マトニア科

マトニア科
Matonia pectinata の博物画
Matonia pectinata の博物画
地質時代
三畳紀 - 現代
分類PPG I 2016)
: 植物界 Plantae
: 維管束植物門 Tracheophyta
亜門 : 大葉植物亜門 Euphyllophytina
: 大葉シダ綱 Polypodiopsida
亜綱 : 薄嚢シダ亜綱 Polypodiidae
: ウラジロ目 Gleicheniales
: マトニア科 Matoniaceae
学名
Matoniaceae
C.Presl (1847)
タイプ属
Matonia R.Br. ex Wall.

マトニア科 Matoniaceae は、薄嚢シダ類ウラジロ目に分類される大葉シダ植物の1つである[1]。現生のものは2属4種からなる小さな科であるが[1]中生代には世界中で広く見つかるコスモポリタンであった[2]

形態

Matonia pectinata の葉の形態

ウラジロ科に似ているが、根茎の内部構造が複雑で[3]、中心柱の環が複数同心円状に並ぶ多環両篩管状中心柱polycyclic solenostele)と呼ばれる中心柱を形成する[4][5]。大きな根茎では、3本の包囲維管束環を持つ[6]

は叉状分岐を繰り返す[3]マトニア属葉柄は2 mメートル以上に達し、クジャクシダのように先端で葉軸が二つに分かれ、それぞれが引き続き何回か不等叉状分岐して羽片が形成される[6][3]。羽片は羽状中裂[6]、50 cm にも達する[3]。また、マトニア属の葉は異形葉性 (heteroblasty) を示す[7]

胞子嚢群の配列や胞子嚢の構造はウラジロ科と似ているが[6]胞子嚢群包膜に覆われている点は異なっている[3]。胞子嚢群は羽片の中肋の両側に1列に生じる[6]。それぞれの胞子嚢群は、胞子嚢床の周りに並んだ数個の大きな胞子嚢からなり、胞子嚢床に傘状の包膜の柄が接続する[6]。同じ胞子嚢群内の胞子嚢が同時に成熟する斉熟型で、短い柄と斜めの環帯を持つ[6]。ただし、化石属であるMatonidium は弱く広がった胞子嚢床を持ち、Phlebopteris は包膜を欠く[7]

配偶体の形態は葉状体状の緑色の前葉体で、顕著な中肋と波打った辺縁を持つ[6]。配偶体の形態や造精器壁が数細胞から構成されていることも、ウラジロ科と共通する[6]

分布と生育環境

現生種の分布域は限られ、ボルネオ島マレー半島ニューギニア島に分布している[6][3]。日本には生息しない[8]

マトニア属タイプ種 M. pectinata は、限られた地域の1000 m 以上の高標高の稜線で、少し日が射し込む程度の林床の痩地に群生している[3]。現在では東南アジアにしか分布しないが、湿原の安定した水環境の中で生き残ってきたと考えられる[9]

化石記録

三畳紀白亜紀からの化石記録が知られる[6][7]。少なくとも13属が認識され[7]中生代にはマトニア科はコスモポリタンであった[2]北半球高緯度地域[3]南米チリ中南部のコチョルゲの泥炭[2]、更には南極からも見つかっている[10]

中生代で最もよく見つかる属は、PhlebopterisMatonidium およびマトニア属の3属である[10]

分類と系統

系統関係

マトニア科はコープランド (1947) の分類体系ピキセルモリ (1977) の分類体系など、シダ類の分類体系において古くから独立した科として認識されていた[11][12]。また、その形態からウラジロ科との類縁関係が示唆されていた[6]

分子系統樹では、ヤブレガサウラボシ科と姉妹群をなし[8]、さらにそのクレードがウラジロ科と姉妹群をなして、ウラジロ目を構成する[13][7]。ヤブレガサウラボシ科とは三畳紀に分岐したと考えられている[14][15]

ウラジロ目内の科の系統関係は以下の通りである[14][15][16][7][17]

ウラジロ目

ウラジロ科 Gleicheniaceae

マトニア科 Matoniaceae

ヤブレガサウラボシ科 Dipteidaceae

Gleicheniales

下位分類

現生属は Hassler (2004–2024)化石分類群van Konijnenburg-van Cittert (1993) および Nagalingum & Cantrill (2006)に基づく。

マトニア科 Matoniaceae C.Presl (1847)

脚注

注釈

出典

  1. ^ a b PPG I 2016, p. 573.
  2. ^ a b c 西田 2017, p. 259.
  3. ^ a b c d e f g h 岩槻邦男「マトニア」『世界大百科事典』https://kotobank.jp/word/%E3%83%9E%E3%83%88%E3%83%8B%E3%82%A2コトバンクより2022年11月19日閲覧 
  4. ^ 長谷部 2020, p. 166.
  5. ^ ギフォード & フォスター 2002, p. 273.
  6. ^ a b c d e f g h i j k l ギフォード & フォスター 2002, p. 310.
  7. ^ a b c d e f Kato & Setoguchi 1998, pp. 391–400.
  8. ^ a b 海老原 2016, p. 328.
  9. ^ 西田 2017, p. 162.
  10. ^ a b Nagalingum & Cantrill 2006, pp. 73–93.
  11. ^ ギフォード & フォスター 2002, p. 304.
  12. ^ 海老原 2016, p. 27.
  13. ^ 海老原 2016, p. 327.
  14. ^ a b 西田 2017, p. 163.
  15. ^ a b 海老原 2016, p. 26.
  16. ^ PPG I 2016, p. 567.
  17. ^ Nitta et al. 2022, Data Sheet 1 (Supplementary Materials).

参考文献

  • Copeland, Edwin Bingham (1947). Genera Filicum, the genera of ferns. Waltham: Chronica Botanica 
  • Hassler, Michael (2004–2024). “World Ferns. Synonymic Checklist and Distribution of Ferns and Lycophytes of the World. Version 24.7; last update July 18th, 2024.”. Worldplants. 2024年7月26日閲覧。
  • Kato, M.; Setoguchi, H. (1998). “An rbcL-based phylogeny and heteroblastic leaf morphology of Matoniaceae”. Systematic Botany 23 (4): 391–400. doi:10.2307/2419371. 
  • Nagalingum; Cantrill (2006). “Early Cretaceous Gleicheniaceae and Matoniaceae (Gleicheniales) from Alexander Island, Antarctica”. Review of Palaeobotany and Palynology 138 (2): 73–93. 
  • Nitta, J. H.; Schuettpelz, E.; Ramírez-Barahona, Santiago; Iwasaki, W. (2022). “An Open and Continuously Updated Fern Tree of Life”. Frontiers in Plant Science 13: 909768. doi:10.3389/fpls.2022.909768. PMC 9449725. PMID 36092417. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9449725/. 
  • Pichi Sermolli, R.E.G. (1977). “Tentamen Pteridophytorum genera in taxonomicum ordinem redigendi”. Webbiba 31: 313–512. 
  • PPG I (The Pteridophyte Phylogeny Group) (2016). “A community-derived classification for extant lycophytes and ferns”. Journal of Systematics and Evolution (Institute of Botany, Chinese Academy of Sciences) 56 (6): 563–603. doi:10.1111/jse.12229. 
  • van Konijnenburg-van Cittert, Johanna H.A. (1993). “A review of the Matoniaceae based on in situ spores”. Review of Palaeobotany and Palynology 78 (3–4): 235–267. doi:10.1016/0034-6667(93)90066-4. 
  • 海老原淳『日本産シダ植物標準図鑑1』日本シダの会 企画・協力、学研プラス、2016年7月15日、344頁。ISBN 978-4-05-405356-4 
  • アーネスト M. ギフォードエイドリアンス S. フォスター『維管束植物の形態と進化 原著第3版』長谷部光泰鈴木武植田邦彦監訳、文一総合出版、2002年4月10日。ISBN 4-8299-2160-9 
  • 西田治文『化石の植物学 ―時空を旅する自然史』東京大学出版会、2017年6月24日。ISBN 978-4130602518 
  • 長谷部光泰『陸上植物の形態と進化』裳華房、2020年7月1日。ISBN 978-4785358716 

外部リンク

  • ウィキメディア・コモンズには、マトニア科に関するカテゴリがあります。