環状族(かんじょうぞく)とは、大阪市内にある阪神高速道路1号環状線を制限速度を超過して走行する競走型暴走族のことである。
概要
環状線を一般車をすり抜けながら高速で走り回る集団で、首都高速道路のルーレット族に似ている。昭和60年代から平成初頭にかけて全盛期を迎えたが、今となっては都市伝説的なものとなっている。しかし、現在でも全盛期から続くチームが幾つか存在しており、その姿を見ることができる。
全国的にいう違法競走型暴走族と比べて、共同危険型暴走族上がりの者が多いため、全盛期の頃はチーム同士の抗争などが繰り返された。
環状族の特徴は、料金所では料金を支払わず違法に突破したり、ナンバープレートを外す、隠す、折り曲げる、ナンバープレートの上からアルミホイルなどを貼り付けて隠したり、チーム名や車種名を書いたダミーのナンバープレートを装着するのが、摘発逃れの定番であった。
(無論、上記の行為はすべて違法である)
全盛期には8環(ハチカン:午後8時~8時30分頃、正確には警察により船場JCTの閉鎖が行われるまで)と呼ばれる暴走を主眼に置いた時間帯と朝環(アサカン:午前0時以降の深夜)と呼ばれる高速走行をメインとするサーキット志向の時間帯に走行時間帯が分かれていた。
一般車の多い環状線を高速で走るため、当然危険度も高く、全盛期には死亡事故が頻発しており、当時の交通事故死亡率上昇の一因となった。また、当時、環状族に多かったシビックの事故率が上昇した事で、任意自動車保険料の高騰が発生した。この現象を契機に本田技研工業は、アザーカーの登場するレースゲームへの自社車両の許諾を行わなくなった。
増え続ける環状族対策として、昭和60年代からは大阪府警察が様々な対策を講じた。中でも特筆すべきは自動速度違反取締装置の設置であり、この通称である「Hシステム」は阪神高速道路の頭文字に由来している。現在でも阪神高速に多数設置されているHシステムは、環状族対策の名残である。その他、東船場JCTの13号東大阪線方面の閉鎖が日常的に行われ、パトロールカーの取締りも強化された。これらの対策やバブル崩壊による景気悪化から、平成初期まで隆盛を極めた環状族も、次第に沈静化していった。
車両
車両の特徴
共同危険型暴走族の行うような派手な改造を好むものも少なくは無かったが、その殆どがレーシングカー同様の性能面の改造を好んで行っていた。環状線の一般車を高速ですり抜けながら走る、所謂アミダ走行に必要だったため足回りはサーキット仕様のハードなセッティングが好まれた。
他にも「直管サイド出しマフラー・ロールケージ・バケットシート・4点式シートベルト・セミスリックタイヤ」といったサーキット仕様の改造が好まれた。現代ではこれを「環状仕様」と呼ぶものも多く、特に環状仕様のシビック・CR-Xは未だ根強い人気があり、中古車市場でも「競技用車両」として流通することがある。他には長方形や楕円・真円形のチームステッカーを作成し、車体後部に貼るといったのが特徴で、このステッカーはチームメンバー以外にも配布されチームの勢力の大きさを象徴する物として使用されていた。
また、「ハチマキ」と称されるフロントウインドウステッカーや車体にレーシングカーを彷彿とさせるペイントやラッピングを施す者もいた。これらは当時のグループAやN1、その他自動車メーカー主催のワンメイクレースの影響を強く受けている。また中には実際のレーシングカーを盗難し、使用していた者もいた。
中には木刀、ハンマー、ガス銃といった武器を車内に携帯する者もおり、抗争しているチームとの喧嘩や一般車に因縁をつける際に使用していた。
ブーム以前
初期の頃はS30・S31・S130型フェアレディZやC110型スカイライン、マツダ・サバンナといった後輪駆動車種が主流だった。中古車市場でもかなりの台数が流通しており、また高性能だった事、当時の暴走族が使用する車種の代表ということが主な理由とされている。
シビックの登場
1983年にホンダがシビック(3代目)を発売すると、それまであまり注目されなかった前輪駆動車に注目が集まる。翌、1984年にシビックSiが発売されるとその人気は確固たるものとなり、シビックを中心とした小〜中型スポーツカーが環状族の中でブームとなる。小柄ながら高出力エンジンを搭載し、何よりも安価だったことから広まったが、その発起となったシビックSiはキャッチコピーの「ワンダーシビック」から「ワンダー」の愛称で親しまれた。特にシビックSiの1.5改1.75L仕様は「イナゴチューン」や「イナゴワンダー」と呼ばれていた。
全盛期〜末期頃
環状族ブームが全盛期を迎える頃に発売された4代目シビックはキャッチコピー「グランドシビック」から「グランド」という愛称が着くが、1989年に発売されたSiRの登場により環状族の勢力図はほぼシビック・CR-X系一強となる。特にSiRはエンジンの可変バルブ機構「VTEC」をそのまま車両への愛称「ブイテック」とし、「ブイテックとそれ以外のシビックとその他」という構図がほぼ完成してしまう。この事からVTEC搭載車に関してはシビック以外も環状族の間で高価格で取引されており、事故車・廃車でもエンジン目あてに盗難される事が多々あった。が、この頃になると環状族ブームが取り締まり強化等の複合的な要因により下火になっていた。
シビック系以外で次いで多かったのは後輪駆動のAE86型カローラレビン・スプリンタートレノだった。シビックが環状族の間でブームとなり、警察の目がシビックばかりに集中していたことと、少数派として目立ちたい。安価等の理由があるが、なにより古き時代の環状族が後輪駆動メインだったこともありある種の伝統として使用するものもいた。
またこの他にもセリカXX、KP61・EP71型スターレットやカローラII・FX 、AE92型レビン・トレノ、R30型スカイライン、S13型シルビア、K10型マーチ・マーチターボ系のような当時のボーイズレーサーやスポーツカーと呼ばれた車も少数派とはいえ使用車種の代表とされている。その他にもセダンやクーペ、ワゴン車のスポーツグレードもごく少数ながら一緒に参加していた。
安価ではないが、ヤクザの若頭や企業の跡取りといった所謂金持ちを中心とした環状族にはポルシェやフェラーリが流行していた。やはり警察の目がシビックに行っていたのも理由の一つだが、元々の性能が特出して高いのも理由である。末期の頃になるとR32型スカイラインGT-Rも使用されていた。
ブーム下火〜現在
2024年現在も活動しているブーム前・ブーム時結成の環状族チームや、平成元年以降の所謂環状族ブーム後に結成されたチームの殆どがグランド以降の世代 とくに5代目・6代目通称:「EG・EK」シビックを使用している。これらにもキャッチコピーから転じた愛称は存在するが、環状族にはあまり馴染みがなくその殆どが型式呼称である。その他にもシビックタイプRやインテグラタイプR、S2000のようなVTEC搭載スポーツカー、フィットRSやヴィッツRSのような日本製スポーツコンパクトハッチバック、ルノー・ルーテシア、フォルクスワーゲン・ゴルフGTi、シロッコRのような日本でも比較的入手が容易な欧州製ホットハッチもシビック系の代替車種として使用されることも多い。
また近年は初期と同様に後輪駆動車も増えており、中古車市場でも比較的まだ手頃に入手可能なZ33型フェアレディZを筆頭にアルテッツァ、86/BRZ、RX-8といった車種も珍しくない。
近年の環状族
一般的な暴走族同様、現在は環状族の数も減少傾向で、高年齢化が進んでいる。なお、60〜70代がメイン層で近い将来絶滅が危惧されている。それでも正月に「正月パレード」と称して暴走する事があり、正月の環状線では大阪府警察が2車線中1車線を閉鎖し、検問(事実上の閉鎖)の実施を行う対策が行われている。
度重なる検問等で数百あったチームの殆どが解散したが、近年OBの再集結でチームが復活したり、全盛期時代に不良予備軍と呼ばれていた学生達が大人になり環状族を名乗ることもある。
使用車種も代表だったシビック系の中古車価格が高騰化し、代わりとして安価なスポーツカーやスポーツグレードの車両を走らせることも少なくない。このため数こそは激減したが使用される車種は全盛期以上に多様化している。
元環状族が、「卒業して」環状族チームをレースチームとして発足させることも少なくない。特に大阪よりアクセスの近い兵庫県のセントラルサーキットでは、「環状仕様」のシビックやフィットRS等の近年の環状族に選ばれやすい車種をタイムアタック車両として持ち込むことも多い。
また、「環状仕様」の車両を中古車として販売することがある。その際は「ナンバーを切ったサーキット等を走行するための競技専用車両」として販売しているが、購入者の中には、この仕様のまま実際に環状線を走る者も少数ながら顕在する。
南勝久の漫画『ナニワトモアレ』(第2部『なにわ友あれ』)は、この環状族の全盛期を描いた日本の漫画で、かつて環状族だった作者の経験に基づいてリアルに書かれている。
関連項目
- 環状族を扱った作品