『デッドマン』では、ウィリアム・ブレイクという名前の他にも、詩人ブレイクの作品の登場人物や、詩人ブレイクの人生と関わりのある人物の名前が使われている。たとえば、紙製の花を売っていた娘の名前セルは、ブレイクの『セルの書 (The Book of Thel)』の主人公の名前であり、また、ディッキンソン工場の支配人ジョン・スコフィールド (John Scholfield) という名前は、1803年にブレイクを暴動教唆の罪で告訴した兵士の名前 ジョン・スコウフィールド (John Schofield) を連想させる。
子供の頃、兵士に銃で殴られ、アメリカから海を渡ってイギリスに連れ去られたが、ブレイクの詩集と出会い、その叡智の言葉に勇気づけられ、脱走に成功、ふたたび故郷の部落に戻ることができた登場人物のノーボーディは、自分にとって特別なこの詩人の言葉をしばしば暗唱する。たとえば、自分が助けた白人の名前がウィリアム・ブレイクであることを知り驚いたノーボディは、ブレイクの詩「無心のまえぶれ (Auguries of Innocence)」の一節を口ずさむ。
Every Night & every Morn 毎晩そして毎朝
Some to Misery are Born あるものたちは悲嘆に生まれつき
Every Morn & every Night 毎朝そして毎晩
Some are Born to sweet delight あるものたちは甘美な歓びに生まれつく
Some are Born to sweet delight あるものたちは甘美な歓びに
Some are Born to Endless Night あるものたちは終わりなき夜に
さらにノーボーディは、ブレイクの『天国と地獄の結婚 (The Marriage of Heaven and Hell) 』のなかの「地獄の格言 (Proverbs of Hell)」のひとつ「The Eagle never lost so much time. as when he submitted to learn of the crow (鷲がカラスから教えを受けようとすれば時間を無駄にする)」という言葉や、ブレイクの『永遠の福音 (The Everlasting Gospel)』の一節「The Vision of Christ that thou dost see / Is my Visions Greatest Enemy(おまえの見るキリスト像は、おれのキリスト像の最大の敵)」という言葉を口にしたり、「ウィリアム・ブレイクは 伝説の男 彼は おれの友達」と歌ったりもしている。