コイ目 (コイもく、Cypriniformes 、Carp )は、硬骨魚類 の分類群の一つ。6科で構成され、コイ ・フナ ・タナゴ ・ドジョウ などの淡水魚 を中心に、およそ4,000種が所属する大きなグループである。中でもコイ科 は世界で約3,000種が知られ、魚類 で最大の科 を構成する。食用あるいは観賞魚 として利用される種類も数多く、人間にとっても馴染み深い分類群となっている。
本稿では分類群 としてのコイ目の構成、およびコイ類全般の特徴について記述する。日本 を含む世界各地に分布するコイ科魚類の1種、コイ(Cyprinus carpio )および関連する文化については、コイ の項目を参照のこと。
概要
コイ目には2006年 の時点で3,200を超える種が記載され、魚類 の目 の中ではスズキ目 (約1万種)に次いで2番目に大きな一群となっている。現生の魚類2万8,000種の1割以上、淡水産種(約1万2,400種)に限れば四分の一以上がコイ目の仲間で占められる[ 1] 。1994年 の時点(約2,600種)[ 2] から10年余りの間に新たに600種以上が新種記載されるなど、分類の拡大傾向が続いている。
所属する魚類はほぼすべてが淡水魚で、熱帯 から寒帯 にかけての河川 や湖沼 、さらには山岳地帯の渓流 に至るまで、その生息域は幅広い。ユーラシア大陸 ・北アメリカ大陸 ・アフリカ大陸 および周辺の島嶼地域を中心に繁栄する一方、南アメリカ大陸 には分布しない。強酸性の湖にも生息できるウグイ [ 3] など、水質の悪い環境への適応 もしばしば認められる。成魚の大きさは1cm程度の超小型種から3mに達するものまでおり、体色・食性 ・繁殖 形態なども多種多彩である。
形態
コイ科魚類(Mylocheilus robustus )の咽頭歯の化石。コイ目の魚類は顎に歯をもたず、喉の部分に咽頭歯が発達する
コイ目魚類に共通する重要な特徴として、咽頭歯 の存在がある。本目の魚は口の中に歯(顎歯および口蓋歯)をもたず、喉の部分に咽頭歯と呼ばれる歯が発達している。咽頭歯は大きく発達した咽頭骨に形成される。咽頭歯の本数や配列、成長段階での形成過程は詳細に調べられており[ 4] 、特にコイ科では重要な分類形質として利用されている。
多くの種類は口ヒゲをもち、上顎を突き出すことができる。頭部には鱗 がない。鰭 は棘条をもたず軟条のみからなるが、一部の種類の背鰭 には棘条に似た頑丈な鰭条がみられる。背鰭は1つだけで、ドジョウ科の一部を除いて脂鰭を欠く。口蓋骨 は内翼状骨と接続する。下咽頭骨に形成された咽頭歯は、パッド状に拡張した基後頭骨突起とかみ合い、飲み込んだ餌はこの部分ですりつぶされる。
コイ目はカラシン目 やナマズ目 などとともに骨鰾上目 と呼ばれるグループに属し、この仲間に共通する特徴としてウェーベル氏器官(ウェーバー器官とも)と呼ばれる独特の構造を有している。ウェーベル氏器官は変形した4つの脊椎骨 によって構成され、内耳 と浮き袋 を連絡し、脳 に音を伝える機能をもつ。
分類
コイ目は2上科6科で構成される[ 1] 。コイ目は同じ骨鰾上目のネズミギス目 ・カラシン目・ナマズ目・デンキウナギ目 と近縁である。近年、アメリカ国立科学財団 (NSF)によってコイ目の詳細な系統解析プロジェクト(Cypriniformes Tree of Life 、CToL )[ 5] が進められるなど、本目の生物多様性 を解明するための努力が続けられている[ 1] 。
コイ上科
コイ科
ゼブラフィッシュ Danio rerio (ダニオ亜科)。実験動物として汎用され、遺伝子改変モデル も作出されている
ニゴロブナ Carassius buergeri grandoculis (コイ亜科)。琵琶湖の固有亜種で、当地の郷土料理 である鮒寿司 の原料として利用される
ソウギョ Ctenopharyngodon idella 。水生植物を主食とする東アジア原産のコイ類。日本には戦中戦後にかけて移植され、以来全国各地に分布範囲を広げている
コイ科 Cyprinidae は約3000種を含み、淡水魚として最大の科となっている。メキシコ 南部までの北アメリカ 、アフリカおよびユーラシア大陸に分布する。ほぼすべてが淡水産であるが、ごく一部に汽水域 に進出する種類が知られる。多数の水産重要種を含み、アクアリウム などで飼育される観賞魚も多い。ゼブラフィッシュ (Danio rerio )など、一部の魚種は生物学 における重要なモデル動物として利用されている。本科に所属するパーカーホ は、コイ目中の最大種で3mに及ぶこともあるが[ 1] 、一般的なコイ科魚類は体長5cm未満である。咽頭歯は1-3列で、各列とも8本を超えることはない。多くの種類では唇は薄く、ひだや突起はない。上顎はほぼ完全に前上顎骨のみによって縁取られ、前に突き出すことが可能である。コイ科魚類の最古の化石 は、アジアにおける始新世 の地層 から産出する[ 1] 。
次の亜科と、所属未定のいくつかの属がある。
ドジョウ上科
ドジョウ上科 Cobitoidea は4科99属842種で構成される。フクドジョウの仲間はかつてドジョウ科に所属していたが、現在ではタニノボリ科に移されている。間在骨(opisthotic)を欠き、眼窩蝶形骨が上篩骨・篩骨 複合体と接続するなどの特徴がある。
ギュリノケイルス科
アルジーイーター Gyrinocheilus aymonieri (ギュリノケイルス科)
サッカー科の1種(Ictiobus niger )
ギュリノケイルス科 Gyrinocheilidae は1属3種からなり、東南アジア山岳地帯の渓流に分布する。いずれも藻類 のみを摂食し、観賞魚として人気のある種類である。
咽頭歯および口ヒゲをもたない。口は下向きで吸盤 状に変化しており、岩などに張り付くことで急流をやり過ごす。鰓の開口部は小さく、2列のスリット状になっている。
サッカー科
サッカー科 (ヌメリゴイ科) Catostomidae には4亜科13属72種が属する。ほとんどの種は北米に分布するが、Catostomus catostomus はシベリア、イェンツーユイ は中国にも分布する。体長1mに達する大型種を含む。ほとんどの種類は底生魚で、口は下向きについていることが多い。始新世から漸新世にかけて化石属が知られている。咽頭歯は1列16本以上。唇は厚く肉質で、ひだや突起をもつものが多い。上顎は前上顎骨と主上顎骨によって縁取られる。
ドジョウ科
ゴールド・ゼブラ・ローチ Botia histrionica (ドジョウ科)
シマドジョウ Cobitis biwae (ドジョウ科)。日本固有種で、本州と四国に広く分布する
ヒナイシドジョウ Cobitis shikokuensis (ドジョウ科)
チャイナバタフライ Beaufortia kweichowensis (タニノボリ科)。吸盤状に拡大した胸鰭・腹鰭を使って岩などに張り付く
ドジョウ科 Cobitidae は2亜科26属177種で構成され、ドジョウ ・シマドジョウ などが所属する。日本を含めたユーラシア地域およびモロッコ に分布し、特に南アジアで多様な種分化 が認められる。底生性で、体長は最大種で40cmほどになる。Pangio 属(クーリーローチ )や Botia 属(クラウンローチ )など、観賞魚として知られる仲間も多い。本科は Cobitidi dae と綴られることもあるが、現在ではこのアルファベット 表記は受けいれられていない[ 1] 。
体は細長いか、あるいは紡錘形。口はやや下向きで、3-6対の口ヒゲをもつ。眼の下にトゲ状の突起をもつ。咽頭歯は一列。
ドジョウ亜科 Cobitidae 19属130種。多くの種類は吻 に1対のヒゲを有する。頭部の側線系が明瞭で、尾鰭はやや丸みを帯びる。
アユモドキ亜科 Botiinae 7属47種を含み、インド・中国・日本および東南アジアの島嶼域に分布する。体は側扁し、吻のヒゲは2対。頭部側線系は不明瞭で、尾鰭は二又に分かれる。日本からはアユモドキ (固有種)が知られる。
タニノボリ科
タニノボリ科 Balitoridae は2亜科59属590種で構成され、ユーラシア地域に広く分布する。フクドジョウ亜科はかつてドジョウ科に含められていたが、ウェーベル氏器官の形態上の特徴から、現在ではタニノボリ亜科と併せて単系統群を構成するとみられている。590という種数は概算値であり、有効魚種の全体的な再検討が望まれている。新種の記載も近年相次いでおり、多くの未発見種が存在すると考えられている。
フクドジョウ亜科 Nemacheilinae
ホトケドジョウ属 Lefua
Schistura 属
他27属
タニノボリ亜科 Balitorinae
出典・脚注
^ a b c d e f Nelson JS (2006). Fishes of the world (4th edn) . New York: John Wiley and Sons
^ 『新版 魚の分類の図鑑』 pp.54-55
^ 『日本の淡水魚 改訂版』 pp.259-264
^ 『魚の形を考える』 pp.69-114
^ “Cypriniformes Tree of Life ”. CToL. 2009年1月31日 閲覧。
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
コイ目 に関連するカテゴリがあります。
ウィキスピーシーズに
コイ目 に関する情報があります。
魚の一覧
コイ - コイ科の1種(Cyprinus carpio )と関連する文化について。
参考文献
外部リンク