この項目では、医薬品としてのラジウム223について説明しています。放射性同位元素については「ラジウム223 」をご覧ください。
塩化ラジウム (223 Ra) (えんかラジウム223、Radium-223 chloride、223 RaCl2 )は、前立腺癌 の骨転移巣に対する治療薬である[ 1] 。商品名はゾーフィゴ 。日本では2016年3月に承認された、初めての「α線 を用いた癌治療薬」である[ 2] 。1バイアル(5.6mL)中にラジウム223(223 Ra)を6,160kBq(検定時点)含有する。投与量は1回当り55kBq/kg(体重)である。
ノルウェー の製薬会社アルジェタ (英語版 ) とバイエル により開発された。
概要
効能・効果として、「骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌」について承認されている。内臓転移がある場合あるいは外科的または内科的去勢術と併用しない場合の有効性および安全性は確立していない[ 3] 。
2013年に欧州と米国で、2016年に日本で承認され、米国での2014年度の販売額は2億ドル(当時で約250億円)を超え、市場規模が大きくない放射性薬剤としては、初のブロックバスター薬剤 (まったく新しい市場の開拓と莫大な売り上げで、開発費を上回る利益を生み出す画期的新薬)となった[ 4] 。
副作用
重大な副作用として骨髄抑制が挙げられており、その発現率は、好中球減少(3.9%)、血小板減少(7.4%)、貧血(19.3%)、白血球減少(3.2%)、リンパ球減少(2.0%)、汎血球減少(1.7%)である。
そのほか、第III相臨床試験で見られた副作用(計64.3%)は、悪心(20.8%)、下痢(16.7%)、骨痛(15.8%)、疲労(12.2%)などであった[ 3] [ 5] 。
作用機序
生体内ではラジウム の挙動はカルシウム に似ており、そのほとんどが骨(の腫瘍[ 注 1] )組織に分布する[ 6] :3 [ 7] :29 。223 Raは半減期 11.43日でラドン 219(219 Rn)に、219 Rnは半減期3.96秒でポロニウム 215(215 Po)にそれぞれ壊変(α崩壊 )し、主経路では4つのα崩壊と2つのβ崩壊を経て最終的に鉛 207(207 Pb)となる。崩壊エネルギーの95%以上がα線として放出される[ 8] 。α線の飛行距離は大変短く、細胞2個〜10個分しか飛ばないので、β線を放出するストロンチウム89(89 Sr )に較べて周囲の細胞への影響は少ない[ 9] 。骨への分布選択性とα線の飛行距離から、標的骨形成細胞への放射線照射量は非標的部位の少なくとも8倍以上となる[ 10] 。
投与後のラジウム223の主要排泄経路は糞中排泄で、胆汁 中へは分泌されない[ 3] [ 11] 。
臨床試験
骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌 (英 : castration-resistant prostate cancer , CRPC)に対する223 Ra治療は、第II相臨床試験では骨髄抑制が最小限で治療の忍容性は良好であった[ 12] 。
また第III相臨床試験(ALSYMPCA試験)では922名の骨転移性CRPC患者が登録され、223 Raが全生存期間 を延長させることが示された[ 13] 。
ALSYMPCA試験は中間解析で予め定められた有効性を達成[ 注 2] し、独立データモニタリング委員会から試験の終了を提案された。全生存期間は実薬(223 Ra)群が14.0ヶ月、偽薬群が11.2ヶ月であり、そのハザード比 は0.699で、p=0.0022と高度な有意差 がついた[ 13] 。
承認
2013年、米国で、骨転移 (英語版 ) があり骨以外の内臓への転移がない去勢抵抗性前立腺癌 (CRPC)の治療に対する販売承認が認可された。認可は第III相臨床試験で生存期間が延長されたことにもとづいてアンメット・メディカル・ニーズ を満たす治療薬として裁定された[ 14] 。
同試験にもとづいて、欧州では2013年9月に承認された[ 15] 。
日本では同試験ならびに国内での有効性・安全性確認試験の結果を以って、2016年3月に承認された[ 16] 。
223 Raはまた内分泌療法 (英語版 ) に不応となった乳癌の治療薬として、第IIa相臨床試験が実施されている[ 17] 。223 Raが骨転移性乳癌のマーカーである骨アルカリホスファターゼ (bALP)と尿中N-テロペプチド (英語版 ) (uNTX、I型コラーゲン分解産物)を低下させるというデータが出ている[要出典 ] 。
起源と調製
ラジウム223(Ra-223、223 Ra)の半減期は11.4日であり、マリ・キュリー が発見したラジウム226(226 Ra)の1601年と較べて非常に短い。
自然界にはウラン235の崩壊系列 に痕跡量存在する。通常は人工的に226 Raに中性子を当てて作製される[ 18] 。226 Raに中性子を当てると227 Raを生じ、半減期42分でアクチニウム 227(227 Ac)に変化する。227 Acは半減期21.8年でトリウム 227(227 Th)となり、227 Thは半減期18.7日で223 Raとなる。この崩壊系列は、227 Acから223 Raをミルキング するのに適している[ 18] 。
投与予定日の朝に納品となる[ 19] 。患者の体重(kg)、用量(55 kBq/kg 体重)、検定日の放射能濃度(1,100 kBq/mL)、検定日からの経過日数に応じた減衰係数(減衰表参照、f)を用いて、次の式を用いて投与量(mL)を算出する[ 19] 。投与量早見表もある[ 20] 。約1分間かけてゆっくりと投与する[ 19] 。
Dose(mL)
=
Weight(kg)
× × -->
55
(
k
B
q
/
k
g
w
)
f
× × -->
1,100
(
k
B
q
/
m
L
)
{\displaystyle {\mbox{Dose(mL)}}={\frac {{\mbox{Weight(kg)}}\times {\mbox{55}}(kBq/kgw)}{{\mbox{f}}\times {\mbox{1,100}}(kBq/mL)}}}
その他のラジウム223化合物
ラジウムは安定な化合物を形成しないので[ 21] 、ある種の癌に対しては、モノクローナル抗体 を表面に結合させたリポソーム に封入して223 Raを注射する方法が試みられている[ 22] 。
脚注
注釈
^ 骨代謝が活発な部位
^ 充分に大きな差がついたので、これ以上試験を続けると偽薬 群の患者に不利益が生じる。
出典
^ "Preparation and use of radium-223 to target calcified tissues for pain palliation, bone cancer therapy, and bone surface conditioning" US 6635234 http://patft.uspto.gov/netacgi/nph-Parser?Sect1=PTO2&Sect2=HITOFF&p=1&u=%2Fnetahtml%2FPTO%2Fsearch-bool.html&r=1&f=G&l=50&co1=AND&d=PTXT&s1=Radium-223.TI.&s2=%22skeletal+metastases%22&OS=TTL/Radium-223+AND+
^ “前立腺がん骨転移治療に進展、塩化ラジウム223「ゾーフィゴ」が前立腺がんの承認取得 ”. CareNet (2016年4月4日). 2016年6月22日 閲覧。
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^ “骨転移前立腺がんに効果が高い新たなRI内用療法 ― 正常組織への影響が少ない初のα線実用化治療に期待 ”. がん治療新時代WEB (2018年8月15日). 2020年8月6日 閲覧。
^ “FDA approves new drug for advanced prostate cancer ”. US FDA. 2013年5月15日時点のオリジナル よりアーカイブ。2016年6月22日 閲覧。
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関連項目
外部リンク