イイダコ (飯蛸、望潮魚、学名 :Octopus ocellatus もしくは Octopus fangsiao )は、マダコ科 マダコ属 に分類されるタコ の1種 である。東アジア の浅海 に生息する小型のタコであり、沿岸域では古代 から食用として漁獲されている。
呼称
種小名 ocellatus は、ラテン語 で「目(のような模様)のついた」の意味で、足の付け根あたりに目立つ眼状紋 のある[ 1] ことを指しての命名。
和名 のイイダコは「飯蛸 」で、その由来は産卵直前の雌の胴部(頭にみえる部位)にぎっしり詰まった卵胞 が米飯のようだからとされている[ 2] 。
方言 として「コモチダコ(子持ち蛸)」や「イシダコ」「カイダコ」などがある。
生物的特徴
形態
体長 は最大でも30cmほどで、タコとしては小型である。体表は低い疣(いぼ)状 突起が多い。体色は周囲の環境により変化するが、腕の間の襞(ひだ) に金色の環状紋が2つあることと、両眼の間に長方形の模様があることで他種と区別できる。また、興奮すると胴(俗に「タコの頭」と呼ばれる部位)や腕に黒い縦帯模様が現れる。
生態・分布
北海道 南部以南の日本 沿岸域から朝鮮半島 南部、黄海、および、中国 の沿岸域に至る、東アジア の浅海に分布する。なお、沖縄で「シガヤー 」と呼ばれるものはイイダコに似ているが、正しくはウデナガカクレダコ である。
波打ち際から水深 10mほどまでの、岩礁や転石が点在する砂泥底に生息する。外洋性のマダコ に対して波の穏やかな内湾に多く、日本本土ではテナガダコ (Octopus minor minor )と生息域が重複する。昼間は石の隙間やアマモ 場に潜むが、大きな二枚貝 の貝殻 や捨てられた空き缶 、空き瓶 なども隠れ家として利用する。夜になると海底を移動しながら餌を探し、海岸性の甲殻類 、多毛類 、貝類 などさまざまな底生生物(ベントス) を捕食 する。天敵 としては、人間のほか、マゴチ やエソ 類などの大型肉食魚が挙げられる。
産卵期 は冬から春にかけてで、石の間や貝殻の中に長径4mm程度の半透明の卵を産む。この卵はマダコ よりも大粒で、ちょうど米粒 くらいの大きさがある。産卵後はメス が卵のそばに留まって卵を保護し、卵が孵化 するとほとんどのメスは死んでしまう。
系統分類
ITIS (統合分類学情報システム)およびNCBI(国立生物工学情報センター) による本種 Octopus ocellatus の分類上の位置は、未確定である。Octopus fangsiao と同物異名の関係にあり、系統分類学 的にはまだ議論の一致を見ていない。
なお、最下段で示したウィキスピーシーズ では Octopus fangsiao に分類されている。
ITIS(統合分類学情報システム)英語版データベース
NCBI(国立生物工学情報センター)英語版データベース
また、Octopus fangsiao には下位分類として次の2亜種 がある。
Octopus fangsiao fangsiao (Sasaki, 1929) :模式亜種 。
Octopus fangsiao etchuanus D'Orbigny, 1839-1841 in Férussac and D'Orbigny, 1834-1848
同物異名
Octopus fangsiao D'Orbigny , 1839-1841 in Férussac and D'Orbigny, 1834-1848
Polypus fangsiao
Polypus ocellatus
利用
漁撈
漁具 二枚貝を用いたイイダコ漁の仕掛け網 (日本、明石市 二見港 )
漁撈 の対象としては主に蛸壺 漁で獲られ、イイダコ用の蛸壺は大きな二枚貝 の貝殻 、または、それを模したプラスチック 製の貝殻が用いられる。
日本では、イイダコ漁専用と思われる小型の蛸壺が古く弥生時代 や古墳時代 の地層 から発見されている。現代におけるイイダコの蛸壺漁は、瀬戸内海 沿岸および九州 西部のものがよく知られている。
なお、瀬戸内海の香川県 の漁獲量は、2002年 に199トンを記録していたが2009年 から激減。2022年 には1.6トンまでの落ち込みを見せた。香川県は漁期を9月1日から10月15日の午前中と定め、テンヤと呼ばれる仕掛けを用いる釣り人に対して資源保護を呼びかけている[ 3] 。
遊漁
海岸からの釣り でわりと手軽に獲ることができる。イイダコは白いものに飛びつく習性があるが、これはイイダコが獲物である二枚貝の白さと見誤って襲いかかるためといわれており、その錯覚 を利用した「テンヤ 」という釣りが知られている。釣具店などでもイイダコ釣りのためのテンヤが市販されており、白色のほか、ピンク、赤など海中でも目立つような鮮やかな着色がなされている。そのほか、スイセン やラッキョウ の球根 、肉の脂身などを鉤 (かぎ)に取り付けて釣る技法がある。また、キス やクロダイ 釣りの外道(本来の釣る目的魚とは違う魚)として上がることもある。
食
一般に、墨袋 ・眼 ・カラストンビ の除去、ぬめり 取り、下茹で などの下ごしらえ が推奨されている[要出典 ] 。煮る ときに酢 を少量入れると柔らかく煮えるとされる。歯応え のある身と、濃厚な旨味 のある卵は美味である。
日本
卵胞が充分成長した産卵直前のメスが珍重される。市場には主に10cm前後のものが出回る。
塩で揉み洗いしてから塩茹で し、丸ごとおでん 種など鍋物 に、もしくは、ぶつ切りにして刺身 や酢味噌 和えなどで食べられる。他に煮物 、炊き込みご飯 (たこめし )、から揚げ など。オスは「スボ」、「スボケ」などの名でよばれ、卵を持たないため市場での価格もメスより安くあまり流通していない。近年ではまるごと一匹をたこ焼き に入れるという利用法もみられる。
韓国
チュクミの名で呼ばれる。炒め物 (ポックム)として野菜と調理される。
ギリシャ、トルコ
メゼ と呼ばれる様々な前菜の盛り合わせの一つとして用いられる。主にグリルで焼き香ばしく焦げ目のついた足を食べる。
釣り具 市販のイイダコ用釣り具「テンヤ」
調理例 イイダコの刺身
調理例 イイダコと
クルマエビ の
鍋物 (日本、
味噌 仕立て)
脚注
参考文献
ウィキスピーシーズに
イイダコ に関する情報があります。
ウィキメディア・コモンズには、
イイダコ に関連するメディアがあります。
外部リンク