グレゴリー・アイザックス (Gregory Anthony Isaacs、1951年 7月15日 [ 1] - 2010年 10月25日 )[ 2] [ 3] [ 4] [ 5] [ 6] は、ジャマイカ の歌手 、プロデューサー 。愛称はクール・ルーラー (Cool Ruler)[ 4] 、ロンリー・ラヴァー (Lonely Lover)[ 7] 。
来歴
デビュー
ジャマイカ、キングストン市 デナムタウン地区のスラム街に生まれたアイザックスは[ 4] [ 6] 、サム・クック などに影響を受け[ 6] 、10代の頃から音楽を志し「ヴェレ・ジョンズ・オポチュニティ・アワー」などのタレント・コンテストの常連出場者になっていった[ 6] 。やがてプロデューサーのバイロン・リー (en ) らに見出され、1968年にウィンストン・シンクレアのプロデュースした「Another Heartache」でレコードデビューを果たした[ 2] [ 8] 。しかしこの曲はあまり売れなかったため、方針転換を考えたアイザックスはペンロー (Penroe) とブラムウェル (Bramwell) という別のボーカリストと共にコンコーズ (The Concords) というボーカル トリオ を結成した[ 2] [ 6] 。コンコーズはルーピー・エドワーズやプリンス・バスター の下で録音を残したものの長続きせず、1970年に解散してしまったが、アイザックスはすぐにソロ活動を再開した[ 2] 。
アフリカン・ミュージアム
1973年、自身初のヒットとなる「All I Have Is Love」をアルヴィン・ラングリン (en ) のGG'sレーベル より発表する[ 8] 。このヒットを期に、アイザックスはミュージシャン仲間のエロル・ダンクリー (en ) と共同経営でウェスト・キングストン地区にアフリカン・ミュージアム というレコードショップ 兼個人レーベルを開業した[ 6] [ 8] 。同年にはさらに、最初のラヴァーズ・ロック 楽曲という説もある「My Only Lover」をエドワーズのサクセス・レーベルからリリースし、ヒットさせた[ 2] [ 8] 。続く3年の間、アイザックスはアフリカン・ミュージアムに投資するためにウィンストン・ホルネス (en )、リー・ペリー ら外部のプロデューサーとも積極的にレコーディングを行い、「Lonely Soldier」、「Black a Kill Black」、「Extra Classic」、ドビー・ドブソン (en ) のカバー曲「Loving Pauper」などのヒット曲を発表した[ 2] 。中でも1974年にGG'sから発表した「Love Is Overdue」は自身初のヒットチャート一位を獲得した[ 2] 。
この時期、1960年代後半から1970年代前半にかけてのジャマイカでは、アルトン・エリス 、デニス・ブラウン 、シュガー・マイノット らを擁したスタジオ・ワン ・レーベル が最も人気があったが、アイザックスはスタジオ・ワンでは一曲も録音を残さなかった[ 8] 。1992年のインタビューで彼はその理由を述べている。
俺は嫌だったんだよ、皆が
そこのプロデューサー に不満を言っているのが。他人の才能を使って儲けようって考えが甘いと思ったね。それに、俺は最初から、プロデューサーをブツブツ言うぐれぇなら自分で自分をプロデュースすりゃいいじゃねえかって考え方だ。
— グレゴリー・アイザックス、[ 8]
全盛期
1970年代後半になるとアイザックスはデニス・ブラウンやボブ・マーリー に次ぐ人気を獲得し、アメリカ合衆国、イギリスなどにもツアーを行うようになった[ 9] [ 10] 。1977年、1978年には再びアルヴィン・ラングリンと組んで「Border」、「Number One」を発表した。
1978年にはヴァージン・レコード 傘下のフロントライン・レコーズと契約し、『Cool Ruler 』と『Soon Forward』を発表、さらに映画『ロッカーズ 』に本人役で出演した[ 9] 。スライ&ロビー がバッキングを行ったこの2枚のアルバムは後にレゲエ研究家のスティーブ・バロウがアイザックスの最高傑作と評価し、アルバムタイトルのクール・ルーラーは彼のニックネームにもなった[ 4] [ 11] 。
1981年にはジャマイカ最大の音楽イベントであるレゲエサンスプラッシュに出演した。また、カリスマ・レコード (en ) に移籍し、彼のもう一つのニックネームとなる『The Lonely Lover』と、『More Gregory』を発表した。シングル単位でも、「Tune In」「Permanent Lover」「Wailing Rudy」、「Tribute to Waddy」などヒット作に恵まれた[ 12] 。
1982年にはドキュメンタリー映画 『Land of Look Behind 』に出演した他、アイランド・レコード と契約し、自身最大のヒットシングル「Night Nurse」を収録したアルバム『Night Nurse 』を発表した[ 12] [ 6] 。同作は全米 および全英シングルチャート では振るわなかったものの、一部のラジオとディスコで大きなヒットとなり[ 3] [ 4] 、全英アルバムチャート では32位を記録した[ 13] 。しかしながらこの成功以来、アイザックスはコカイン に依存するようになってしまい、同年の内に銃の不法所持 とコカイン所持容疑で逮捕され6ヶ月間刑務所に収監された[ 12] [ 14] 。翌1983年に出所するとアイランドからの2枚目のアルバムとなる『Out Deh!』を発表した[ 12] 。
ミュージック・ワークス
グレゴリー・アイザックスのコンサートを告知する看板
逮捕によって契約違反としてアイランドとの契約を打ち切られたアイザックスであったが、1980年代中盤以降のデジタル化したダンスホールレゲエ 時代にもプリンス・ジャミー 、ヒュー・ジェイムス、ボビー・ディクソン (en ) らジャマイカのプロデューサーの元で非常に多くの作品を録音した[ 10] [ 12] 。
中でも、ガッシー・クラーク率いるミュージック・ワークス・レーベルとの結びつきを強めたアイザックスは、同レーベルから1985年に『Private Beach Party』を発表し、1988年には「Rumours」をヒットさせる[ 12] 。この時期は他にも「Mind Yu Dis」、「Rough Neck」、「Too Good To Be True」、「Report to Me」を発表した[ 12] 。
アイザックスとクラークとの提携は1990年代前半まで続き、フレディ・マクレガー (en )、ニンジャマン やJC・ロッジ (en ) とのデュエット も多く発表された[ 12] 。一方でアフリカン・ミュージアムも活動を継続し、アイザックスは歌手として、またはプロデューサーとして継続して作品を発表した。
晩年の活動
2010年のSierra Nevada World Music Festivalで歌うグレゴリー・アイザックス
1997年にはイギリスのポップ歌手シンプリー・レッド がアイザックスの「Night Nurse」をカバーし、全英13位となるヒットとなった[ 4] 。2005年にはアイザックス自身も女性ディージェイ のレディ・ソウ (en )を迎え、同楽曲のセルフカバーを発表した。
長期にわたるコカイン依存によってアイザックスは何度か逮捕された上、歯はほとんど抜け落ちてしまい、キャリア後半は声質も変わってしまった[ 14] 。2007年のインタビューにおいてアイザックスは自身のコカイン依存について次のように語った。
コカインは人を堕落させる武器のようなものだ。いや世界最高の学校のようなものか。私はコカイン高校に高い授業料を払って人生のすべてを勉強したんだ。もちろん今は遠ざけている。
— グレゴリー・アイザックス、[ 14]
2007年、クリケット・ワールドカップ 2007年大会開会式で歌った。さらにスペインのラップグループ、フロウクロリコス (en ) とのコラボレーション作品を発表した。
2008年に発表したアルバム『Brand New Me』は多くの批評家の高評価を得て、2010年の第52回グラミー賞 にノミネートされた。さらに続く2009年にはジンバブエのレゲエ歌手キング・アイザックとの競作『Isaacs Meets Isaac』を発表した。このアルバムはアイザックスの死後、第53回グラミー賞 にノミネートされることとなった[ 15] 。
アイザックスは肺がん の闘病生活を続けていたが、2010年10月25日、サウス・ロンドンの自宅で息を引き取った[ 16] [ 3] [ 5] 。59歳、死の数週間前まで活動を継続していた[ 4] 。11月20日にはキングストンの国立室内スポーツセンターで追悼集会が開かれ、ロイド・パークス、ケン・ブース、フレディ・マクレガー、マヴァード、タムリンズ、ボンゴ・ハーマンら多くのミュージシャンが集まった[ 17] 。
評価
偉大なレゲエアーティスト、そして世界の舞台で活躍した最もエレガントなスターの一人。
グレゴリーの声と作詞能力は素晴らしいものだった。座って何時間も聞くことの出来るソウルフルなシンガーの一人だった。
優美な
バリトン によって絹のような
バラード から
グルーヴ 感のあるダンスソングまでを歌いこなす最も洗練されたレゲエ歌手である。
ディスコグラフィ
スタジオ・アルバム
In Person (1975) Trojan
All I Have Is Love (1976) Trojan
The Best Of Vol. 1 (1977) GG's
Extra Classic (1977) African Museum
Mr Isaacs (1977) DEB
Cool Ruler (1978) Front Line
Soon Forward (1979) Front Line
Slum (Gregory Isaacs in Dub) (1978) Burning Sounds
Showcase (1980) Taxi
Lonely Lover (1980) African Museum/Virgin/A&M/Pre
More Gregory (1981) Mango/Pre
The Best Of Vol. 2 (1981) GG's
Night Nurse (1982) Island/Mango
Out Deh! (1983) Island/Mango
Let's Go Dancing (1984)
Private Beach Party (1985) Greensleeves & RAS
Easy (1985) Tad's
All I Have is Love Love Love (1987) Tad's
Victim (1987) VP
Watchman of the City (1987) Rohit
Come Along (1988), Live & Love
Red Rose for Gregory (1988) Greensleeves & RAS
Warning (1989) Firehouse
Feature Attraction (1989) VP for Mixing Lab records
I.O.U. (1989) Greensleeves & RAS
On The Dance Floor (1990) Heartbeat
Call Me Collect (1990) RAS
Set Me Free (1991) VP, Digital B & Vine Yard
No Intention (1991) VP
Boom Shot (1991) Shanachie
State of Shock (1991) RAS
Past and Future (1991) VP
Pardon Me! (1992) RAS
Cooyah! (1992) Label Unknown...
Can't Stay Away (1992) VP & Xterminator
Rudie Boo (1992) Star Trail
Unattended // Absent (1993) Pow Wow & Greensleeves
Unlocked (1993) RAS
Midnight Confidential (1994) Greensleeves for Xterminator records
Dreaming (1995) Heartbeat
Not a One Man Thing (1995) RAS
Private Lesson (1996) Heartbeat
Mr. Cool (1996) VP
Maximum Respect (1996) House of Reggae
Hold Tight (1997) Heartbeat
Hardcore Hits (1997) Ikus
Kingston 14 Denham Town (1998) Jamaican Vibes
Do Lord (1998) Xterminator
New Dance (1999) Prestige
Turn Down The Lights (1999) Artists Only
So Much Love (2000) Joe Gibbs Music
Future Attraction (2000) VP
It Go Now (2002), 2B1
Life's Lonely Road (2004)
Give It All Up (2004) Heartbeat
Rat Patrol (2004) African Museum
Masterclass (2004) Greensleeves for Blacker Dread records
Revenge (2005) P.O.T.
Substance Free (2005) Vizion Sounds
Come take my hand (2006) Mun Mun
Hold Tight (2008) Mafia & Fluxy
Brand New Me (2008) African Museum
My Kind Of Lady (2009) Rude Productions
ライブ盤
Live (1983) Island
Live at the Academy (1986) Kingdom
Live In France (1994) Sonic Sounds
Live at Maritime Hall (1998) Artists Only
Encore: Live at Brixton (2000) Orange Street
B.O. Reggae Live (2001) Innerbeat Music
Live in San Francisco (2006) 2b1
コラボレーション・アルバム
Gregory Isaacs Meets Ronnie Davis (1979) Plant (with Ronnie Davis)
Double Explosion (1984) Andy's (with Jah Mel)
Two Bad Superstars (1984) Burning Sounds (with Dennis Brown )
Judge Not (1985) Greensleeves (with Dennis Brown)
Double Dose (1987) Blue Mountain (with Sugar Minott )
No Contest (1989) Greensleeves & VP (with Dennis Brown)
Dance Curfew (1997), Acid Jazz – with Dread Flimstone
Father & Son (2000), 2B1 – Gregory Isaacs & Son
Isaacs Meets Isaac with King Isaac (2010) King Isaac Music
コンピレーション・アルバム
Reggae Greats - Live (Island, 1984)
My Number One (Munich, 1990)
Willow Tree (Jamaican Gold, 1992)
Number One (Charly, 1993)
The Cool Ruler rides again - 22 classics from 1978-1981 (Music Collection International, 1993)
Over The Years vol.1 (Jet Star, 1995)
Over The Years vol.2 (Jet Star, 1997)
Over The Years vol.3 (Jet Star, 1998)
Over The Years vol.4 (Jet Star, 1998)
Loving Pauper (Trojan, 1998)
Over The Years vol.5 (Jet Star, 2000)
All I Have Is Love (Trojan, 2002) - 2CD
Cool Ruler, the Definitive Collection (Trojan, 2003) - 2CD
Love Songs (Jet Star, 2006) - 3CDボックス + DVD live
Night Nurse : The Best Of (Trojan, 2011) - 2CD
Love Is Overdue - The Classic GG's Recordings (Charly, 2011) - 2CD
The Ruler - Reggae Anthology (VP Records, 2011) - 2CD + DVD (live à Brixton 1984)
Best of Gregory Isaacs (Trojan, 2017)
フィルモグラフィ
映画
Rockers (1978)
Lands of look behind (1982)
DVD
Live in San Francisco (2003) 2b1
Live @ the Rocket (2003) Jet Star
Living Legend - Live in Concert (2007) Funhouse
脚注
^ 1950年生まれという説もある。
^ a b c d e f g Thompson, p.127
^ a b c “レゲエ界の重鎮、グレゴリー・アイザックスが死去” . Searchina (Searchina). (2010年10月26日). https://web.archive.org/web/20111214192925/http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2010&d=1026&f=entertainment_1026_034.shtml 2010年12月8日 閲覧。
^ a b c d e f g h i “【訃報】グレゴリー・アイザックス、肺がんで死去” . ワールドレゲエニュース (ワールドレゲエニュース). (2010年10月26日). http://www.worldreggaenews.com/article.php?category_id=3&article_id=2007 2010年12月8日 閲覧。
^ a b “レゲエ歌手のG・アイザックスさんが死去” . 時事ドットコム (時事通信 ). (2010年10月26日). http://www.jiji.com/jc/a?g=afp_cul&k=20101026025884a 2010年12月8日 閲覧。
^ a b c d e f g h Kenner, Rob. “Gregory Isaacs, Reggae Singer and Songwriter, Dies at 60” (英語). ニューヨーク・タイムス (ニューヨーク・タイムス ). https://www.nytimes.com/2010/10/26/arts/music/26isaacs.html?_r=1&scp=1&sq=gregory%20isaacs&st=cse 2010年12月8日 閲覧。
^ Kiviat
^ a b c d e f 高橋 (1992, p.68)
^ a b Thompson, p.128
^ a b Larkin, p.136
^ Barrow, p.197
^ a b c d e f g h Thompson, p.129
^ Gregory Issacs , ChartArchive
^ a b c Perry
^ “Buju, Gregory Isaacs among Grammy nominees” (英語). Carribean 360 . (2010年12月4日). http://www.caribbean360.com/index.php/news/jamaica_news/51965.html 2010年12月8日 閲覧。
^ "Night Nurse singer Gregory Isaacs dies aged 59 ", BBC , 25 October 2010, retrieved 27 October 2010
^ "Bring a red rose For Gregory ", Jamaica Observer , 6 November 2010, retrieved 6 November 2010
^ Miles
参考文献
Barrow, Steve & Dalton, Peter (2004) The Rough Guide to Reggae, 3rd edn. , Rough Guides, ISBN 1-84353-329-4
Kiviat, Steve (1996) "Gregory Isaacs ", Washington City Paper , December 6 – 12, 1996 (Vol. 16, #49)
Larkin, Colin (1998) The Virgin Encyclopedia of Reggae , Virgin Books, ISBN 0-7535-0242-9
Miles, Milo (1992) "RECORDINGS VIEW; Gregory Isaacs, the Ruler of Reggae ", New York Times , 2 February 1992
Perry, Andrew (2007) "The cool ruler of reggae makes a comeback ", The Daily Telegraph , 11 January 2007
Thomspon, Dave (2003) Reggae & Caribbean Music , Backbeat Books, ISBN 0-87930-655-6
「グレゴリー・アイザックス インタビュー」『RM』第31号、株式会社タキオン、1992年10月、pp.66 - 73。
外部リンク