線形動物門
ダイズシストセンチュウ
分類
学名
Nematoda Diesing, 1861
和名
線形動物門
英名
Nematode, Roundworm
下位分類
線形動物 (せんけいどうぶつ、学名:Nematoda、英名:Nematode, Roundworm)は、線形動物門 に属する動物 の総称である。線虫 ともいう。かつてはハリガネムシ などの類線形動物 (Nematomorpha) も含んだが、現在は別の門とするのが一般的。また、日本 では袋形動物 門の一綱として腹毛動物 ・鰓曳動物 ・動吻動物 などとまとめられていたこともあった。回虫 ・鞭虫 などが含まれる。
大半の種 は土壌 や海洋 中で非寄生性の生活を営んでいるが、同時に多くの寄生 性線虫の存在が知られる。植物寄生線虫学 (nematology) では農作物 に被害をもたらす線虫の、寄生虫学 (parasitology) ではヒト や脊椎動物 に寄生する物の研究が行われている。
特徴
体は細長い糸状で[ 1] 、触手や付属肢を持たない。一部のものは体表に剛毛を持つ。
基本的に無色透明である。
体節 構造をもたない[ 1] 。
偽体腔 をもつ[ 2] [ 1] 。
雌雄異体で有性生殖 が主であるが[ 1] 、単為生殖 を行う種もあり、同一種内で系統により生殖が異なる場合がある。
土壌 中に莫大な個体数がおり、地球上のバイオマスの15%を占めているともいわれている。
体長1mmほどの線虫が静電気 を使って空中に飛び上がり、昆虫 に乗る行動をする。跳躍は秒速1メートル。(北海道大学と広島大学の研究による)[ 3] 。
土壌や水中に生息し、種類により人間に有害な細菌を食べたり、農作物の根に寄生して弱らせたりする[ 3] 。
周囲の環境が汚れると2ヶ月間エサを食べずに生きられる幼虫に変態し尻尾で立ち上がれるようになる[ 3] 。
シベリア の永久凍土 から掘り出された線虫の一種が再び動きだしたといい、4万年以上もの間休眠 状態を保っていた[ 4] 。
種と多様性
線形動物には、人間の寄生虫をはじめ、人間の生活に関わりの深いものも多く、それらの研究が進められる一方、自由生活のものの研究は後回しになりがちであった。しかし、自由生活のものの方がはるかに種数が多く、その研究が進むにつれ、種類数はどんどん増加しているので、どれくらいの種数があるかははっきりとは言えない状況である。その最大限の見積もりは、なんと1億種というものがある。これは、海底泥中での研究において、サンプル中の既知種の割合から算定されたものである。これが本当であれば、これまで最大の六脚類 の種数を大きく抜き去り、地球上の生物種の大半は線形動物が占めていることになる。
土壌中の線形動物はその数も多く、生態的に重要な位置を占めていると思われる。細菌 など微生物 を食べているものと思われる。線形動物を捕食するものには、昆虫 などがあり、また、菌類 には線虫寄生菌や、食虫植物 のように線虫を捕獲する線虫捕食菌 というものがある。
ヒトとの関わり
ヒトには、カイチュウ (回虫)、ギョウチュウ の他、カ (蚊)がベクター となって、リンパ系フィラリア 症や象皮症 の病原体 であるマレー糸状虫 、バンクロフト糸状虫 が感染する。また、魚介類 を通して感染するアニサキス も線虫の1種。
特にカイチュウは戦前には日本人はほとんど全員に寄生していたほどに普通であった。しかし、現在ではほとんど見ることができない。これは、カイチュウの感染経路が遮断されたためである。卵が糞便とともに排出され、それが口にはいることで感染するので、現在のように、糞便の処理が行われ、また、畑に下肥 が入らない環境では生活史が維持できない。他方、卵が手から手へと移るギョウチュウは、現在でも広く見られるらしい。
海外産の輸入腐葉土 には膨大なセンチュウが生息していることがあり、注意を要する [要出典 ] 。
農林業への影響
植物 に寄生 する物としては松枯れ病を引き起こすマツノザイセンチュウ (英語版 ) (マツクイムシ 参照)[ 2] や、ダイズ 生産上最も問題となるダイズシストセンチュウ (英語版 ) などがある。1960年代にカナダ のバンクーバー島 南部のサーニッチ半島に上陸したジャガイモシストセンチュウ はこの地方の農業産業を衰退させるほどの損害を与えた。また農作物に及ぼす傷害の形態により、ネグサレセンチュウ やネコブセンチュウ とよばれる農業害虫のグループもある。これらは、薬剤 散布のほかにマリーゴールド やエンバク などのコンパニオンプランツ を導入することで、減少させることが可能である。
農作物へ及ぼすセンチュウ被害を軽減するためクロルピクリン 、1,3-ジクロロプロペン などを成分とした殺虫剤が用いられる[ 5] 。田畑の土壌中のセンチュウを駆除するためには大量の薬剤を用いてガスを発生させ燻蒸 する必要があることから、環境へダメージを及ぼす1,2-ジブロモエタン などの薬剤は既に使用が中止されている[ 6] 。
がん検診と線虫
2015年3月11日には、体長約1mmの線虫が、がん 患者とそうでない人の尿の匂いを、精度よく識別できたと九州大学 などの研究チームによって、アメリカ合衆国 の科学誌 『PLOS ONE (プロスワン)』に発表された。
研究チームは、におい分子と結合するたんぱく質 が犬とほぼ同数あり、飼育の簡単な線虫に着目。実験してみると、がん患者の尿の匂いを好んで近寄り、逆にがんではない人の尿は嫌って遠ざかることが分かった。健康診断 で採取した242人の尿 を使って調べると、がんと診断された24人のうち、線虫は23人の尿を選ぶことができた[ 7] [ 8] 。
この研究に携わった研究者がベンチャー企業を立ち上げ、線虫を使った膵臓 がん疑い検査を2022年より開始することを発表している[ 9] 。
実用化された線虫がん検診の手法は企業秘密を含んでおり、生物の走性を利用して判別をおこなうことから、その客観性や精度に対しては一部の専門家や報道から疑念も示されている。疑念のひとつとして、検査や多くの研究がブラインド条件(二重盲検法 など)でなく、主観のバイアスが混入する可能性が指摘されるが[ 10] 、これに対し、線虫がん検診を実用化したHIROTSUバイオサイエンス社は、解析員が検査IDのみを知らされていることのほか、線虫が人間の意志を知りえないこと、判定が自動化されていることなどを挙げ、実質的にブラインド同様の検査であると反論している[ 11] 。
モデル生物としての線虫
線虫の一種である カエノラブディティス・エレガンス Caenorhabditis elegans (=C. elegans ) は多細胞生物 のモデル生物 として盛んに研究が行われ、受精卵から成虫に至る全細胞の発生、分化の過程が細胞系譜として明らかになっている[ 2] 。C. elegans 研究の創始者達3名は "Genetic regulation of organ development and programmed cell death" (器官発生とプログラム細胞死の遺伝的制御)で 2002年 ノーベル生理学・医学賞 を受賞している。
分類
分子系統 解析によって分類は大きく再編されており、以下の体系も暫定的なものである。
特に表記のない分類群は自由生活性である。
系統
Meldal BH et al.(2007)によるリボソームDNA を用いた分子系統解析では、以下のような系統樹 が得られている[ 12]
従来の分類
頭部の感覚器の形態から、2つの綱に分けられていた。
双器綱 Adenophorea
双器と呼ばれる感覚器 があるが、双腺はない[ 2] 。ほとんどは寄生生活を送る。自由生活する種のほとんどは陸上で生活[ 13] 。
クロマドラ亜綱 Chromadoria
アレオライムス目 Araeolaimida
クロマドラ目 Chromadorida
デスモドラ目 Desmodora
デスモスコレクス目 Desmoscolecida
モンヒステラ目 Monhysterida
エノプルス亜綱 Enoplia
ドリライムス目 Dorylaimida
エノプルス目 Enoplida
シヘンチュウ目(糸片虫目) Mermithida
イソレムス目 Isolaimida
モノンクス目 Mononchida
ムスピケア目 Muspiceida
ベンチュウ目(鞭虫 目) Trichocephalida
双腺綱 Secernentea
双器と双腺の両方がある[ 2] 。ほとんどの種が水中で自由生活[ 13]
桿線虫亜綱 Rhabditia
カイチュウ目(回虫 目) Ascaridida
カンセンチュウ目(桿線虫目) Rhabditida
エンチュウ目(円虫目) Strongylida
旋尾線虫亜綱 Spiruria
カマラヌス目 Camallanida
センビセンチュウ目(旋尾線虫目) Spirurida
ディプロガスタ亜綱 Diplogasteria
ヨウセンチュウ目(葉線虫目) Aphelenchida
ディプロガスタ目 Diplogasterida
クキセンチュウ目 Tylenchida
脚注
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、
線形動物 に関連するカテゴリがあります。
ウィキスピーシーズに
線形動物 に関する情報があります。