ドン・パスクワーレはもう70歳になる独身の金持ち老人である。そろそろ財産を同居している唯一の相続人、甥のエルネストに譲ろうと考えていた。しかし、そのエルネストはノリーナという若い未亡人に惚れこんでいて、パスクワーレが薦める金持ちの令嬢との結婚をあっさりと断ってしまう。業を煮やしたパスクワーレは、それなら自分が若い娘と結婚して、産まれた子供に財産を譲ろうと思い立ち、友人の医師マラテスタに相手探しを依頼する。マラテスタが現れ、若く美しく謙虚な理想の花嫁が見つかったという〈ロマンツァ〉「天使のように美しい娘が」(Bella siccome un angelo)を歌う。それもマラテスタの妹というから驚きだ。〈ヴィヴァーチェ〉の急速なテンポで「これまでに感じたことのない情熱の炎が」(Un foco insolito mi sento addosso)を歌う。有頂天のパスクワーレはエルネストを呼び、「わしが結婚する」(Io prendo moglie)ので、この家を出ていけと告げる。驚くエルネスト。実はエルネストも、未亡人のノリーナとの結婚がうまくいくように、マラテスタにパスクワーレの説得を頼んでいた。絶望したエルネストは〈カンタービレ〉の分散和音に彩られ「甘く清らかな夢よ」(Sogno soave e casto)を歌い、家を出る決心をする。
第2場
ノリーナの家
エルネストの恋人、未亡人ノリーナが恋愛小説を読んでいる。〈カヴァティーナ〉「騎士はその眼差しに心を射抜かれ」(Quel guardo il cavaliere in mezzo al cor trafisse)を歌い、自分には男性の心をとろけさせる眼差しや、微笑みや、うその涙の使い方を熟知しており、知恵が回り、冗談を解し、怒りを笑いに帰る才能もあると自慢する。そこに、エルネストからの手紙が届く。手紙には「財産は貰えず、家を追い出された。絶望して一人でこの地を去る」と書かれていた。驚き悲しむノリーナのところに、マラテスタがやって来る。マラテスタは一計を案じ、ノリーナに修道院に入っている自分の妹ソフローニャに変装させて、ドン・パスクワーレに花嫁として送り込む企てを打ち明ける。ドン・パスクワーレを振り回して、彼に結婚を後悔させ、エルネストとの結婚を承諾させようと言う。〈二重唱〉「準備は万端よ」(Pronta io son)となり、彼女はあとは任せて欲しいと言う。
第2幕
ドン・パスクワーレ邸
エルネストはこの家を出る決心を固め、〈アリア〉「見知らぬ遠いところで」(Cercherò lontana terra)を歌い自室に戻る(トランペット独奏を伴う感動的な導入部となっている[5])。パスクワーレは召使を引き連れて、正装で現れる。そこにマラテスタと純真で内気な妹のソフロニアに扮するノリーナがヴェールをかぶり、やって来る。ソフロニアがヴェールを外すと、美しく清楚で慎み深い花嫁候補に、パスクワーレは一目惚れをしてしまい、舞い上がり〈カヴァティーナ〉「仕草も、声も、身のこなしも」(Mosse, voce, portamento)と歌い、早速この場で挙式を上げることにする。公証人(マラテスタの従弟)は事前に隣室に呼ばれていたが、もう一人必要である。そこに、エルネストが叔父に最後の別れを告げにやって来て『出発する前に』(Pria di partir)を歌う。エルネストは花嫁を見て仰天するが、マラテスタが彼にこれは芝居であると耳打ちし、納得させる。エルネストもマラテスタと共に悪巧みに加わり、婚姻の証書に署名する。その署名が終わったとたんに、偽のソフロニアであるノリーナの態度が一変する。パスクワーレに無遠慮に命令をして、考え得る限りの派手な気分屋の贅沢女房に変身する。パスクワーレは啞然とし『夢か現実か、一体何が起きたんだ』(Pria di partir)と歌い、動揺するが、なす術がない。芝居が上出来であることに満足したマラテスタたちは〈四重唱〉「石のように固まってしまった」(È rimasto là impietrato)を歌い、喜びをあらわにする。
第3幕
第1場
前幕と同じ日のドン・パスクワーレ邸
部屋中のどこもかしこも新妻の洋服や帽子、アクセサリーなどが散乱している。山積みなった請求書を前に、ドン・パスクワーレは頭を抱えている。召使いがノリーナの言いつけで慌ただしく走り回っている。ノリーナが着飾って登場し、これから芝居見物に出かけるという。ノリーナは結婚初夜なのに何という尻軽女だと怒るパスクワーレに平手打ちを食わせると彼は「ドン・パスクワーレは終わりだ」(è finita, Don Pasquale)と嘆く。爺さんは早く寝たほうが良いと言い、わざと一通の手紙を落として外出する。それは今夜ノリーナの密会の約束が記されている。これは当然パスクワーレを罠にはめるための小道具だが、これを見たパスクワーレはこれを口実に離婚が出来ると考える。召使いたちの〈合唱〉「何と限りないこの出入り」(Che interminabile andirivieni!)が聞こえる。マラテスタとエルネストが現れて今夜の密会の打ち合わせをする。続いてパスクワーレが登場して、マラテスタに新妻の傍若無人ぶりを嘆く。そして新妻の不貞の現場を取り押さえるべく計画を練る。2人による早口の二重唱の活力は、この状況のもつ気分をまさに生き生きと捉えている。
第2場
夜の庭園
庭ではエルネストがノリーナを想って〈セレナーデ〉「春の盛りの夜はなんと素敵なのだろう」(Com'è gentil la notte a mezzo april!)。ノリーナが現れ、甘美な〈二重唱〉「もう一度愛していると言っておくれ」(Tornami a dir che m'ami)となる。パスクワーレとマラテスタが登場、密会の現場を取り押さえようとするが、エルネストは気配を感じ間一髪でその場を逃れる。パスクワーレはソフロニアに扮するノリーナによくもわしを裏切ったな、出て行けと言う。彼女は一人で風にあたっていただけとしらばっくれる。マラテスタがソフロニアを説得する振りをし、明日からはエルネストのノリーナという花嫁がこの家に来て、一緒に住むことになると言う。ソフロニアはノリーナとかいう女と住むのは真っ平ごめん、この家を出ると言う。それを聞いて喜んだパスクワーレはすぐさまエルネストを呼びつけ、ノリーナとの結婚を許し、遺産相続の約束もしてしまう。すると、マラテスタがソフロニアは実はノリーナであったことをパスクワーレに打ち明ける。怒っていたパスクワーレは全てを悟り、寛大な心で「この話の教訓は」(La morale è molto bella)と語り、二人を許し祝福して、大団円となる。