海馬鉤
海馬鉤 (かいばこう[ 1] 、Uncus of hippocampus)または単に鉤 (こう[ 1] 、Uncus)とは、海馬傍回 の前端の後外方に折れ曲がった鉤 (かぎ)状の部分[ 2] [ 3] 。両大脳半球 にひとつずつ、計二つある。側頭葉 の内側面、側頭極 のやや後方に位置している。鉤回 (こうかい、Unicinate gyrus)とも呼ばれる。日本語では「鉤」と「鈎」、どちらの漢字も用いられる。
海馬傍回 と連続している領域ではあるが、形態学 的には嗅脳 に分類される[ 2] 。嗅覚 情報の処理と関わりを持つ領域であることが知られている。
歴史
Uncus という名称は、フランスの解剖学者フェリックス・ヴィック・ダジール (Félix Vicq-d'Azyr, 1746-1794)によって、1786年 に出版した著作の中で初めて与えられた[ 4] 。
機能
嗅覚 情報の処理と関わりを持つ領域であることが知られている。この領域に影響を与える脳外傷や発作が、しばしば幻臭 を引き起こすことが知られている[ 5] 。側頭葉 腫瘍の患者では、鉤回発作(#下記参照 )による幻臭が約20%の患者に見られる、という報告がある[ 6] 。
てんかん治療などのために鉤を切除しても、片側だけの切除であれば、嗅覚は影響を受けない[ 5] 。これは嗅覚情報が両大脳半球の鉤に分散して並行して処理されているため、と見られている[ 5] 。
解剖
鉤回は、その前部において uncal notch を挟んで腹側で嗅内野 と接する[ 7] 。後部では鉤溝 (uncal sulcus)を挟んで腹側で海馬傍回 と接する[ 7] 。
鈎回の内部、深くに扁桃体 がある[ 8] [ 9] 。
イルカ 、およびゾウ 、が鉤を持つという例外的な報告もあるが、多くの哺乳類 は鉤を持たない[ 10] 。鉤は霊長類 に特徴的な構造と考えられている[ 10] 。中でもヒト の鉤は、他の非ヒト霊長類 (non-Human primates)と比べて、組織学 的にはそれらと相同な構造を持ちつつも、とりわけ複雑な構造をしている、とされる[ 10] 。
臨床
鉤は、臨床的には二つの点で重要である。
鉤回発作
ひとつはこの場所がてんかん 発作の起点となることである。鉤を起始とする発作は、鉤回発作(こうかいほっさ、Uncinate fit)と呼ばれる[ 11] 。鈎回発作は非痙攣性発作で、痙攣 は起こさないが意識障害 が起こる[ 12] 。鉤回発作にかかった状態は夢幻状態 (むげんじょうたい、dreamy state)とも言われ[ 13] 、周囲に対する知覚 が一応保たれていながら、夢 の中で行動しているように感ずる[ 14] 。鉤回発作はしばしば幻臭 そして幻味 をともなう[ 14] 。鉤発作による幻臭は、持続期間は短期的、体験される臭い は「鮮明で不快」[ 11] 「説明できないような不快な臭い」[ 15] であると言われる。
鉤ヘルニア
もう一点は鉤ヘルニア(こうヘルニア、Uncal herniation)である。脳梗塞 や脳内出血 などで頭蓋内圧 が亢進したとき、鈎部がテント切痕 を越えて侵入し、脳幹 や脳神経 に向かって押し付けられる。これにより脳ヘルニア の一種である鉤ヘルニア(テント切痕ヘルニア)が発生する。鉤ヘルニアで圧迫される主な領域は、第三脳神経(動眼神経 )および中脳 腹側の大脳脚 である[ 16] [ 17] 。動眼神経の圧迫は、病変と同側の眼球における瞳孔散大 や対光反射 の消失を引き起こす[ 18] 。中脳大脳脚の圧迫は、対側の半身の麻痺 を引き起こす[ 16] 。鉤による脳幹の圧迫が進行すると、昏睡状態 を経由し、最終的には死に至ることもある。そのため脳外科 の緊急手術 において,鉤は極めて重要な部位である、とされる[ 19] 。
画像
鉤の位置。赤色で示す
ヒトの脳を下から見た所。水色の部分が鉤
脳を下から見た所。緑色のテキストの所が鉤
脳を下から見た所。緑色のテキストの所が鉤
脚註
^ a b 船戸和弥 「Terminologia Anatomica(1998)に基づく解剖学」 一般用語 A00_0_00_408 より「Uncus/ uncinate(鈎/鈎状[の])Uncus(-i)/ uncinatus こう/こうじょう」「 1.鉤:釣り針の形をした構造物。 2.海馬鉤:海馬傍回の前端で内側に弯曲した部分。 」 最終閲覧日 2012-09-16 船戸和弥 「Terminologia Anatomica(1998)に基づく解剖学 神経系 一般用語 A14.1.09.235 より「鈎 (Uncus 【鈎 こう】 Uncus) Feneis: 306 16 」 最終閲覧日 2012-09-16
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^
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関連項目
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外部リンク
外側面
外側溝 内部
内側面 - 上部
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脳底部 - 眼窩面
脳底部 - 側頭葉 下面
内側面 - 下部
前頭葉
上前頭回 /前頭眼野 (en ) (6, 8, 9), 中前頭回 (46), 下前頭回 /ブローカ野 (44-弁蓋部 , 45-三角部 , 眼窩部 )
中心前回 (一次運動野 , 4)
直回 , 眼窩回 /眼窩前頭皮質 (10,11,12,47), 前帯状皮質
前頭前皮質 , 前運動野 (en ) , 前頭極
中心前溝 - 上前頭溝 - 下前頭溝 - 嗅溝 - 眼窩溝 - 中心傍溝
頭頂葉
中心後回 , 体性感覚野 (一次体性感覚野 (1, 2, 3,43), 二次体性感覚野 (en ) (5)), 楔前部 (7m) - 頭頂弁蓋 (en )
頭頂小葉 (上頭頂小葉 (7l), 下頭頂小葉 (40)), 縁上回 (40), 角回 (39)
中心後溝 , 頭頂間溝 , 縁溝
後頭葉 側頭葉 (外・下)辺縁皮質 ・島皮質
島皮質
帯状回 : 膝下野 (en ) (25), 前帯状皮質 (24,32,33), 後帯状皮質 (23,31), 脳梁膨大後部皮質 (26,29,30)
海馬傍回 (27,28,34,35,36), 海馬鉤 , 海馬体 ,(扁桃体 の一部)
※ 内側側頭葉など他の脳葉に含めて扱われることもある。
脳葉間の脳溝など 白質 その他
いくつかの領域分けは大まかなものになっている。
カッコ内の番号はブロードマンの脳地図 における番号である。また、ブロードマンの脳地図における領域のいくつかは複数の脳回にまたがっている。