パーペンブルクの2つの屋内造船ドック(2013年5月3日)
1987年に建設された屋内造船ドック内部。中央の船はドイツの調査船
ゾンネ(ドイツ語版)(2014年3月15日)
2013年4月12日、ゾンネ建造中の屋内造船ドック。
マイヤー・ヴェルフト(Meyer Werft[注 1])は、ドイツのパーペンブルクにある造船会社。河川用クルーズ客船を担うグループ企業ネプトゥーン・ヴェルフト(英語版)と共にマイヤー・ネプトゥーン(Meyer Neptun)の傘下にある[3][2]。
日本語では、ドイツ語を直訳したマイヤー造船所とする表記も存在している。
歴史
1795年に木造船の造船所として設立、1872年には蒸気機関を搭載した鉄製の船の建造に着手[4]。1873年には最初の3隻を、翌年には初の客船となるトリートン(Triton)を進水させた[5]。19世紀を通じ400隻以上を建造[4]、第一次世界大戦前には、21世紀まで航行を続けた1909年のプリンツ・ハインリヒ(ドイツ語版)と1913年のゲッツェンが建造されている[6][7]。
第一次世界大戦を乗り切り、1934年に建造され2012年まで使用された検査船エムス(ドイツ語版)を含む船舶を建造した他、漁船、灯台船、巡視船、沿岸用客船などに事業を集中した[8][4]。第二次世界大戦が終結すると、貨客船、LPG船、RO-RO船、家畜運搬船(英語版)、クルーズ客船と事業を広げた[9][4][10][11]。1975年には、エムス川沿岸からパーペンブルク近郊へ移転している[12]。1987年には、世界最大となる屋内造船ドックを建設した。その後、2001年には、さらに規模を拡大した第二の屋内造船ドックを設けている[12]。
1997年、ロストックのネプトゥーン・インドゥストリー・ロストックとグループ化した[13][14]。
2003年には500人もの大量解雇が発生した。これは、2001年に発生したアメリカ同時多発テロ事件の影響でクルーズ客船の新規受注の見通しが立たなくなったことが背景にある[1]。
2014年8月には、フィンランド政府と共同でSTXヨーロッパからトゥルクのSTXフィンランドの造船所を買収[15]。株式の取得比率はマイヤー・ヴェルフトが70%、フィンランド政府が30%。諸手続が完了次第、「マイヤー・トゥルク造船」に社名を変更する予定[16]。
運営
建造する船舶はクルーズ客船、LPG船、LNGタンカー、フェリー、RO-RO船といった民間向けの大型船が主力である[2]。
従業員3,100人を有し、地域最大の雇用を創出する企業の一つとなっている[1]。
マイヤー・ヴェルフトが擁する屋内造船ドックは、世界最大のものとして知られており、1987年のものは全長370m、幅102m、高さ60m。さらにこれを1991年に100m延伸している[14][17]。2001年から建設したものは、2008年の延長分120mを含めて全長504m、幅125m、高さ75mとさらに大規模な施設となった[18][14][19]。この他に、敷地内に露天ドックを1基保有している。
パーペンブルクで建造された船は、進水後エムス川へ進み北海へ向かうことになるが、大型船の場合はエムス川河口堰(ドイツ語版)によりエムス川の水深を最大2.7m上昇させることが必要になる[20][17]。
観光
パーペンブルクの造船所は、それ自体が「マイヤー造船所」[注 2]としてヨーロッパ産業遺産の道に組み込まれており、北部ルート、製造業ルート、運輸・通信ルートの3つに属するアンカーポイントとなっている[20]。
観光客を受け入れる施設としてビジターセンターを設けており[21][22]、年30万人が訪れている[23]。
建造船
受注済みの船を含めて主要な建造船は、2013年1月の段階でクルーズ客船40隻、RO-RO船を含むフェリー29隻、各種ガスタンカー56隻、家畜運搬船27隻[24]。
別記無き限り以下の出典は、2013年1月のCompany Brochureに拠る[24]。
歴史的な建造船
マイヤー・ヴェルフトにとって歴史的な船[4]
船名 |
建造 |
船種 |
備考
|
トリートン(Triton) |
1874年 |
客船 |
初の鉄製客船
|
プリンツ・ハインリヒ(Prinz Heinrich)[6] |
1909年 |
客船 |
伝統船(ドイツ語版)として現存
|
ゲッツェン(Goetzen) |
1913年 |
客船 |
リエンバ(Liemba)として現役
|
ドゥラッツォ(Durazzo)[25] |
1921年 |
貨物船 |
1951年まで最大の船
|
エムス(Ems)[8] |
1934年 |
調査船 |
伝統船として現存
|
エルベ1(Elbe 1)[26] |
1948年 |
灯台船 |
航行可能な博物館船として現存
|
モーリシャス(Mauritius) |
1955年 |
貨客船 |
初の貨客船
|
マルメ(MALMÖ) |
1964年 |
RO-RO船 |
初のRO-RO船
|
ホメリック(Homeric) |
1985年 |
クルーズ客船 |
初のクルーズ客船、トムソン・ドリーム(英語版)として現存
|
クルーズ客船
クルーズ客船
船名 |
建造 |
総トン数 |
備考
|
ホメリック(Homeric) |
1985年 |
42,000 |
初のクルーズ客船、現トムソン・ドリーム
|
クラウン・オデッセイ(Crown Odyssey) |
1988年 |
34,200 |
現バルモラル
|
ホライズン(Horizon) |
1990年 |
46,800 |
準同級ゼニス
|
オリアナ(Oriana) |
1995年 |
69,000 |
|
センチュリー(Century) |
1995年 |
71,000 |
現セレブリティ・センチュリー、準同級2隻
|
スーパースター・レオ(SuperStar Leo) |
1998年 |
76,800 |
現ノルウェージャン・スピリット、同級スーパースター・ヴァーゴ
|
オーロラ(Aurora) |
2000年 |
76,000 |
|
レディアンス・オブ・ザ・シーズ(Radiance of the Seas) |
2001年 |
90,090 |
同級3隻
|
ノルウェージャン・スター(Norwegian Star) |
2001年 |
92,000 |
同級ノルウェージャン・ドーン
|
ノルウェージャン・ジュエル(Norwegian Jewel) |
2005年 |
93,500 |
同級3隻
|
AIDAディーヴァ(AIDAdiva) |
2007年 |
69,200 |
同級2隻
|
セレブリティ・ソルスティス(Celebrity Solstice) |
2008年 |
122,000 |
同級4隻
|
AIDAブルー(AIDAblu) |
2010年 |
71,100 |
同級2隻
|
ディズニー・ドリーム(Disney Dream) |
2011年 |
130,000 |
同級ディズニー・ファンタジー
|
ノルウェージャン・ブレイクアウェイ(Norwegian Breakaway) |
2013年 |
144,000 |
同級ノルウェージャン・ゲッタウェイ
|
クァンタム・オブ・ザ・シーズ(Quantum of the Seas) |
2014年 |
166,500 |
同級アンセム・オブ・ザ・シーズ
|
ノルウェージャン・エスケープ(Norwegian Escape)[27] |
2015年 |
163,000 |
同級ノルウェージャン・ブリス
|
フェリー
主なフェリー
船名 |
建造 |
総トン数 |
備考
|
プエルト・バジャルタ(Puerto Vallarta)[28] |
1974年 |
7,005 |
準同級2隻
|
ヴァイキング・サリー(Viking Sally) |
1980年 |
15,567 |
クルーズフェリー、1994年9月28日沈没
|
2000型 |
1983年 |
14,800 |
ペルニ向けフェリー、15隻建造
|
1000型 |
1986年 |
6,000 |
ペルニ向けフェリー、9隻建造
|
シリヤ・ヨーロッパ(Silja Europa) |
1993年 |
59,914 |
クルーズフェリー
|
ポン=タヴァン(Pont-Aven) |
2004年 |
40,800 |
クルーズフェリー
|
その他
その他の船
船名 |
建造 |
総トン数 |
船種 |
備考
|
アル・シュワイク(Al Shuwaikh) |
2000年 |
40,600 |
家畜運搬船 |
羊80,000頭
|
ゾンネ(Sonne)[29] |
2015年 |
8,600 |
調査船 |
ネプトゥーン・ヴェルフトが受注
|
注
- ^ 英語による呼称もMeyer Werft[2]。
- ^ 英:Meyer shipyard、蘭:Meyer Scheepswerf、仏:Le chantier naval Meyer、ドイツ語のみ社名と同じMeyer Werft[20]。
出典
外部リンク