『早春』(そうしゅん)は、1956年(昭和31年)に公開された日本映画である。小津安二郎監督の第47作目。
概要
東宝のスター俳優池部良と淡島千景を主演に、『君の名は』で一躍松竹の看板女優となった岸惠子を迎えて新味を出した作品。戦後からようやく立ち直りつつある東京を舞台に、若いサラリーマン夫婦の危機と再生、2人をめぐる人間模様を描く。池部と岸にとっては唯一出演した小津作品であり、同じようなキャストを使い続けた小津にとっては異例であった。
1947年(昭和22年)『長屋紳士録』から年1作ペースで映画を作り上げていた小津は、1953年に『東京物語』を完成。翌1954年8月、次回作の構想を練るべく、蓼科高原にある野田高梧の別荘(通称「雲呼荘」)に入った。同地で『早春』の着想を得たが、同年の9月以降、田中絹代の監督作『月は上りぬ』をめぐる騒動の中で田中を全面的にバックアップしたため、『月は上りぬ』は1955年1月の公開にこぎつけたが、小津の映画制作は進まなかった。1955年3月、茅ケ崎館で再び『早春』のシナリオに取り掛かって6月に完成。7月にロケハンを行い、8月に撮影に取り掛かった。12月29日に撮影を終え、1956年(昭和31年)1月29日に『早春』が公開された[1]。
小津にとって1954年・1955年は戦後初の制作空白期間となった。ちなみに、1956年の『早春』以降も、1962年の遺作『秋刀魚の味』まで基本的に年1本ペースが守られている。なお、1959年のみ『お早よう』『浮草』の2本が公開された。2時間24分という上映時間は、小津の現存作品では最長である(散逸作品も含めれば、1931年製作の『美人哀愁』が158分で最長である)。本作から、小津が私淑して戦後はともに仕事をした里見弴の息子、山内静夫が製作に名を連ねている。
あらすじ
高度経済成長前の東京のゆったりした風景のなかに、戦争を生き延びた若い友人達の関係、夫婦関係のデリカシー、サラリーマン生活、波乱の後で東京を離れ再出発する若夫婦の姿を描く。
東京蒲田の住宅地に暮らし、丸の内の丸ビルにあるオフィス(東亜耐火煉瓦)に電車通勤するサラリーマン正二(池部良)と妻・昌子(淡島千景)は共働きであるが、子供を疫痢で失って以来、お互いにしっくりいかないものを感じていた。そんな中、正二は通勤仲間の1人である「キンギョ」こと金子千代(岸惠子)と、成り行きから一夜を共にしてしまう。2人の仲にただならぬものを感じた昌子は、正二を責めて家を出ていく。正二には部長から岡山県三石への転勤話が持ち出されていた。正二は千代には告げず転勤の支度をしていたが、転勤話を知った千代は正二宅を訪れ、自分に何も告げずに三石に赴こうとする正二を責め立てる。結局、単身で三石に赴任した正二であったが、しばらく後にそのあとを追って、昌子が三石の社宅に来た。夫婦はそこでやり直すことを誓うのだった。
スタッフ
- 監督:小津安二郎
- 脚本:野田高梧、小津安二郎
- 製作:山内静夫
- 撮影:厚田雄春
- 美術:浜田辰雄
- 録音:妹尾芳三郎
- 照明:加藤政雄
- 音楽:斎藤高順
- 装置:山本金太郎
- 装飾:守谷節太郎
- 衣裳:長島勇治
- 現像:林龍次
- 編集:浜村義康
- 監督助手:田代幸蔵
- 撮影助手:川又昂
- 録音助手:堀義臣
- 照明助手:中田達治
- 録音技術:堀川修造
- 進行:清水富二
出演者
- 杉山昌子:淡島千景
- 杉山正二:池部良(東宝)
- 青木大造:高橋貞二 - 正二の遊び仲間。
- 金子千代:岸恵子 - 正二の遊び仲間。タイピスト。
- 小野寺喜一:笠智衆 - 正二の会社の先輩で正二と昌子の仲人。
- 河合豊:山村聡 - カフェの経営者。正二の会社の先輩。
- 北川康一:田浦正巳 - 昌子の弟。学生。
- 田村たま子:杉村春子(文学座) - 杉山家の隣人。
- 北川しげ:浦邊粂子(大映) - 昌子の母。呑屋の女将。
- 河合雪子:三宅邦子 - 河合の妻。
- 服部東吉:東野英治郎(俳優座) - カフェの客。
- 平山:三井弘次 - 正二の戦友。
- 坂本:加東大介 - 正二の戦友。
- 田辺:須賀不二夫 - 正二の遊び仲間。
- 野村:田中春男(東宝) - 正二の遊び仲間。
- 富永栄:中北千枝子(東宝) - 昌子の友人。未亡人。
- 本田久子:山本和子 - 正二の遊び仲間。
- 辻:諸角啓二郎
- 総務部長:中村伸郎(文学座) - 正二の上司。
- 田村精一郎:宮口精二(文学座) - たま子の夫。
- 三浦の母:長岡輝子(文学座)
- 三浦勇三:増田順二 - 正二の会社の同僚。重い病で伏せている。
- 菅井のツーさん:菅原通済(特別出演)
- 眼帯のOL : 川口のぶ
作品データ
- 製作:松竹大船撮影所
- フォーマット:白黒・スタンダードサイズ(1.37:1)・モノラル
- 初回興行:
- 同時上映:
エピソード
参考文献
脚注
- ^ 千葉信夫、『小津安二郎と20世紀』、国書刊行会、pp289-298
- ^ 松竹映像版権室、『小津安二郎映画読本』、フィルムアート社、p96
外部リンク
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