブCM出演・およびテーマソング起用[46]
- Google Pixel Buds 店頭CM出演・およびテーマソング起用[47]
出演
テレビ
ラジオ・Podcast
雑誌
新聞
脚注
外部リンク