たとえば、人里にごく普通のスミレ類であるタチツボスミレViola gryoceras には、白花品が見つかっており、これをシロバナタチツボスミレ Viola gryoceras f. albiflora という。これが、この項で扱っている白花変種である。ただし、この種には、白い花ではあるが、距に紫色の出るものがあり、オトメスミレ Viola gryoceras f. purpurellocalcarata という名がついている。これらは、普通のタチツボスミレの生育域に、ごくたまに発見されるもので、いずれもタチツボスミレの種内の変異との判断で、品種として扱われている。
これに対して、紫の花を咲かせるスミレV. mandshurica に非常によく似たもので、白い花を咲かせるものにシロスミレ V. patrinii や、アリアケスミレV. betonicifolia var. albescens があるが、これらは完全に別種である。したがって、花の色以外にも、各部に形態などの差がある。しかし、その差は小さいので、判別はなかなか難しい。スミレとは花の色で完全に区別できるのだが、数は少ないものの、スミレにも白花変種に近いものがある。シロガネスミレ V. mandshurica f. hasegawae はほぼ白い花に紫の筋が残る。さらに、完全な白花も発見されている。これらと、上記の白いスミレ類との判別は、さらに難しくなる。スミレ属の検索表では、往々に花の色が判断に使われるため、同定が困難になりがちである。