富士急行1000形電車(ふじきゅうこう1000がたでんしゃ)は、富士山麓電気鉄道(2022年3月までは富士急行)が保有する鉄道車両(電車)。京王帝都電鉄(現・京王電鉄)5000系を譲受した車両である。
本項では、同様に京王5000系を譲受したものの内装など一部が異なる富士急行1200形電車、ならびに1200形の岳南電車への譲渡車である岳南電車9000形電車についても記述する。
概要
1993年に、老朽化した自社の3100形と5700形の置き換え用として登場した。譲受時に京王重機整備において、電動車の2両ユニット化、寒冷地用設備の設置、室内の更新などの整備がなされた。種車は、基本的に先頭電動車である京王5100系のうちカルダン駆動車である第13編成以降から選定されている。ただし、最後の1編成である1208編成は5000系の制御車を電装している。
座席は京王時代のロングシートを流用している車両が1000形、入線時に転換式セミクロスシートに改造された車両が1200形である。1000形・1200形導入前に主力であった5700形は全車ロングシートであったのに対し、1000形・1200形は転換式セミクロスシートを有する1200形の方が多くなっている。
最多で1000形が2両編成2本の4両と、1200形が2両編成7本の14両、合計9本18両が在籍し、長らく主力車でもあった。経年劣化による6000系への置き換えのため、2011年3月から除籍が進み、一般仕様は2024年12月15日をもって定期運用を終了する予定[1]。
構造
主要機器
台車は京王時代のものは軌間が異なり使用できないため、帝都高速度交通営団(営団地下鉄)日比谷線3000系の廃車発生品である住友金属工業製FS510形を装着する。主電動機も同車の発生品である三菱電機製MB3054-A形(1時間定格出力75kW)である。運転台主幹制御器やブレーキなどの機器は変わっていない。
冷房装置は、種車となる京王5000系が搭載していたものをそのまま使用しているため、分散式冷房装置を搭載する車両と集中式冷房装置を搭載する車両の2種類がある。一部車両ではパンタグラフが菱形からシングルアーム式に換装された。
客室
1000形についてはロングシートとなっている。1200形では扉間と車端部をクロスシートとしているが、扉間では固定クロスシート2脚の間に転換クロスシートを1脚配置しており、転換クロスシートをいずれの方向にしても必ず向かい合わせになる座席が構成される。ロングシートは進行方向で右側が扉間の後ろ寄り、左側が扉間の前寄りに配置されている。また、モハ1200形では連結面寄りの一部の座席が跳ね上げ式になっており、この部分は車椅子スペースにもなる。
1200形のうち、1206 - 1208の編成は特急「ふじやま」号専用仕様車(座席カバー・テレビ付き)に改造されたが、「フジサン特急」用の2000形の登場後は各駅停車用に格下げされた。ただし、格下げ後も特急用予備編成を兼ねているためテレビは撤去されておらず、同形式の検査時には特急運用に就くこともある。
乗降用扉は半自動操作を可能にするため、各ドアの内側にドア開閉ボタン、外側にドア開扉ボタンが設置されている。なお、乗務員室の車掌スイッチは4両での運行の際、無人駅での運賃収受を考慮し、中間に組み込まれた乗務員室からでも操作できるように回路が変更されている。
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ロングシートの1000形車内
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クロスシートの1200形車内
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テレビが設置された特急仕様車の車内
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外観
塗装は青地に白帯を基調とし、側面かに向かって左側の車両には斜めのストライプ、側面向かって右側の車両には富士山のシルエットを白で描いたものが標準となっている。つまり、同一車両では左右で塗装デザインは異なる。
特別塗装
マッターホルン号
2006年(平成18年)9月に1205編成が赤と白を基調としたデザインに塗装変更された。これは、スイスのマッターホルン・ゴッタルド鉄道との姉妹鉄道提携15周年を記念して、マッターホルン・ゴッタルド鉄道の車両のデザインを模した塗装に変更したものである。他の編成に描かれている富士山のシルエットがないなど、多少デザインが変更されている。
なお、1205編成が後述する「富士登山電車」に改装された後は、1201編成が「マッターホルン号」となっている[注 1]。ただし、1205編成とは幕板の帯や扉の塗り分けなど車体塗装が若干異なっている。
1205編成(2008年4月15日、河口湖駅にて撮影)
1201編成(2010年10月24日、富士吉田駅(現・富士山駅)にて撮影)
リバイバルカラー
2009年(平成21年)4月には、富士急行開業80周年記念事業の一環として、1202編成が3100形や5700形などに採用されていた旧標準色(青色と水色を基調に白帯の入った3色塗装)に変更され[2]、同年4月18日から運行を開始した[3]。
さらに、同年6月には1001編成が富士山麓鉄道時代のモハ500形で採用された茶色とクリーム色の2色塗装に変更され[4]、同年6月18日から運行を開始した[3]。同編成は、2012年10月に京王5000系塗装に再変更されている。
富士登山電車
これまでマッターホルン号として運転していた1205編成を大幅に改装した観光列車で、2009年8月8日の誕生記念運行を経て翌9日より定期運行を開始した[5]。2両編成で、車両にはそれぞれ「赤富士」「青富士」という名称がついている。
運行開始当初は、「赤富士」が座席定員制(着席券1人200円)の車両、「青富士」が自由席車両であったが、2010年3月13日以降は2両とも座席定員制の快速列車として運行されている。外装デザインは各地で鉄道車両のデザインを手がけている水戸岡鋭治が担当し、開業当時の車両に塗られていた「さび朱色」■をベースカラーとして[3]、各種ロゴが入れられている。また、車内も水戸岡の関わっている各種鉄道車両同様、木や布の自然素材をできる限り使用し、ソファや展望席などを配置、ライブラリーやカウンターなどのコーナーを設置するなどして大幅に改装されている。この改装に当たり両車とも中央の乗降ドアが埋められ、2扉車となっている。
新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 流行の影響を受けて2020年4月25日より運休となり[6]、その後のダイヤ改正でも定期列車としての「富士登山電車」の運行は行われていない。
- 停車駅(2013年3月16日以降)
- 河口湖駅 - 富士急ハイランド駅 - 富士山駅 - 下吉田駅 - 三つ峠駅 - 大月駅
京王5000系(初代)塗装
元車両である京王5000系(初代)電車が2013年で運転開始50周年を迎えることから、2012年に1001編成を当時の塗装に戻している。塗装の他、タイフォンを替え、車両番号表記は京王5000系(初代)電車の譲渡前の車両番号である元の5863と5113を原寸大で再現している。同年10月28日のイベント開催時に公開され、京王資料館に保管されている「陣馬」「高尾」のヘッドマークを装着した臨時列車が大月 - 河口湖間で運転された[7]。尚、同編成は2017年の検査でパンタグラフを菱形からシングルアームパンタグラフに換装されたが、京王5000系(初代)塗装そのものは残っている。京王5000系(初代)塗装(譲渡先の一畑電車2100系の同塗装及び、譲渡前の京王時代も含む。)でシングルアームパンタグラフを換装したのはこれが初めてとなる。これにより同車の菱形のパンタグラフは消滅した。
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京王5000系塗装
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原寸大で再現された車両番号表記
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『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』公開記念カラー
アニメーション映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の公開を記念し、同作品と富士急行とのコラボレーションの一環として1200形1207編成をラッピング車両としたもので、富士山側のモハ1207はエヴァンゲリオン2号機を、大月・河口湖側のモハ1307はエヴァンゲリオン初号機をテーマとしたカラーとしている。また編成の前後にはその特製ヘッドマークを装着する。2012年11月17日から2013年1月31日までの期間限定で運行し[8]、その後は廃車となった。
行先表示器
正面貫通扉窓下に設置されている行先表示器は字幕式で、各駅停車での運行時は終着駅名のみが表示され、京王時代と同様にゴシック体縦書き配列である。特急として運行する時は、井の頭線で運行されていた3000系の正面行先表示器字幕に類似した横書きの配列で、赤地に白抜きの「特急」表示を上部に添えている。しかし、先述したように1200形での特急運用は「フジサン特急」が検査などで運休した際の代走のみになったため、実際に掲出される機会が少なくなった。
車両一覧
1200形の末尾4は忌番のため、当初から欠番である。2020年10月現在、2編成4両が在籍する。
富士急行での車両番号
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京王時代の車両番号 |
入線時期 |
備考 |
冷房装置 |
除籍
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モハ1001 |
モハ1101 |
デハ5113 |
クハ5863
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1994年2月4日
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リバイバルカラー第2弾・京王5000系塗装 2024年12月15日定期運用終了予定[1]
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集中式
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1002 |
1102 |
5122 |
5872
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1995年7月20日
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分散式
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2013年1月
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1201 |
1301 |
5115 |
5865
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1994年2月4日
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(2代目)マッターホルン号
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集中式
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2019年2月14日
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1202 |
1302 |
5116 |
5866
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1994年7月23日
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リバイバルカラー第1弾 富士急行旧制式塗装
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集中式
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2020年10月28日
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1203 |
1303 |
5117 |
5867
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1994年8月8日
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集中式
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2011年3月31日[9]
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1205 |
1305 |
5118 |
5868
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1994年11月2日
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(初代)マッターホルン号 富士登山電車
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集中式
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1206 |
1306 |
5124 |
5874
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1995年7月20日
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岳南電車へ譲渡[10](モハ9001-モハ9101)
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集中式
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2018年4月
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1207 |
1307 |
5123 |
5873
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1995年10月27日
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2012年11月18日から翌年1月31日まで 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』カラーとして運行
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分散式
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2013年2月
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1208 |
1308 |
クハ5720 |
5770
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1996年7月24日
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集中式
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2011年12月
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京王時代の車番・入線時期の出典
- 鉄道ピクトリアル1998年4月臨時増刊号『甲信越・東海地方のローカル私鉄』191頁
その他
- 1001編成は、2001年(平成13年)に編成ごと飲食店としての認可を受けた[11]。ロングシートの通路にテーブルを設置し、「地ビール電車」などのイベント列車に活用されている。
- 2006年頃から一部の編成の側面行先表示器が交換されている。上部は「大月」「河口湖」のいずれかを、下部はLEDによる案内を表示している。ただし、JRなど他社のそれと異なり、表示器裏面にある切り替えスイッチで切り替える方式である。
- 2008年(平成20年)秋には、ほとんどの編成で先頭車の前面右下部に「特急運転10周年」のヘッドマークを装着していた。
岳南電車9000形電車
岳南電車9000形電車(がくなんでんしゃ9000がたでんしゃ)は、岳南電車が所有する鉄道車両(電車)。富士急行1200形電車を譲受した車両である。2両編成1本2両が在籍する。
岳南電車では7000形モハ7002が主要機器の不具合により廃車される事となり、その代替として2018年に親会社である富士急行から譲渡された1200形1206編成モハ1206-モハ1306をモハ9001-モハ9101に改番し[12][13]、岳南線にて2018年11月17日に営業運転を開始した[14]。
譲渡に際し下吉田駅から陸送により京王重機に搬入され、譲渡向け工事を実施。
かつて同線を走っていた5000系と同じオレンジ色をベースに白帯を纏う塗装に変更。併せて岳南線対応のワンマン化対応工事も施工。なお主要機器等(台車・主電動機・制御装置など)は富士急行在籍時からの変更・改造・交換は施されずに活用。同様に車内設備についても富士急行在籍時のセミクロスシートのまま、座席のモケットが藤色から赤系のものに張り替えられた以外は概ね内装を保持している。塗装以外の外観上の変化としては側面の行先表示器は撤去され、車外スピーカーが設置された。
集電装置は富士急時代にシングルアーム式のパンタグラフに換装済みで、即ち譲渡に際して同社初のシングルアーム式パンタグラフ搭載車となった。
現在岳南電車在籍の電車で唯一動力系のブレーキ(発電ブレーキ)が作用する電車でもある(界磁チョッパ制御の7000形と8000形は京王時代にあった回生ブレーキ機能がカットされている)。
2019年10月時点で9001編成の1編成が在籍している。
脚注
注釈
- ^ 1205編成が「マッターホルン号」となる以前は1201編成が従来塗装でこの愛称を持っていたので、塗装変更して返り咲いたことになる。
出典
関連項目
他社の京王5000系譲渡車