エイヌ語 (エイヌご、Äynu , Aini , Ejnu )[ 1] は、中国 の新疆ウイグル自治区 で話される、テュルク諸語 に属する少数言語 である[ 2] 。ウイグル語 の文法 ・音素 と、主にペルシア語 の語彙 からなる[ 3] 。
分布
新疆ウイグル自治区内のエイヌ語の分布
エイヌ語の使用域は新疆ウイグル自治区 のタリム盆地 南部に点在している。話者はかつて「アブダル」と呼ばれ差別された人々で、周囲の集落との通婚はまれであったが、現在はほとんどが農業 や商業 に従事し、周囲の集落との違いはほとんどなくなった[ 3] 。話者は普段はウイグル語を使い、よそ者が来たときに一種の秘密語であるエイヌ語を使う[ 3] 。
音韻
エイヌ語の音素 はウイグル語と同じである[ 3] 。
母音
母音 の音素は以下の 8 個があり、長短 を区別する。
子音
子音 の音素は 22 個ある。
文法・語彙
文法 はウイグル語と同じであり、機能語 もウイグル語のものだが、内容語 は主にペルシア語に由来する。このため、ウイグル語話者には理解できない。例えば、エイヌ語を使い始めるときの決まり文句を国際音声記号 (IPA) で示す[ 3] 。
/kalaŋ kɛslɛː hɛs voldi/ . /soχunni kɛmtɛː qilaili/ . (偉い人たちが現れた。口を慎もう。)
これに対応するウイグル語の文 を以下に示す。
/ʧoŋ adɛmlɛː pɛjdaː voldi/ . /søzni az qilaili/ . (〃)
比べてみると、違うのは内容語だけで、文法と機能語は同じである[ 3] 。
エイヌ語
ウイグル語
意味
/kalaŋ/
/ʧoŋ/
大きい
/kɛs/
/adɛm/
人
/lɛː/
複数
/hɛs/
/pɛjdaː/
いる*
/vol/
なる*
/di/
過去時制
/soχun/
/søz/
言葉
/ni/
対格
/kɛmtɛː/
/az/
少なく
/qilaili/
しよう
*「いる」と「なる」で「現れる」を意味する。
成立過程
エイヌ語話者はもとはペルシャ語 話者であった。そのためエイヌ語は、語彙はペルシャ語由来のものがほとんどでありながら、文法構造はウイグル語 という言語である[ 4] 。ウイグル語 に同化する途中にある、一種の混合言語 と言える。
脚注
^ Lee-Smith, Mei W. (1996). "The Ejnu language". In Wurm, Stephen A.; Mühlhäusler, Peter; Tyron, Darrell T. Atlas of languages of intercultural communication in the Pacific, Asia, and the Americas, Volume 2, Part 1. (Volume 13 of Trends in Linguistics, Documentation Series). Walter de Gruyter. p. 851. ISBN 3-11-013417-9 .
^ Gordon, Raymond G., Jr., ed. (2005), “Ainu” , Ethnologue: Languages of the World (15 ed.), http://www.ethnologue.com/show_language.asp?code=aib 2008年6月28日 閲覧。
^ a b c d e f 林徹 (2003), “「エイヌ語」への縮まらない道のり”, 少数言語をめぐる 10 の旅 , 東京: 三省堂, pp. 94-118, ISBN 4-385-36145-2
^ 藤代節(2000)「アイデンティティと言語変容 : チュルク化のプロセスをおって」京都大学言語学研究 19: 95-115
外部リンク