名称の由来は確実ではない。「ある高貴なイギリス人のために書かれた」ためにイギリス組曲と呼ばれるようになったという伝記作家ヨハン・ニコラウス・フォルケル(Johan Nicolaus Forkel, 1749-1818)の報告が有名である。他に、ヨハン・クリスティアン・バッハが伝承した筆写譜の第1組曲(BWV 806)の表題には「イギリス人のために作曲」(pour les Anglois)の一文がある[2]。イギリス組曲の校訂者デーンハルトは、今日伝わっている大半の筆写譜の大譜表の音部記号の組み合わせが、従来バッハが用いていた「ドイツ式」ではなく「イギリス式」(今日と同じヴァイオリン記号、バス記号)であることが、伝承の真実性を示唆するとともに、名称の由来になったと推測している[1]。
作品はロンドンで活躍したフランス人作曲家デュパール(Charles Dieupart, 1667?-1740)の「クラヴサンのための6つの組曲(Six Suittes de clavessin)」(1701年)の影響を受けている。デュパールはコンセール的なジャンルであった「フランス風序曲(ouverture)」をクラヴィーア組曲(古典組曲)の導入楽章に組み込んだパイオニアの一人でもあった。第1組曲プレリュードの主題は、デュパールの組曲(第1組曲イ長調ジーグ)のモチーフの引用である[1]。